【精鋭俳句叢書 lune(月シリーズ)(その2)】自分を研究課題として詩的に考えてみる
アメリカで生まれ、詩人として活躍したエラ・ウィーラー・ウィルコックス。
やさしい文体は、どの世代にも好まれ、多くの作品を通して、
「何であっても、それがあなたの最善」
というメッセージを伝えてきました。
この言葉、18世紀の詩人アレキサンダー・ポープの
「何であっても、それが正しい」
を写したことを示唆しているそうです。
ポープは、本書の中で
「人間論」(岩波文庫)ポウプ(著)上田勤(訳)
「私たちが航海している人生という大洋では理性は羅針盤となり欲望は嵐となる。」
と語っていましたね。
また、
「我々の判断は腕時計と似ている。一つとして同じ時を指さないのに、めいめい自分の時計をあてにしている。」
「人間の正しい研究課題は人間である。」
とも語っていたので、人間の前に、自分を研究課題として、以下の点について、
課題1:言い訳は嘘を守ってしまう
課題2:人間はすべて善であり悪でもあり極端はほとんどなくすべて中途半端
課題3:未来についての無知
課題4:蟻の共和国と蜜蜂の王国に学ぶ
課題5:見ようとしない限り欠点は決して見えない
課題6:物事を肯定的に考える
課題7:自愛は現在の意識で当面の利益を見てしまうため理性により未来と結果を考える
エラ・ウィーラー・ウィルコックスの言葉を参考にして、巡ることばの旅をしてみました(^^)
■仕事で疲れたとき
「人生が歌のように流れているときに楽しい気分になるのはたやすい。
だが、立派な男とは八方ふさがりのときでも笑える男だ。」エラ・ウィーラー・ウィルコックス
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頭と心が、忙しくて疲れたとき。
そんなときは元気にしてくれる何かでなくて。
ゆっくり休める安らぎや落ち着きが欲しくなりますよね。
水彩画のように淡く穏やかに語ってくれるような。
聞き(聴き)たいのは、
「凝ったのでなくていい」
「心に沁みる」
もので十分で、
「一日の煩いを忘れさせてくれるような」
言葉だったりします。
仕事をしていても。
落ち着かない夜でも。
ささやかな「うた」を心に響かせている人や、大げさでなく、つつましくやさしい言葉を心に響かせている人の「うた」に癒されたいんですよね。
身体も心も疲れた夜は、特に(^^)
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The Day Is Done
Henry Wadsworth Longfellow
The day is done, and the darkness
Falls from the wings of night
As a feather wafted downward
From an eagle in his flight.
I see the lights of the village
Gleam through the rain and the mist,
And a feeling of sadness comes o’er me
That my soul cannot resist:
A feeling of sadness and longing,
That is not akin to pain,
And resembles sorrow only
As the mist resembles the rain.
Come, read to me some poem,
Some simple and heartfelt lay,
That shall soothe this restless feeling,
And banish the thoughts of the day.
Not from the grand old masters,
Not from the bards sublime,
Whose distant footsteps echo
Through the corridors of time.
For, like the strains of martial music,
Their mighty thoughts suggest
Life’s endless toil and endeavor;
And tonight I long for rest.
Read from the humbler poet,
Whose songs gushed from his heart,
As showers from the clouds of summer,
Or tears from the eyelids start;
Who, through long days of labor,
And nights devoid of ease,
Still heard in his soul the music
Of wonderful melodies.
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一日の終わり
ヘンリー・ワズワース・ロングフェロー
一日が終わり
夜の翼から暗闇が舞い降りる
羽根が舞い降りるように
飛び去る鷲の羽根が
村に明かりが灯り
雨と霧の向こうに光が滲む
そして僕は悲しみの感情に襲われる
魂が抗えないような悲しみの感情に
悲しみか憧れか
苦しみとも違う感情
ただ悲しみに似た感情
霧が雨に似ているかのように
ねえ 詩のひとつでも
読んで聞かせてくれないか
凝ったのでなくていいんだ
心に沁みるのをひとつ頼むよ
心がいつも落ち着かないから
一日の煩いを忘れさせてくれるような詩を
偉大な詩人の詩じゃなくていいよ
孤高の詩人の詩じゃなくていいんだよ
今も足跡を響かせ
時の回廊にこだまするような詩じゃなくていいよ
だって 軍楽隊の響きのように
壮大な思いが奏でるのは
人生の終わりなき苦しみと奮闘
でも 今夜僕が欲しいのは安らぎなんだ
聞かせてくれよ 慎ましい詩人の唄を
心の底から思いが溢れるような唄を
雲からこぼれる夕立のような唄を
頬を伝う涙のような唄を
仕事の長い一日のあいだも
安らぎのない夜のあいだも
魂に響かせているひとの唄を
その麗しき旋律を
「ワーズワス詩集(対訳) イギリス詩人選 3」(岩波文庫)W. ワーズワス(著)山内久明(編)
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■仕事がうまくいかなかったとき
「収穫期を迎えることはないかもしれないが、あなたの一つ一つの行動が種をまいているのです。」エラ・ウィーラー・ウィルコックス
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仕事は、常に、順風満帆というわけにはいきませよねぇ(^^;
仕事という道で、躓いたり、転んだりしながら、生きる日々。
黙々と、手と、足と、頭を、働かせて、前に進むうちに、気づいたら、明るい海に出るものなのかもしれません、ね(^^)
人も、朝起きて、昼間は働き、夜になれば寝る、というサイクルを、繰り返していて、「ひとの世が待ち構えている」ってことを実感する時ってありませんか。
人間だって、実際は、そのサイクルに合わない暮らしをする場合もあるわけだし。
汗水流して働くよりも、悠々自適の暮らしができたら、そりゃ楽だと思うわけですが、うまくいかないことがあっても。
自分という存在を越えた先にいる人たちがいて。
そこに生きる人たちに、自分(の仕事)がつながっていると思えたら、もうひと踏ん張りして、がんばろうと考え直し(省み)て、朝日のように爽やかに心を照らす新たな一日を、踏み出す感じかな(^^)
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Parting at Morning
Robert Browning
Round the cape of a sudden came the sea,
And the sun looked over the mountain’s rim:
And straight was a path of gold for him,
And the need of a world of men for me.
