再現性のある大ヒット化粧品の作り方 ~初挑戦で半年20万個ヒットの裏側~
ライター紹介:
加藤聡太:株式会社MD副代表 ベイコスメティックス社のマーケティング責任者。100社以上のマーケティングコンサルを実施。
早瀬本基:株式会社MD プロダクトリーダー ベイコスメティックス社 セールスリーダー。400以上の化粧品ブランド立ち上げを支援。
会社紹介
私たち株式会社MDはP&Gや電通など様々なバックグラウンドから来たマーケター集団が立ち上げたマーケティングカンパニーです。
マーケティングの民主化を掲げ、現在4期目の会社ですが、3期目までは主にマーケティングコンサルティング事業を中心に売上を伸ばしてきておりました。
他方で、マーケティングのDemonstrate(お手本を見せる)ことを掲げている会社として、他社事業に対するアドバイスを出すのであれば自社ブランドを立ち上げ、実際にヒットさせられることを証明する必要がある。
そういった考えの元、マーケティングコンサルティングだけでなく、実際に商品を開発し、展開していく自社ブランド事業を複数展開してきました。
自社商品「カプセルセラム」の紹介
複数の自社ブランド立ち上げの中で、自身初となる一般向け化粧品として美容液「カプセルセラム」を23年8月に販売開始しました。
LOFT、PLAZAなどのバラエティーショップや7000店舗を超えるドラッグストアで販売され、半年20万本販売を達成。
楽天スキンケア部門1位、Amazonベストセラーなどを獲得し、あらゆる販売チャネルで欠品になるほどの大ヒットとなっておりました。
本記事では、どのように化粧品ブランドをヒットに導くことができるのか、を実際のケースを例に紐解いてお話していきます。
ベイコスメティックス式化粧品ヒットの生み方
現状の市場の捉え方
加藤
現在、化粧品作りを行うプレイヤーは、年々数も幅も大幅に増えています。この15年で化粧品製造販売業者は1.5倍程度に増えており、ここ3年くらいの伸びは特に大きくなっております。
また、化粧品ビジネスに参加しているプレイヤーは、化粧品を専業にするトップメーカーから個人レベルや異業種の企業、はたまた海外の新興ブランドなど幅、量ともに拡大しているのが現状です。
その結果、毎年決まった時期に新作を出すトッププレイヤーの商品だけでなく、年中様々な新商品が生まれている状態になっております。
その結果、現状消費者に起こっているのは、「何がいいのか分からない」が溢れている状態です。
市場の中には、成分派閥(美容成分が重要で、常にいい成分を求めている)やブランド派閥(有名ブランドに信頼を置く)など様々な観点でモノを選ぶ消費者がいますが、実際に日々大量に生まれる商品の中で自分に最適なものを見つけられていると感じ、落ち着いている人は一握りです。
「もっと良い化粧品があるはずだ」という感覚をかかえながら、常に新しい商品にさらされている結果、消費者はパンク状態になっており、その中で新商品を出してもほとんどは埋もれてしまい、購入が発生しない状態になっております。
現市場におけるヒットを生むたった一つの指標
加藤
そういった市場環境の中で、商品が売れるかどうか、を左右する指標は「おすすめ」に触れた人の数に比例しております。
つまり、「いかにおススメを誘発するか」が市場攻略のための最重要課題になっております。
カプセルセラムの爆発的な販売が始まったのは、やはり「強烈なおすすめ」が増え始めたタイミングで始まりました。Tiktokでトータルリーチは2000万回を超え、店頭、EC含めて爆発的な売りにつながりました。
最近の他事例では、I-ne社のヘアケアブランド「YOLU」が大きなヒットになりましたが、こちらも大きく売れ始めたのは一つの投稿がきっかけだったと担当者が語っています。
YOLUをはじめ、ヒットを連発しているI-ne社ですが、そのヒットになり方はいつもある程度同じパターンになっております。
