【書きたいテーマを探してみよう(読書編)】SF小説が好き
「サラマンダー殲滅」(上・下)梶尾真治(著)
■発見(気づき)
科学的な空想に基づいたものを題材にしたSF小説。
宇宙・タイムトラベル・ロボット・超能力など、SFのなかでもさまざまな題材の作品があります。
1990年刊行作品。
梶尾真治の代表作の一つですね。
1991年の第12回日本SF大賞受賞作でもあります。
また、今は亡き、朝日ソノラマの小説誌『獅子王』に連載されていた作品です。
この作品の特筆すべき点は、なんと、驚くほどに、何度も、再刊されている点です。
最初の単行本版を含めると、
「ソノラマノベルス版」
「ソノラマ文庫版」
「ソノラマ文庫ネクスト版」
「光文社文庫版」
「徳間文庫版」
と、計6つもの版が存在していて、それだけ、内容的にも面白いと思います。
さて、ここで、ここ1年くらいで発表されたSF小説の中で、
「面白い」
をキーワードにして、そう感じられるSF小説は、以下の通り、選書してみました( ^^) _旦~~
J・N・チェイニー&ジョナサン・P・ブレイジー『戦士強制志願』
P・G・ウッドハウス『スウープ!』
P・ジェリ・クラーク『精霊を統べる者』
イーディス・ウォートン『ビロードの耳あて』
オラフ・ステープルドン『最後にして最初の人類』
キム・チョヨプ『派遣者たち』
キャサリン・M・ヴァレンテ『デシベル・ジョーンズの銀河(スペース)オペラ』
ケヴィン・ブロックマイヤー『いろいろな幽霊』
サマンタ・シュウェブリン『救出の距離』
シオドラ・ゴス『メアリ・ジキルと囚われのシャーロック・ホームズ』
ジョナサン・ストラーン編『シリコンバレーのドローン海賊 人新世SF傑作選』
スタニスワフ・レム『捜査・浴槽で発見された手記』
ステファン・テメルソン『缶詰サーディンの謎』
セコイア・ナガマツ『闇の中をどこまで高く』
デイヴィッド・ウェリントン『妄想感染体』
ベッキー・チェンバーズ『ロボットとわたしの不思議な旅』
マーサ・ウェルズ『システム・クラッシュ』
ラヴィ・ティドハー『ロボットの夢の都市』
レベッカ・ヤロス『フォース・ウィング 第四騎竜団の戦姫』
芦沢央『魂婚心中』
円城塔『ムーンシャイン』
王城夕紀『ノマディアが残された』
間宮改衣『ここはすべての夜明けまえ』
韓松『無限病院』
宮西建礼『銀河風帆走』
宮内悠介『暗号の子』
宮内悠介『国歌を作った男』
空木春宵『感傷ファンタスマゴリィ』
幻想と怪奇編集室編『幻想と怪奇 不思議な本棚 ショートショート・カーニヴァル』
幻想と怪奇編集室編『幻想と怪奇15 霊魂の不滅 心霊小説傑作選』
高島雄哉『はじまりの青 シンデュアリティ:ルーツ』
高野史緒『ビブリオフォリア・ラプソディ あるいは本と本の間の旅』
坂崎かおる『嘘つき姫』
春暮康一『一億年のテレスコープ』
松崎有理『山手線が転生して加速器になりました。』
松樹凛『射手座の香る夏』
森口大地編訳『ドイツ・ヴァンパイア怪縁奇談集』
石ノ森章太郎原作『サイボーグ009トリビュート』
大恵和実編訳『日中競作唐代SFアンソロジー 長安ラッパー李白』
池澤春菜『わたしは孤独な星のように』
中村融編『星、はるか遠く 宇宙探査SF傑作選』
藤井太洋『まるで渡り鳥のように』
藤井太洋『マン・カインド』
日本SF作家クラブ編『地球へのSF』
飛浩隆『鹽津城』
矢野アロウ『ホライズン・ゲート 事象の狩人』
林譲治『知能侵蝕 1』
話を戻して、本書は、平凡な主婦だった神鷹静香は、テロによって、最愛の夫と娘を奪われます。
そのショックで廃人同様となった静香を救うために施された心理療法。
それは、テロリストに対する強い憎悪を植え付けるものでした。
テロリスト集団に対して、闘いの道を選ぶ静香。
そうとは知らずに、人工的にしくまれた心理療法の歪みが、次第に静香の精神の平衡を奪っていくことになります・・・
■問題提起
そんな設定なので、そうは言っても、いくら訓練受けたからって、こないだまで普通に主婦やっていた女性が、こんなに強くなれるものなのかとか?
いろいろ突っ込みたいところは確かに作品でもあります。
また、描写がくどくて、興をそぐ場面も散見されるのですが、実は、メインタイトルがイマイチだって話もちらほら・・・
しかし、それらを全て補ってあまりある面白さが本書にはあります。
数奇な運命に弄ばれた平凡な主婦の復讐劇としての面白さに加えて。
本作では、ふんだんに放り込まれた、SFならではのアイデアが抜群にイカしていたり。
最後まで飽きさせない。
まさに、SFでないと出来ない物語だと思います。
それに、上下巻で800ページ強と、かなりのボリュームになっており、読み始めたら、止められなくなる徹夜本でもありますね(^^♪
■教訓
こう感じられる方もいらっしゃるのではないかと思われるのですが、
「ダメ人間が頑張って一世一代の大活躍」
って話が、泣きのツボのひとつだったりしませんか?
