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【叢書俳句シリーズ】表現と創造の境界
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創造として
誰も見たことのない
イメージを
つくる
人達がいる
空を見上げれば
そこにあるけれど
見逃しがちな景色
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その日にしか会えない
景色を閉じ込めたい
真上に白い月
眼の前に朝日
見えたある日の朝に
出逢えた
彼らを
一枚に収める
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この時
奇跡を
閉じ込めたんだ
表現として
誰も見たことのない
イメージを
育み
育てて
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さて、私達は、言葉を通して考え、また、自分の思いを伝えているのですが、実際のところ、言葉では、表現できないものも多いのも事実です。
言葉で表現し、伝えることのできる領域を形式知の領域とし、言葉だけでは、伝えることのできない領域を、暗黙知の領域として、分けてみることができます。
「暗黙知の次元」(ちくま学芸文庫)マイケル ポランニー(著)高橋勇夫(訳)
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1042夜 『暗黙知の次元』 マイケル・ポランニー - 千夜千冊
例えば、藤沢周平氏の小説に、隠し剣シリーズがあります。
「新装版 隠し剣秋風抄」(文春文庫)藤沢周平(著)
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この中に、盲目剣谺返しという隠し剣があるのですが、この秘剣も、読者に読まれた瞬間から、作者を離れて、個々の読み手の意識の中に、盲目剣谺返しの世界が創造されていきます。
この小説は、山田洋二監督で、映画(※)にもなっており、
※:
「武士の一分」は、2006年製作の日本映画。
主演は木村拓哉。
原作は、時代小説「盲目剣谺返し」(『隠し剣秋風抄』収録、藤沢周平作)。
山田洋次の監督による「たそがれ清兵衛」「隠し剣 鬼の爪」と並ぶ、「時代劇三部作」の完結作。
この段階で、更に、また、別の解釈で、世界が創造されていきました。
その様な例は、数多く有り、その映画を見た人は、更に、小説を読んだイメージとは異なる、別の世界を、意識の中に描きだすと推定できます。
この過程に依って、藤沢周平氏が描いたイメージが、小説の中で、言葉に変換された時点で、読み手は、自分の過去の記憶の断片を想起させ、記憶を、新しい文脈で再編集し、創造的な活動を繰り返していくものと推定されます。
暗黙知の領域から形式知の領域へ。
また、形式知の領域から暗黙知の世界へと。
ダイナミックに行き来することにより、創造的に変化していくことになります。
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創造的思考とは、問題に直面したときに、斬新かつ有意義な着想を生み出せる思考を指します。
学校教育では学ぶ機会のない思考様式です。
人間社会の多様性に対応し、目まぐるしく変化する世界を活き抜いていくために必要不可欠な思考と考えられています。
創造的思考の過程を支えている原動力は、主に、
■新しいことに対する好奇心
■持続的な思考に対する集中力
です。
そのため、創造的思考を身につけるには、
■未知の領域に思考を進めていくことへの不安に打ち勝つ冒険心
■既成の枠組みから外れることを楽しむ遊び心
■自分の意見を展開させていく自信
が必要であると考えられています。
創造的思考が注目される理由としては、
・人口構造の変化
・少子高齢化
・グローバル化
・エネルギー不足
・テクノロジーの進展
・働き方の多様化
など、私達を取り巻く社会的環境は、加速的に変化を続けています。
特に、将来の予測が困難なVUCAの時代と呼ばれる現在では、市場構造の変化などにより、多くの企業がこれまでのプロセスや既存事業では、大幅な成長が見込めない事態に陥っています。
加えて、労働の一部が、AIに代替される社会が近いうちに訪れることも予想されており、このAI社会を活き抜くためには、さまざまな文化や考え方をもつ人たちと意見交換をしながら、問題を解決し、新たなものを生み出したりしていくことが不可欠です。
つまり、これからの多文化共生の時代においては、自分と異なった考えや思いをもつ人と対話を重ね、共通する部分を見付けだし、新たな知や価値を創造する人材の育成が強く求められているのが現代社会です。
【参考記事】
おとなの小論文教室。感じる・考える・伝わる!Lesson641 理解と表現と創造と
【参考資料】
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但し、創造的な思考と言われても、
■理解から表現
■表現から理解
なのか、注意しておく必要がありますね(^^;
その点を理解するのに、「不易流行」という四字熟語を、大修館四字熟語辞典で調べてみると、次のように説いています。