プロモーション施策として、バス停広告を始め、広告露出を大々的に実施してベースとなる認知を形成し、そこに合わせて力を入れて実施しているのが「インフルエンサーマーケティング」。YOLUのヒットもインフルエンサーが「サロン超えた」という投稿一発で売上が爆発的に増加したように、いかに強力な「おすすめ」が多くの人の目に触れるようにするか、が施策の肝になっていることが分かります。
物が売れる「おすすめ」を作る3つのポイント
では、実際にモノが売れるように、どうすればこの「おすすめ」を誘発することができるのか。重要だと思う3つのポイントを以下に紹介していきます。
①他と被らない明確な買う理由(コンセプト)を打ち出すこと
化粧品OEMでお客様からご相談をいただく際に、よくあるケースは「市場にあるものに満足していない。現状市場にある商品より良いものを作りたい」、というもの。
「良いものを作れば、誰にとっても欲しいものであるはず。」という意識が前提になっていますが、この「良いもの」というものは実は非常に定義が難しい。
例えば、「ビタミンC美容液で良いものとは?」という質問に対して、
「濃度が濃ければいいものである」、「ビタミンC以外の成分も豊富である」などいろいろと答えることができます。どれも間違っていないのですが、いずれの答えも、全員にとって必ずいいものとは言えません。
そこで、商品を作る際に意識したいのは、「誰にどんな価値のある商品なのか」という商品のコンセプトを明確にすることです。
また、コンセプトを明確する際には、一般的な価値を定義するより、ニッチでもいいので尖った価値に特化するほうが買う理由が分かり、手に取られやすいものになります。
例えば、コーセーの出している「ごめんね素肌」という商品。
こちらの商品のコンセプトは、「飲み会などで夜更かしをすることが多く、メイクも落とさず寝てしまうなど肌に悪い習慣をついしてしまう女性(おそらく20-30代など若年層)」に対して、「やってしまった!と思った際に、集中的なケアをすることで肌荒れを防ぐ」という価値を提供しております。
この商品であれば、買う理由もシーンも明確に浮かぶと思います。
先ほど例に出していた「YOLU」では「寝起きの髪のパサつきが気になる人」に対して「寝ている時間を有効活用してヘアケアを実現する」という価値を明確に打ち出しております。
また、カプセルセラムではビタミンC市場が形成され、市場の様々なビタミンC美容液がヒットしている中で、「とにかく高効果なビタミンC美容液を求めている人」に対して「(使う瞬間までカプセルに閉じ込めているので)圧倒的に新鮮なビタミンCが気軽に使える」という価値を打ち出しています。それを表現して「はじけて生まれる生美容液」というキャッチコピーで各種露出はされています。
②ターゲットの「おススメ」を誘発したくなる仕掛けを作るコト
商品のコンセプト(明確な買う理由)を打ち出すのは非常に重要です。
しかし、日々新しい商品をが生まれている中で、コンセプトが秀逸だから、という理由だけで、あまたある商品の中から抜きんでることは正直難しいです。明確な買う理由を作ったとしても、それが信頼できる形で目に触れることは非常に困難だからです。
なので、結局どれだけの人から「おススメ」させることで、この買う理由を知ってもらうかが重要になるのですが、「おススメ」もカンタンには生まれないのが現状です。
PRでインフルエンサーに投稿をお願いしても、一切流行らずスベッて売りにつながらない、というケースは嫌というほど見てきました。重要になるのは、単発のインフルエンサーへの投稿ではなく、如何に、中小規模のインフルエンサーレベルや一般の方も含めて投稿したくなるか、の仕組み作りが非常に重要になります。
特に、一般市場への商品投下が初めてだったカプセルセラムではこの仕組み作りが非常に奏功しました。
具体的にはおススメをしやすくするために2点こだわったポイントがございます。
「とにかく映えにこだわる」:商品の見た目や使用時の様子などをとにかく動画映えするようなものに仕上げることをこだわりました。
実際に、試作段階ではカプセルの見た目が今のものより大きくさらに多くなっていましたが、カエルの卵のようで非常に見た目がいまいちな状態でした。ここは商品の成否を分ける大きなポイントとして、パッケージ、内容の見た目含めて非常に長いこと試行錯誤しました。