本書は、メインキャラクタの魅力もさることながら、随所に登場するサブキャラ(わりとダメな奴)の頑張りが、なんとも言えないいい味を出していて、泣かせてくれるので、脇役好きにはたまらないお話だと思います。
そんなところも、何度も復刊されている作品であり、それだけの価値は確かにあって、古い作品だけど、もっと読まれていて、良い作品だと思います。
■参考図書
ここで、そんなにSF小説読みというわけでもなく、どちらかと言えば、気になった本を、気まぐれに読む、
「雑食系読書(廃)人的」(^^)
なので、全てをカバーできているわけではありませんが(^^;
前述のSF小説以外で、日本人作家のSF小説の中から、読み応えのある作品を、紹介してみますね。
気になる作品があったら、この機会に、是非、読んでみて下さい。
安野貴博『サーキット・スイッチャー』
一本木透『あなたに心はありますか?』
荻堂顕『ループ・オブ・ザ・コード』
間宮改衣『ここはすべての夜明けまえ』
宮野優『トゥモロー・ネヴァー・ノウズ』
宮澤伊織『ときときチャンネル 宇宙飲んでみた』
宮澤伊織『神々の歩法』
九段理江『東京都同情塔』
鯨井あめ『沙を噛め、肺魚』
高野史緒『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』
高野史緒『ビブリオフォリア・ラプソディ あるいは本と本の間の旅』
斜線堂有紀『回樹』
周藤蓮『バイオスフィア不動産』
春暮康一『法治の獣』
緒乃ワサビ『天才少女は重力場で踊る』
小野美由紀『ピュア』
松崎有理『シュレーディンガーの少女』
新井素子『南海ちゃんの新しいお仕事 階段落ち人生』
新馬場新『沈没船で眠りたい』
人間六度『スター・シェイカー』
村山早紀『さやかに星はきらめき』
池澤春菜『わたしは孤独な星のように 』
竹田人造『AI法廷の弁護士』
長谷敏司『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』
日本SF作家クラブ編『少女小説とSF』
伴名練『なめらかな世界と、その敵』
木村浪漫『イエロージャケット・アイスクリーム』
野崎まど『タイタン』
柞刈湯葉『まず牛を球とします。』
逸木裕『電気じかけのクジラは歌う』
■結論
著者「梶尾真治」と言えば、熊本県在住で映画『黄泉帰り』の原作者、これも熊本・阿蘇が舞台だったんですね。
あの映画も泣かさますが、本書「サラマンダー殲滅」も結構泣けます。
第一部では、彼女の入隊、厳しい訓練の様子が、
「デューン/砂の惑星」
を彷彿とさせる生態系も絡めて描かれていきます。
悲しみのあまり、復讐に燃えるヒロインが、初の実戦闘で恐怖を忘れるために飲んだ
「アルツハイマーP」
という薬の影響で、自分の過去まで、徐々に忘れていくという、幸せだった過去の思い出も、一緒に暮らした家や周囲のことも全て忘却していくという二重の悲劇になっているんです。
ヒロインを取り巻く周囲の人間ドラマ、やがて、宇宙そのものまで巻き込んでしまう人の業というか、精神の力・・・
復習劇は、あくまで縦糸になるのですが、横の広がりが大きい。
この設定から、よくこんな広がりが出るものだと感心しました。
単に、アクション系の小説ではないので、SF仕立ての設定ではありますが、誰でも読めるかと思います。
エンターテイメント度合いで言えば、超一級品です!
本書の読みどころは、かなりいろいろあるのですが、非常に壮大な物語なんだけど、その全てが読みどころと言っても過言ではないところです。
汎銀戦討伐という大きな幹を中心に、枝葉となる物語が綴られます。
そして、その物語を彩る「往年のSFによく見受けられるベタな設定」・・・
かなり長い小説ながら、最後までトップスピードで駆け抜けるように読まされるから不思議ですね(^^)
■コメント
そうそう、日本SF大賞といえば、もうかなり権威のある賞なんだけど、受賞作を見ても、ヒューゴ賞やネビュラ賞に負けず劣らずの傑作が並んでいます。
有名どころでは、こんな人と作品が受賞しています。
・小松左京:「首都消失」(第6回受賞/1985年)
・荒俣宏:「帝都物語」(第8回受賞/1987年)
・椎名誠:「アド・バード」(第11回受賞/1990年)
・梶尾真治:「サラマンダー殲滅」(第12回受賞/1991年)
・宮部みゆき:「蒲生邸事件」(第18回受賞/1997年)
・瀬名秀明:「BRAIN VALLEY」(第19回受賞/1998年)
椎名誠や宮部みゆきって、一般的に、SFとあまり関係なさそうな印象を受ける方もいらっしゃると思いますが、受賞作を読んでみるとやはり立派に「SF」になってるんですよね。
その中で、本書は、「これでもか」というほど「ベタ&ハードボイルド」な作品です。
もし、興味を持たれたら、上の作品も含めて、読んでみて下さいね(^^♪