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朝の別れ
ロバート・ブラウニング
岬を越えると 目の前に海がぱっと開けた
山の端から太陽が顔をのぞかせていた
太陽の前には 黄金に輝く一筋の道が伸びる
ぼくの前には ひとの世が待ち構えている
「ブラウニング詩集 対訳」(岩波文庫)ブラウニング(著)富士川義之(編)
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■ちょっといいことがあったとき
「吹いている風がまったく同じでも、ある船は東へ行き、ある船は西へ行く。
進路を決めるのは風ではない、帆の向きである。
人生の航海でその行く末を決めるのは、なぎでもなければ、嵐でもない、心の持ち方である。」エラ・ウィーラー・ウィルコックス
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日常生活の中で、キラッと、光るような、素敵な瞬間に出会うことがあります。
大きな成果を求めて、忙しくしているときに、ふと訪れる素敵な出来事。
遠くばかり見ていて、気づかなかった身近な宝物。
そんなことを考えると、夜、当てもなく走って行って、夜空を見上げたくなります。
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Night
Sara Teasdale
Stars over snow,
And in the west a planet
Swinging below a star—
Look for a lovely thing and you will find it,
It is not far—
It never will be far.
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夜
サラ・ティーズデイル
空に星 足元に雪
西に惑星
星よりも近く軌道を回る
素敵なことに出会いたい?
きっと見つかるよ
それは遠くないよ
遠くなんかないよ
「The Collected Poems of Sara Teasdale(Sonnets to Duse and Other Poems, Helen of Troy and Other Poems, Rivers to the Sea, Love Songs, and Flame and Shadow)」Sara Teasdale(著)
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■春が来て心がうきうきするとき
「すべての出来事には意味があるの。
その意味を理解することが、これからの私たちの人生の礎になるなの。
変わらないのはときめく気持ち。
それだけはずっと変わらない。
さあ、真っ直ぐまっすぐ、生きていきましょう。
今日もいちりんあなたにどうぞ。
ひとつひとつの悲しみには意味がある。
時には、思いもよらない意味がある。
どんな悲しみであろうと、でもそれは、このうえなく大切なもの。
太陽がいつも朝を連れてくるように、それは確かなことなのですよ。」エラ・ウィーラー・ウィルコックス
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ケース・スタディ1:春
心がうきうきするのは、何故でしょうか。
春に、どんな魔法が隠されているのか。
頭も、心も、少し上を向いて歩きたくなるのは、暖かい空気に誘われて、花も、緑も、同じように、グッと背を伸ばすからかもしれませんね(^^)
春雨なら。
春だから。
顔を上げて。
思い切り、雨に濡れてみる。
涙に濡れてみるように。
そうすると、哀しみも。
キラキラの輝きを纏うから。
そう考えると、庭先で、花や葉に乗った雨粒の一つ一つが、愛おしく思えてきませんか(^^)
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Alchemy
Sara Teasdale
I lift my heart as spring lifts up
A yellow daisy to the rain;
My heart will be a lovely cup
Altho’ it holds but pain.
For I shall learn from flower and leaf
That color every drop they hold,
To change the lifeless wine of grief
To living gold.