「発信の材料を提供する」:Tiktokで他のおすすめを誘発するために重要になったのが、自社アカウントでの動画素材を含めたネタ提供。
例えば、上記のような「カエルの卵」もネタとして発信していますが、この部分を切り取って発信してもらった動画も存在しております。
開発背景や商品の特徴など、ユーザーが理解して引用できることで、おススメのハードルが下がりより誘発しやすい環境が出来上がりました。
③ハードル低く、目に触れ手に取れる環境を作る
最後のポイントは、モノづくりをする際に意外と見落とされがちな販売チャネルについてです。
どこで商品を売るのか、は商品を作る際に非常に重要になります。
「ドラッグストアで売れる商品」と「Webの単品通販で売れる商品」は異なるものです。
非常にカンタンに言うと、ドラッグストアでは「低関与な人でも買いやすく、より安くもの」であり、Web単品通販では「リピート購入を前提に成分など尖った特徴を作ったもの」だったりします。
モノづくりをする際に商品の特徴と販売チャネルは密接不可欠なので、企画段階ではそれぞれを行ったり来たりしながら決めていきます。
ただ、より多くの人からおススメを誘発してモノを売る際には、「おススメする人が勧めやすいように商品購入のハードルを下げる」ことは非常に重要です。
カプセルセラムのケースでは、バラエティーショップでの先行販売の後に全国7000店舗のドラッグストアに配架を一気に進めました。
結果的に、「ドンキで売っているあの商品!」みたいな投稿が非常に多くみられるようになりました。
これだけ大規模に展開する必要は必ずしもありませんが、ポイントは「(Web限定で販売するにしても)如何にハードルを下げるか」ということです。
「Amazonの上位検索でよく出てくるあの商品、めちゃくちゃいいよ!」という状態だとおススメしやすいですが、「よくわからない公式HPだけで買える商品」はやはりおススメしづらいものです。
このようにいかにおススメへのハードルを下げられるか、において販売チャネルは非常に検証していく必要があります。
以上までの部分で、購入を促すための企画、販促の「売る」部分をお話してきましたが、以降で売れるためのモノづくり、「作る」部分を実際にカプセルセラムのモノづくりを担当した早瀬からお話します。
コンセプトを体現する化粧品のモノづくりで気を付けることは?
早瀬
私は前職がファブレスの企画開発OEMだったのですが、日々クライアントの商品がどうすれば、もっと売れるのか?消費者に長く繰り返し使ってもらえるのか?そのような商品開発はどうすればいいか?と考えていました。
今回の「カプセルセラム」の開発の時も「コンセプトの明確化」を軸にその上で、消費者の悩み解決ができる商品開発を行いました。
その中で僕が思うのは、コンセプトを体現する化粧品のモノづくりにおいて、以下の点に特に注意する必要があります。
1. コンセプトの明確化と共有
まず、化粧品を通してどのような価値や体験を消費者に提供したいのか、コンセプトを明確に定義することが重要です。その際、ターゲット層や競合製品との差別化ポイントも明確にしましょう。
コンセプトを言語化し、チーム内で共有することで、開発過程における意思決定の統一性を図ることができ、また、社内外へのコミュニケーションツールとしても活用できるのでおすすめです。
2. コンセプトに基づいた素材・成分の選定
化粧品の性能や使用感、香り、色など、すべての要素がコンセプトに沿っている必要があります。そのため、素材や成分を慎重に選定することが重要です。
例えば、今回の半年で20万本売れた弊社の商品であれば「はじけてうまれる、生美容液」というコピーが重要であったためここから逆算がする必要がありました。
「生」の定義とは、ビタミンCの場合「アスコルビン酸」そのものを指します。巷でよく見るビタミンC美容液には「ビタミンC誘導体」が配合されており、その成分をビタミンCと呼んでいるメーカーが多いように思います。
