アートの中の概念結合に励まされる
創造的なものを作っていくコツとしてよく言われているのが概念結合、2つの異なる概念を合わせることだ。素朴なアイデアでいうと「味噌ラーメン」(味噌汁+ラーメン)や「雪見大福」(大福+アイス)などが例となろう。組み合わせる者同士の関連性や類似度が遠いほど、意外性を生み、創造的だという印象を与えやすい。個人的にその極致とも言えるものは、相反するものを1つのコトやモノの中に収めることだと思っている。
結構前の話だが、アーツ前橋で行われた展覧会「山本高之とアーツ前橋のビヨンド20XX展」の中で展示された「ベルトコンベアー」という作品には衝撃を受けた。ベルトコンベアーにそって等間隔に並べられた学校の机と椅子。その1つ1つに子どもが座り、ベルトコンベアーから流れてくるキャンバスに流れ作業で絵筆を入れ、やがて抽象画のようなものが量産されていく。行われていることを良さげに書けば「子どもたちがみんなで作品を作りあげている」のだが、悪い見方をすれば「子どもたちは抽象画作成装置の部品と化して機械的に作業をしている」ともなっている。こんな真逆のありようを1つの場所の中に、同時に表現しているのは本当にすごいと思った。
創造性と言うテーマで研究をやっていると、作家さんや美術教育に携わる方々ともお話しすることがある。教育の場面ともなると、美術や図画工作に抱かれがちな「才能あるものの芸」とか「上級階級のたしなみ」のような印象を廃し、できるだけ万人のもの、一部の才ある者だけでなく、みんなで作り上げることを大事にする、というような志を聞くこともある。基本的には私もそう思っているのだが、「みんなでやるもの、みんなのもの」をこじらせるとこのベルトコンベアーのようになってしまうのではないかと言う気もしていて、教育実践などをみる場合にはよくこの作品のことが教訓として頭をよぎる。
もう一つ、紹介したいのが鈴木康広さんの作品「現在/過去」(2002)だ。ハンコには「現在」と書いてあるが、いざ押してみるとその印鑑は「過去」と印字される。印字されたものは痕跡なので「過去」になるという、押す行為を通して2つの概念が明確になるという作品。現在と過去という同時に成り立たないものの表現を押す行為を通して両立させているようで面白い。
ここまでアイロニカルというか、相反するものをつなげていこうとする作品づくりはなかなか難しいだろうが、こういった作品のやり方から創造的なアイデアを見つけるヒントは得られるように思う。同時にできない、両立しないと思っていたことが、行為や行動を通して1つの場所や作品の中に成立することがあるのだ思うと、行き詰っている自分にも「まだ考える余地があるんじゃないか」と奮起できる。