【1週間短歌ごはん生活】7月に旬を迎える食材と短歌
梅雨が明たら、いよいよ夏休みが始まります。
お子さまのいるご家庭では夏休みの計画を立てている方もいるのではないでしょうか。
7月は気温が急上昇し、暑さが本格化する時期。
栄養をしっかり摂って厳しい暑さを乗り切りたいですよね。
と言うことで、そんな7月に旬を迎える食材を詠った短歌に食指が動いてしまわない、かな?(^^)
【7月に食べたい旬の魚や野菜と短歌】
■アジ 鰺
「冷凍の鰺の開きの帯びし霜朝のシンクに払いていたり」
(小島一記「酒とジュース」(角川「短歌」2018年9月号)より)
■スズキ 鱸
■カンパチ 間八 勘八
「半額シール貼られし後に手が伸びる魬(はまち)サーモン鶏魚(いさき)間八」
(田上義洋『ひともじのぐるぐる』より)
■キス 鱚、鼠頭魚
■タチウオ 太刀魚 立魚 帯魚 魛
「ネクタイは太刀魚のごとひらめきて夫の灼けたる頸に巻きつく」
(高野岬『海に鳴る骨』より)
「太刀魚を夜のシンクに横たえてなんだかよくわからないが泣いた」
(笹井宏之「ななしがはら遊民」より)
■イワシ 鰯 鰛 鰮
「ゆっくりでいいからいわし、さば、ひつじ、迷わず秋の空へおかえり」
(toron*『イマジナシオン』より)
■イサキ 伊佐木 伊佐畿 鶏魚
■ハモ 鱧
■ウニ 胆 海栗
■シジミ 蜆
「この世とは忘れてもよいことばかり蜆をひとつひとつ食みおり」
(鶴田伊津『夜のボート』より)
「一つ二つ小石にまじる青蜆萌えいづる春の色にもあるかな」
(若山喜志子『女流十人集』より)
■きゅうり 胡瓜
「正月も胡瓜出まはる世になりて胡瓜の和布和わかめあへの旨しも」
(高野公彦『水の自画像』より)
「きうり用の網を明日は求めむか空を探れるあまたの蔓へ」
(秋山佐和子『豊旗雲』より)
「まりこさんまりこさんなら誰でもいいきゅうりパックの隙間より笑む」
(飯田有子『林檎貫通式』より)
「いただきものの初物きゅうり食みながら名のなかにのみ残る畑は」
(石畑由紀子『エゾシカ/ジビエ』より)
「六十四まで生きえしこの身をよしとせむ生れ月七月は黄瓜の匂ひす」
(河野裕子『蟬声』より)
■シシトウ 獅子唐
「獅子唐をほどよく茹でる、ほどよくはあるとき人の心を刺せり」
(中川佐和子『春の野に鏡を置けば』より)
■なす 茄子
「赤茄子の腐れてゐたるところより幾程(いくほど)もなき歩みなりけり」
(斎藤茂吉『赤光』より)
「ひとりゐて飯(いひ)くふわれは漬茄子(つけなす)を嚙むおとさへややさしくきこゆ」
(斎藤茂吉『小園』より)
「紺いろに枝より垂るる茄子の実は悲哀のごとしふぐりの如し」
(玉城徹『樛木』より)
「母と子が互ひを責めてゐるやうな袋の小茄子触れては鳴りぬ」
(川野里子『太陽の壺』より)
「秋茄子を両手に乗せて光らせてどうして死ぬんだろう僕たちは」
(堂園昌彦『やがて秋茄子へと到る』より)
「なすの馬の脚のういたいつぽんだけがいまもあるいてゐるつもり」
(平井弘『遣らず』より)
「ゆふべ煮付けし茄子とズッキーニよく冷えて蕎麦のお菜に夫のよろこぶ」
(秋山佐和子『豊旗雲』より)
「マグカップに湯注ぎ生まれ出ずる茄子悲しみに似る真夜の空腹」
(小原和「白木蓮」(「ヘペレの会活動報告書」vol.1:2018年)より)
■とうもろこし 玉蜀黍 玉米 唐黍
「神の掟不意に畏(おそ)れつ唐黍の粒のひしめき列なしてゐる」
(村山美恵子『溯洄』より)