弊社の「カプセルセラム」のカプセルの中には「生」のアスコルビン酸が閉じ込めてあるので、本来酸化が早いとされる「ビタミンC」の酸化を守ってくれる作用が物理的に働いています。まさにここに製造の技術が詰め込まれており苦労した部分でもあります。
「売る側」「作る側」で視点は違いますが議論を繰り返し、目指すところが同じであれば、必ずいい商品が作れるのだと思います。
3. コンセプチュアルなパッケージデザイン
パッケージデザインは、消費者に最初に与える印象を左右する重要な要素です。コンセプトを視覚的に表現し、ターゲット層に訴求するデザインが必要です。
例えば、「高級感漂うデパコスにも負けない1万円以上の化粧品」というコンセプトであれば、メタリック素材や曲線的なデザインを取り入れることができます。他にもECを使って販売するのであればSNSで映えるような見た目であることが大事です。
パッケージデザインは奥が深く、特に化粧品のパッケージデザインとなると薬事的な確認作業が入ったりと通常のデザインとは異なります。弊社ではデザイナーが常駐しており化粧品パッケージに特化しているところも強みになります。
4. ストーリー性のあるコミュニケーション
化粧品の背景にあるストーリーや開発者の想いを伝えることで、消費者の共感を生み出すことができます。
発売する会社がどんな発信をすればいいのか、どんなバックグラウンドなのかなどを商品開発初期にくみ取り「同じ立場」に立って開発していくOEMが弊社だと思います。
ウェブサイトやSNS、店頭での販促活動などを通じて、コンセプトを体現したストーリーを発信しましょう。
その他にも必要な要素を挙げておきます。
①一貫性のあるブランド体験の提供
化粧品そのものだけでなく、購入体験やアフターサービスも含めて、一貫性のあるブランド体験を提供することが重要です。
例えば、「ラグジュアリーな化粧品」というコンセプトであれば、高級感のある店舗や丁寧な顧客対応が必要です。
②顧客からのフィードバックの収集と改善
発売後も顧客からのフィードバックを収集し、製品やサービスの改善に役立てることが重要です。
コンセプトと実際の製品とのギャップがないか、常に検証し、必要に応じて修正を加えましょう。
③トレンドへの対応
化粧品市場は常に変化しており、新しいトレンドが生まれています。コンセプトを維持しながらも、トレンドを取り入れることで、常に新鮮な魅力を保つことができます。
④競合製品との差別化
競合製品との差別化ポイントは、コンセプトを明確にする上で重要です。独自の強みや価値を打ち出すことで、消費者に選ばれる理由を作ることができます。
⑤法規制への遵守
化粧品は、安全性や品質に関する法規制が厳しく定められています。開発過程において、これらの法規制を遵守する必要があります。
⑥コスト意識
コンセプトを体現しながらも、コストを抑えることも重要です。利益率を確保し、事業を継続していくために必要なことです。
上記の点を踏まえ、コンセプトを体現する化粧品づくりに取り組むことで、消費者に価値を提供し、成功を収めることができるでしょう。
まとめとベイコスメティックス社の紹介
上記で紹介してきた通り、売れる化粧品のモノづくりをしていくためには、市場調査やコンセプト策定などの商品企画から始まり、販売戦略を策定し、処方開発、パッケージデザイン、テスト・評価、量産体制構築などモノづくりをし、実際にプロモーションなどで販売促進を行うという一連の流れで行われます。
各段階において、一貫してブレずにコンセプトを念頭に企画していくこと、そして、それを機能性、使用感、安全性、コスト、法規制などを考慮して実現することが重要になってきます。
ベイコスメティックス社では、マーケティングコンサルティングを行っていたマーケターと開発実績が豊富な製造担当者/研究担当者が常にコミュニケーションを密に取り、製造を検討しているお客さまのサポートを行っております。
ヒットをする、という観点で事業目線からアドバイスできる唯一の化粧品OEMと自負しておりますので、興味のある方はぜひお問い合わせください!