「大修館 四字熟語辞典」田部井文雄(編著)
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「変化することのないものと、変化してやまないもの。
松尾芭蕉は、俳諧は、永遠に変わらないものと時に応じて変化するものとの両面に立脚しており、風雅の誠を求めて変化し続けていくことこそが俳諧の不変の価値を実現する、という不易流行論を説いた。」
初文は、文字通りの解説なのですが、第二文の指摘が面白くて、芭蕉の俳諧論の根本を端的に解説していました。
「風雅の誠を求めて」
が、時空を超えた俳諧論の不易なる前提、本質であり、続く、
「変化し続けていくこと」
が流行の部分であると、そう求めるべき目的は、
「風雅の誠」
であり、それが、
「永遠に変わらないもの」
と、芭蕉は、説いたのだそうです。
続けて、
「時に応じて変化するもの」
にも注目しつつ詠むべきだと説いています。
異論はあるやもしれませんが、揺るぎなき正論、真実と言えるのではないでしょうか。
芭蕉は、俳諧について述べているのですが、俳諧を、そっくり学校や社会教育や学問の世界全般と置き換えてみても、何らの科は生じないのではないかと思います。
それらの世界でも「不易と流行」の「両面に立脚して」いることに変わりはなくて、むしろ、「不易」の部分を重視し、「流行」については、もう少し軽くみてもよいのではないか、と考えられます。
流行が全く不要などと言っているのではなくて、学校や社会現場に、その理念が下ろされる頃には、次のような傾向が生じてくるのが通例であり、
■「変わった部分」への過剰反応
■「不易」の部分の軽視
何らか改訂されると、「変わった部分」や「新しくなった部分」ばかりが強調されがちです(^^;
現場では、それまでの実践の、どこをどう変えるべきかというところにのみ意識、関心が向いてしまい、対象の本質や本来像などがぼやけてしまうことがあって、とても残念です。
学びの根本価値を、ずばりと一言で言うならば、「基礎」(=「土台作り」)という一点になるのではないかと考えられ、「基礎」の、その本質は、「不変、不動」という一点にあるのではないでしょうか。
この考えには、大方異論はなかろうと思われるものの、日本社会全般の残念な面として、基礎・基本が大事と言いながらも、ところが、現場で説く段になると、多くは、
■何が変わったか
■これからの〇〇はどう変えていくべきか
という点が強調され、個々の組織間で偏りが生じてくるのです。
つまり、「流行」の部分への過剰な傾斜を強めることになり、相対的には、「不易」の部分が軽視されることになりがちですね(^^;
これは本末の転倒であり、私見ですが、教育現場で半世紀近くにも亘って、
「表現」→「理解」
という順位が守られていることに安住するのではなくて、世界的に広い視野に立ち、そして、今に至るまで、長く容認されている基礎学力論の順序を、読み・書き・算盤、つまり、先人(芭蕉)に倣い、
「理解→表現」
の順序で、思考するこを想起したいですね。
俳句も、そんな感じで、読んでみても、面白いかなって、そう思います(^^)
【叢書俳句シリーズ】
後藤比奈夫句集『夕映日記』
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「フアーザーズデイ純白の薔薇一花」
◆自選十五句より
この花のために一会の花衣
よきヨツトあり思ひ出すよき役者
歌留多の絵小野小町は向うむき
雪の上に枯木影置く初景色
槍恋し穂高恋しと登山地図
孫よ来よ子よ来よ貝母花ざかり
箱庭にハワイの小石与論の貝
母子草摘めば田平子ついて来し
落花飛花落花飛花はた飛花落花
涅槃図に会ふに覚悟のやうなもの
深見けん二句集『菫濃く』
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「菫濃く下安松に住み旧りし」
◆自選十五句より
スプーンもくもるばかりや夏料理
影を置き蜂ひつそりと梅の花
夏雲となく秋雲となく白く
仰ぎゐる頬の輝くさくらかな
形代や鹿島の沖の波のむた
紅さして腕の中なる祭の子
人生の輝いてゐる夏帽子
睡蓮や水をあまさず咲きわたり
浅間山昨日の雪を昼霞
日の沈む前のくらやみ真葛原
稲畑廣太郎句集『玉箒』
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「身に入みて未来を拓く覚悟かな」
◆自選十句
鎌倉の風に触れたるより虚子忌
黒く来て青く去りゆく揚羽蝶
四十六サンチ砲不知火に吼ゆ
指揮棒の先より生るる音ぬくし
初暦捲れば心竹の叫び
初鴉孤高飼犬孤独かな
松葉蟹因幡の風に糶られゆく
雪女ワインに溶けてゆきにけり
戦艦の生れしドック小鳥来る
八方に清水放ちて富士の黙
高田風人子句集『四季の巡りに』
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「朴の花また一年の巡り来て」
◆福神規子抄出十句
この国の政変しらず鴨浮寝
わが町は相州浦賀時雨るる日
鴛鴦の雌の地味なる賢さよ
寒鴉阿呆と鳴きぬ諾ひぬ
耳までも賢さうなる子猫かな
秋風や世に本物と贋物と
誰彼の誰彼も逝き虚子忌かな
破蓮や枯れゆくものに音のなく
法師蝉鳴き継ぎ人は生まれ継ぎ
恋心椿に寄せて老いにけり