「公園にトウモロコシを食う人のつかのまの幸吹き渡る風」
(大島史洋『ふくろう』より)
「オリベッティ・タイプライター打つやうに玉蜀黍を端から食べる」
(石井雅子(2015年・出町柳編集室)より)
■インゲン 隠元
「豆の種もちて帰化せし隠元の豆の子太り信濃花豆」
(馬場あき子『渾沌の鬱』より)
■白瓜
■トマト 蕃茄
「「2度熱傷」そのものなればするたびに心が痛むトマトの湯剝き」
(久山倫代『星芒体』より)
「てのひらに稚きトマトはにほひつつ一切のものわれに距離もつ」
(滝沢亘『断腸歌集』より)
■ミニトマト
■パプリカ 洪
■ズッキーニ 蔓無南瓜
■オクラ 陸蓮根 秋葵
■ピーマン 甘唐辛子
「連休もひっそり暮れし夕厨ピーマンふたつ水桶に浮く」
(古林保子『ローカル線辺り』より)
■ゴーヤ 苦瓜 蔓茘枝、蔓荔枝
「ヒトわれの辛き残暑に力得るゴーヤなるべし次々みのる」
(大西晶子『花の未来図』より)
「俺もオレもここに居るぜとウインクす日よけに植ゑしゴーヤーの子ら」
(秋山佐和子『豊旗雲』より)
「園芸用ポールは肋のごとく立ちそこより出でず茘枝(ゴーヤ)の繁る」
(三島麻亜子『水庭』より)
「夏の盛りに遊びに来てよ、今日植えたゴーヤが生ってたらチャンプルー」
(五島諭『緑の祠』より)
「今し來むゴーヤー革命さみどりの光の蔓(つる)もて議事堂を埋めよ」
(水原紫苑『えぴすとれー』より)
「食卓に茄子とゴーヤと皿があり写生されたるかたちのままに」
(内藤明『夾竹桃と葱坊主』より)
「おのずから出でにし水をきっかけとして室温に苦瓜(ゴーヤ)は腐る」
(生沼義朗『関係について』より)
■ツルムラサキ 蔓紫
■シソ 紫蘇
「紫蘇の葉を喉にそよがせ追ってゆくパラソル担ぐひとのうしろを」
小守有里『素足のジュピター』
■枝豆
「をさなごは枝豆ひとつぶづつ食みぬわれが麦酒を呑むかたはらに」
宇田川寛之『そらみみ』
「枝豆の豆飛び出して夏休み今日は日陰を選ばずにゆく」
石川美南『砂の降る教室』
■ブルーベリー
■ラズベリー
■ブラックベリー
■フサスグリ(レッドカラント)
■さくらんぼ 桜ん坊 桜桃
「桜桃はてりつつ持てるかなしみのいろあり掌(て)にはのせがたきかな」
(藤井常世『紫苑幻野』より)
■スイカ 西瓜
「足裏より夏来て床に滴りしすいかの匂いまばゆい午後だ」
(天道なお『NR』より)
「買い被られているようであり馬鹿にされているようでもある真冬の西瓜」
(東洋『青葉昏睡』より)
「今は西瓜に頭を突っ込んで眠りたい 内側の赤をなだめるために」
(安川奈緒『Melophobia』より)
「天国の求人票をまき散らし西瓜畑へ遊びに行こう」
(服部真里子『行け広野へと』より)
「先割れスプーンで西瓜の種を落とすときましろき皿に五線紙の見ゆ」
「佐藤モニカ『夏の領域』より)
「床板の割れ目に西瓜の種落としおおきくなれよとひそかに願う」
「父親がもらった西瓜の一切れをからだに沈めるように食べていた」
(山崎聡子『手のひらの花火』より)
「ようこそと聲の聞こえてぽかんぽかんとみなもに浮かぶ西瓜たくさん」
(川崎あんな『エーテル』より)
「冷蔵庫さわさわと鳴く夕闇に西瓜を洗う ひざ洗うように」
(小守有里『素足のジュピター』より)
「切り分けし西瓜を食ひしステテコの父はも笑ふ貧の記憶に」
(柳宣宏『施無畏』より)
■桃
「水切りの石跳ねていく来世ではあなたのために桃を剝きたい」