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錬金術
サラ・ティーズデイル
わたしは心を躍らせる
春が来るから
春が黄色いデイジーを空に伸ばして
雨に濡らすから
わたしの心は小さなコップ
悲しみしか入らないの
花に葉っぱに 教えてもらおう
花に葉っぱに
光る滴が色づくように
生きる力もなかった
わたしの悲しみのワインも
よみがえる 金色の輝き
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ケース・スタディ2:幸福感
幸せ。
嬉しくて。
楽しくて。
不安もなく。
満たされた気持ち。
そんな幸福感を、心底味わえる瞬間は、人生の中で、どれほどあるでしょうか。
幸せなときは、不思議と、顔もほころんで、足取りも、軽くなってしまうもの。
幸せを感じているときって、自分でも、なぜかわからないもの。
幸せになろうとして、幸せになるというよりも、気づいたら、幸せな瞬間のただ中にいる。
そんなときは、なぜ、どうして、幸せなのかなどと頭で考えずに、ただ、その幸福感に、浸りたいものですよね(^^♪
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The Sun
John Drinkwater
I told the Sun that I was glad,
I’m sure I don’t know why;
Somehow the pleasant way he had
Of shining in the sky,
Just put a notion in my head
That wouldn’t it be fun
If, walking on the hill, I said
“I’m happy” to the Sun.
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おひさま
ジョン・ドリンクウォーター
おひさまに向かって言ったよ
うれしいって
なぜなのか そんなの分からないけど
なんだか 陽の光が気持ちいいから
空に輝いているから
そんな気がしたんだ
楽しいんじゃないかなって
丘を歩きながら
太陽に向かって言ったらね
「幸せだよ」って
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↓
この詩の様に、
「そんな気がしたんだ。楽しいんじゃないかなって」
というような思いつきに従うことが、幸せの種のひとつかなと思ったりもします。
こうしたら楽しいかな。
こう言ってあげたら喜ぶかな。
そんな小さな思いつきで行動した結果。
自分の周りの世界が明るくなる。
そんなときは、空に輝く太陽と、心のなかで握手したくなりますよね。
とはいえ、良かれと思ってしたことが、かえって問題を引き起こしてしまったり、幸せを味わった次の瞬間に絶望を感じたり、人生はうまくいかないことも多いですよね(^^;
そんな中で、
「幸せだよ」
って、自然と言葉が漏れる瞬間。
味わいたいものですねぇ、たくさん、いっぱい、ね(^^♪
【精鋭俳句叢書 lune(月シリーズ)(その2)】
後藤信雄句集『冬木町』
「日本がすつぽり入る秋の暮」
◆自選十五句より
白れんの開きかけたる此の世かな
なによりも親しきものに柿若葉
群衆が群衆を見る師走かな
沈むものみな沈ませて冬の水
しぐるるや石にもかつて火の記憶
対岸の人も見てをり初桜
半分に西瓜割りたる明るさよ
枯山を大きな墓と思ふかな
はるかまで水のきらめく麦の秋
四方から眺めつくして冬木かな
彌榮浩樹句集『鶏』
「鶴帰る滋賀銀行の灯りけり」
◆自選十五句より
よく糊のききたる空や梅の花
鶯の声なり左曲がりなり
昼過ぎに着く草もみぢ蔦もみぢ
大阪に来て水鳥の貌ならぶ
べた凪の毛布に音もなく潜る
秋口の犬??(ばうばう)と洗ふなり
五条から歩いて雨の唐辛子
鼻かめば篳篥の音鷹渡る
雪の日の薤(らつきよう)ひかるカレーかな
淡雪に床映りよき拳士たち
廣瀬悦哉句集『夏の峰』
「ずつしりと大根ほんたうの重さ」
◆自選十五句より
きんぽうげ野は金色の夕明かり
雷の近づいてゐる野外劇
つはぶきや紅さす母を見て通る
舟虫の真つ黒に散る月夜なり
水の輪を出られずにゐる春の鯉
炎天のどこ歩きても印度象
昼顔や嫌ひな人に会ひにゆく
秋の風きりん遅れて歩き出す
春筍の土まみれなり別れなり
空つぽの鳥籠十六夜のひかり
しなだしん句集『隼の胸』
「さくらからさくらへ鳥のうらがへる」
◆自選十五句より
おそろしき音して島の扇風機
雪山の頂ひとつづつ咲きぬ
盆栽になつて百年風薫る
あらためて鶏頭の数かぞへけり
或るあしたすず虫ららと死にたまふ
ジュラルミンケースが月の坂をくる
さかさまに森を巻きとる蝶の吻
夜を来る馬の輪郭星涼し
秋しぐれ新撰組のやうにくる
紙漉の女のかほもながれけり
小沢藪柑子句集『商船旗』
「梅雨寒やことに陸橋渡るとき」
◆自選十五句より
桟橋に蟹の乾ける島の秋
石積に日が照りながら春の雨
野路の秋どこまでも行けさうな気が
諏訪橋と鍛冶橋とある村の冬
ループ橋巻きついてゐる秋の山
かたばみのいつでも咲いてゐる黄色
水鳥と川と流れてゆけるかな
陽炎のなかの南方郵便機
蛤の大蛤の篩かな
帰らないラヂオゾンデを春風に