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【曲からチャレンジ】5〜痛みと希望

9年の付き合いは長いらしい。「何で結婚しなかったの?」と友達に聞かれる度に、返事に迷った。付き合うには良いけど、一緒に生活する相手ではなかったから?それが一番近い答えな気もするし、全く別にあった気もする。

彼のプロボーズにYESと言えなかった。沖縄のホテルのバルコニー。海に落ちる夕日を前に最高のシチュエーションだったのに、壊してしまった。夏の最高で最低な思い出。

あれから話し合いを重ねたけれど、元には戻れなかった。「そのうち、また会えるといいね」と言った彼が、私に手を差し出した。「そうだね」と笑みを返し、その手をそっと握る。柔かく大きな手。ずっと私を守ってくれた手だ。信号が青に変わると、彼は手を離した。また私に微笑み、私も精一杯笑顔を作る。彼はそれを見届けると、前を向き歩いて行った。もう、振り向くことはない。涼やかな風が吹く。私は、彼が人混みに紛れてわからなくなるまで、見続けた。

あのね、あなたの知らない人と、私は生きることにしたよ。どこかで聞いたら、思いっきり憎んで欲しい。憎んで恨んで軽蔑して、私のこと忘れないでね。私も本気で愛したあなたのことを忘れないよ。

スマフォの着信がなる。手に取り画面を見ると、昨夜も目にした名前とアイコンがある。

「駅に着いたよ、今どこ?」

騒がしい雑音をバックに、低く、心地良い声が聞こえる。

「近くの交差点。すぐ行くね」

私は交差点に背を向けると、駅に向かった。


松任谷由実「青春のリグレット」





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