(岡本真帆『水上バス浅草行き』より)
「熟れすぎの桃の匂いののぼりたち捏ねあわされて昭和はあるも」
(沖ななも『衣裳哲学』より)
「桃の木はいのりの如く葉を垂れて輝く庭にみゆる折ふし」
(佐藤佐太郎『帰潮』より)
「店頭に積まれたゼリー透きとおり桃の欠片(かけら)を宙に浮かべる」
(嵯峨直樹『半地下』より)
「まるまると尻割れズボンよりこぼれたる白桃ふたつ小川に映る」
(有沢螢『ありすの杜へ』より)
「遠い朝のように母来て縁側の夏のほとりに吸うている桃」
(秋山律子『或る晴れた日に』より)
「ながらへて脆き前歯を欠かしめし白桃の核を側卓に置く」
(相良宏『相良宏歌集』より)
「白桃の和毛(にこげ)ひかれり老いびとの食みあましたる夢のごとくに」
(米口實『流亡の神』より)
「「なにもなにも小さきものはみなうつくし」日向(ひなた)で読めば桃の花ちる」
(松平盟子『プラチナ・ブルース』より)
【「夏」を含む百人一首】
「卑しきことおもひしならずたふときことおもひしならず白き夏至の日」
(葛原妙子『鷹の井戸』より)
「わたしたち夏から冬がすぐ来ても曇天を今日の服で飾って」
(柳原恵津子『水張田の季節』より)
「風鈴に指紋ありたり夏は疾く遠くなりゆく季節と思ふ」
(𠮷澤ゆう子『緑を揺らす』より)
「この夏に失ったもの 手洗いの藍の服から藍が流れる」
(岡本幸緒『ちいさな襟』より)
「ひと夏の夏百日の一日の金赤のダリア黒赤のダリア」
(朝井さとる『羽音』より)
「生徒らと読みすすめゆく『夏の花』題名はさう平凡がいい」
(本田一弘『眉月集』より)
「舌赤く染めて硝子を食べているわたしが夏に産みし生きもの」
(藤田千鶴『貿易風(トレードウインド)より)
「夏の窓 磨いてゆけばゆくほどにあなたが閉じた世界があった」
(笹川諒『水の聖歌隊』より)
「ハードルをつぎつぎ越ゆる若き脚(あし)のむかうに暗き夏のくさむら」
(柏崎驍二『四月の鷲』より)
「夏山をつぎつぎに行く雲の影どの雲というかげではなくて」
(池本一郎『樟葉』より)
「夏きざすやうに勇気はきざすのか飲酒ののちの蕎麦のつめたさ」
(大口玲子『東北』より)
「睡蓮が水面をおほふ夏の午後こんなに明るい失明がある」
(千葉優作『あるはなく』より)
「彼らは夏を逝きたり若き日の写真の顔をこの世に遺し」
(糸川雅子『ひかりの伽藍』より)
「夏青葉しげる木下をゆくときに傘打つあめの音とほざかる」
(山中律雄『淡黄』より)
「死なばまた夏にかへらむ卓上に薄氷のごとき皿並べゐつ」
(高橋淑子『うゐ』より)
「弱いもの順に腐ってゆくことの正しさ 夏はあまりにも夏」
(上坂あゆ美「生きるブーム」『短歌研究』2022.08より)
「初夏愕然として心にはわが祖國すでに無し。このおびただしき蛾」
(塚本邦雄『日本人靈歌』より)
「夏休みまだだいぶあり風を浴びてこれから出来ることのいろいろ」
(大辻󠄀隆弘『樟の窓』より)
「眠るだけ眠りなさいな夕立にあゆみを止める夏の日時計」
(萩野なつみ『遠葬』より)
「スイミングスクール通わされていた夏の道路の明るさのこと」
(鈴木ちはね『予言』より)
「夏衣の母のあゆみの衰へて来しあのころが晩年なりしか」
(古川登貴男『篠懸の木蔭』より)
「みりん甘くて泣きたくなつた銀鱈の皮をゆつくり噛む夏の夜」
(山下翔『温泉』より)
「くちぶえは背中にぬけてぼくたちにもうふらふらと夏がきたんだ」
(東直子『青卵』より)
「おとうとが春服をドラムバッグから出して夏服詰め込んでゆく」
(高橋千恵『ホタルがいるよ』より)
「桜をはり松の林に来てゐたり潮の香いまだ夏の香ならず」
(伊藤一彦『微笑の空』より)
「さきにいた熱とけんかをする熱だゆっくり夏のお粥をすする」
(山階基『風にあたる』より)
「夏の大セールで買った妹はセーター厚地のヒツジの柄の」
(椛沢知世「ノウゼンカズラ」ねむらない樹vol.8より)
「虹の余光身に浴びながら雫するタワービル群 夏の林よ」
(佐伯裕子「短歌研究」2021年10月号より)
「「夏苦しい」たった一言そう書かれたアルバム評を手に走り出す」
(盛田志保子『木曜日』より)
「僕たちのドレッシングは決まってた窓の向こうに夏の陸橋」
(穂村弘『水中翼船炎上中』より)
「もう次の芥川賞が来るらしい 夏の帰宅をくりかえしたら」
(左沢森「VとR」より)
「逆光の鴉のからだがくっきりと見えた日、君を夏空と呼ぶ」
(澤村斉美『夏鴉』より)
「まなぶたのくぼみ激しくなりし夏蝶も鳥らもさりげなくゆけ」
(百々登美子 『荒地野菊』 より)
「町をゆくすべての人は使者として夏の日暮れを音もなくゆく」
(阪森郁代 『歳月の気化』より)
「モロヘイヤいくつあってもモロヘイヤこの夏幸せなモロヘイヤ」
(吉田奈津「短歌研究」2015年9月号より)
「あの雲のすそをつまんで岸辺までぐいと引き寄せられないか、夏」
(加藤英彦『プレシピス』より)
「大らかに夏雲はしる野の森の泉に足を洗ひてゆきぬ」
(山川登美子「山川登美子全集・上巻」より)
「玉藻刈る敏馬を過ぎて夏草の野島の﨑に舟近づきぬ」
(柿本人麻呂 万葉集 巻三 350より)
「魂は人にむくろは我に露ながら夏野の夢のなごり碎くる」
(萩原朔太郎/初出『文庫』第23巻第6号より)
「檜の香部屋に吹きみち切出しの刃先に夏の雨ひかりたり」
(高村光太郎 『高村光太郎選集 第2巻』より)
「夏ははや生いきの労いたづき苦しむか交つがひたる蝶むなしきに舞ふ」
(遠藤麟一朗/引用は粕谷一希『二十歳にして心朽ちたり』洋泉社MC新書より)
「仰ぎ見て我が天才を疑わず天地ひれ伏せ十六の夏」
(榎本ナリコ『センチメントの季節7 二度目の夏の章』より)
「さらば夏アトランティスを見て来たと誰か電話をかけてこないか」
(久木田真紀「時間(クロノス)の矢に始めはあるか」『短歌研究』1989年9月号より)
「屋上で白く干されたシーツたち五月はきっと揮発する夏」
(鈴木智子「イラン、夏」より)
「あんたはなあどうも甘いと言はれてる烈夏の下を通つてゐたが」
(池田はるみ『正座』より)
「あまたなる死刑と雨の影のこし平成最後の夏は終はりぬ」
(住谷眞『遁世はベンツのやうに』より)
「数寄屋橋の夏の歩道に漂ふは水牛の乳のけもののくささ」
(知花くらら『はじまりは、恋』より)
「夏草の一茎にありてしづみゐし蟷螂(かまきり)の眼の碧きこゑのす」
(前川佐重郎『彗星紀』より)
「三時草の爆ぜたるのちのさびしかる錆色の実を真夏に見おり」
(花山周子『林立』より)
「無言になり原爆資料館を出できたる生徒を夏の光に放つ」
(重藤洋子/2019年宮中歌会始の儀入選歌より)
「うれしいの わたしもうれしいゆふやけが夏の水面をまたたかせると」
(木下こう『体温と雨』より)
「時計より出(い)で来て踊る人形の目線は遠き夏木立かも」
(中川佐和子『海に向く椅子』より)
「水銀の鈍きひかりに夏がゆきしまわれてゆく女のかかと」
(広坂早苗『未明の窓』より)
「喫茶より夏を見やれば木の札は「準備中」とふ面をむけをり」
(光森裕樹『鈴を産むひばり』より)
「腕時計ひかりをかへしいつのまにか半袖ばかり着てをれば初夏」
(栗原寛『Terrarium テラリウム ~僕たちは半永久のかなしさとなる~』より)
「あらくさにしんしん死んでゆける夏黄のフリスビーと毛深き地蜂」
(米川千嘉子『夏空の櫂』より)
「足裏より夏来て床に滴りしすいかの匂いまばゆい午後だ」
(天道なお『NR』より)
「春の船、それからひかり溜め込んでゆっくり出航する夏の船」
(堂園昌彦『やがて秋茄子へと到る』より)
「レスラーはシャツを破りて瞳孔をひらいてみせる夏の終わりに」
(内山晶太『窓、その他』より)
「恋愛が恥ずかしかった夏 海を見るためだけに海に出かけた」
(千葉聡『そこにある光と傷と忘れもの』より)
「逝きかけの蟬を励ますこの夏にとくに未練はないはずなのに」
(北島洋「夏の終わり」『外大短歌』第7号より)
「やがて海へ出る夏の川あかるくてわれは映されながら沿いゆく」
(寺山修司『空には本』より)
「夏なのに咲かない向日葵 泣いていた記憶ばかりが鮮明、ずっと」
(岩崎恵『手紙の森』より)
「6月の2日の朝に夏が来てあなたに会うので夏バテしそう」
(仲田有里『マヨネーズ』より)
「なにげなく摑んだ指に冷たくて手すりを夏の骨と思えり」
(服部真里子『行け広野へと』より)
「雨宿りせし駄菓子屋にインベーダーゲーム機ありき あの夏のこと」
(笹公人『念力姫』より)
「「斎藤さん」より少しだけ美しい「真夏の夜の夢の斎藤さん」」
(原詩夏至『ワルキューレ』より)
「ビル街のよぞらに雨後の月あかしむかし御油[ごゆ]より出でし夏の月」
(小島ゆかり『折からの雨』より)
「ゆびあはせ小窓つくれば三角のあはひをよぎるあの夏の雲」
(紀水章生『風のむすびめ』より)
「野菜たち官能的な蕊匂わせ生殖している夏の菜園」
(角田利隆『〈無〉の習作』より)
「きたぐにの夏空白く抉り取りグライダーわが頭上飛び越ゆ」
(月岡道晴『とりよろへ山河』より)
「真夏、還つて来たのは小さな石だつた。小石のままの母のおとうと」
(高尾文子『約束の地まで』より)
「二十九歳父の軍服は夏のまま七十回目の八月迎ふ」
(四竃宇羅子『翼はあつた』より)
「大空のホールにみえざる群衆の椅子をひく音夏の雷鳴」
(渋谷祐子『青金骨法』より)
「夏帽子振るこどもらよ遺影なる伯父とことはに戦闘帽かぶる」
(栗木京子『夏のうしろ』より)
「教科書は絶対と思つてゐた夏のしづかな教師の頸太かりき」
(池谷しげみ『二百箇の柚子』より)
「いまだ掬はぬプリンのやうにやはらかくかたまりてゐるよ夏の休暇日」
(上村典子『草上のカヌー』より)
「2040年の夏休みぼくらは懐かしいグーグルで祝祭を呼びだした」
(フラワーしげる『ビットとデシベル』より)
「田の水にうつる夏山かなたにはまだかなたには死が続いている」
(斉藤真伸『クラウン伍長』より)
「半夏生しらじら昏れて降る梅雨に母は病みこもる父と老いつつ」
(近藤芳美『近藤芳美集 第三巻』より)
「全速の自転車に脅え日日あゆむこの街に来てはじめての夏」
(島田修二『草木国土』より)
「けし、あやめ、かうほね、あふひ、ゆり、はちす、こがねひぐるま夏の七草」
(高野公彦『河骨川』より)
「梅雨雲(つゆぐも)にかすかなる明(あか)りたもちたり雷(らい)ひくくなりて夏に近づく」
(中村憲吉『しがらみ』より)
「一日が過ぎれば一日減つてゆくきみとの時間 もうすぐ夏至だ」
(永田和宏『夏・二〇一〇』より)
「忘れてしまうものとして聞く生い立ちに母と別れた夏の日がある」
(山崎聡子『手のひらの花火』より)
「ニュートリノ奔る気ままさもて晩夏全身を貫いて去れる喩」
(楠見朋彦『神庭の瀧』より)
「水甕の空ひびきあふ夏つばめものにつかざるこゑごゑやさし」
(山中智恵子『紡錘』より)
「忘られし帽子のごとく置かれあり畳の上の晩夏のひかり」
(内藤明『夾竹桃と葱坊主』より)
「夏空は帽子のつばに区切られて銅貨のように落ちてゆく鳥」
(吉川宏志『燕麦』より)
「一九四九年夏世界の黄昏れに一ぴきの白い山羊が揺れている」
(浜田到『架橋』より)
「夏草のくさむらふかく住む母のポストにま白な封書きている」
(山形裕子歌集『かばれっと』より)
「カーテンのむかうに見ゆる夕雲を位牌にも見せたくて夏の日」
(永井陽子『小さなヴァイオリンが欲しくて』より)
「ソックスを履かず冷えるにまかせたる指をはつ夏の陽に差し入れぬ」
(源陽子『桜桃の実の朝のために』より)
「遠い朝のように母来て縁側の夏のほとりに吸うている桃」
(秋山律子『或る晴れた日に』より)
「にがき夏まためぐり来て風が揉む無花果に不安な青き実の数」
(角宮悦子『ある緩徐調』より)
「夏にみる大天地(おおあめつち)はあをき皿われはこぼれて閃く雫」
(窪田空穂『まひる野』より)
「夏草をからだの下に敷きながらねむり足(た)りたれば服濡れてをり」
(横山未来子『花の線画』より)
「絆創膏二つ貼りいる左手の指より初夏の朝が始まる」
(田中拓也『雲鳥』より)
「かつと燃えるウヰスキイの夏ぞら 弱々とたかくのぼらぬ煙突のけむり」
(西村陽吉『晴れた日』より)
「どうしても抜けぬ最後のディフェンスは塩の色した夏だとおもえ」
(正岡豊『四月の魚』より)
【「七月」を含む短歌】
「酢のなかでゆっくりと死ぬ貝類の声聞く七月某日真昼」
(村上きわみ『fish』より)
「限りなく音よ狂えと朝凪の光に音叉投げる七月」
(FAX短歌会「猫又」に投稿された短歌より)
「恋すてふてふてふ飛んだままつがひ生者も死者も燃ゆる七月」
(吉田隼人『忘却のための試論』より)
「淡青のひかりを水にくぐらせて小さき花瓶を洗う七月」
(中畑智江『同じ白さで雪は降りくる』より)
「七月のひかりに撓むわが視野を風に押されてゆく乳母車」
(大辻隆弘『デプス』より)
「月は漂う 僕から逃げようとする僕の影をまたつかまえて」
(千葉聡『そこにある光と傷と忘れもの』より)
「青年死して七月かがやけり軍靴の中の汝が運動靴」
(詠み人知らず)
「青年死して七月かがやけり軍靴のなかの汝が運動靴」
(安藤正)
【「七月」を含む邦楽】
TETORA「7月」
DREAMS COME TRUE「7月7日、晴れ」
時速36km「七月七日通り」
ヤユヨ「七月」
MAY’S「JULY (15th Anniversary Version)」
September「July」
Noah Cyrus「July」
Kris Wu「July」
Dena (張粹方)「July」
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