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【令和俳句叢書(その2)】なにごともなく、晴天。


清水北斗さん撮影

雲の上は、いつも、晴天だった。

どんなに、どしゃ降りの荒天の日も。

頭の痛い、曇天の日でも。

雲の上は、いつも晴天。

ものは考え様とは、よく言ったものだ。

「なにごともなく平穏無事な日々というのは、多くの人たちの「じつはね」で成り立っている。

この世の平穏は、多くの人たちのやせ我慢と隠しごとと沈黙で出来ているのだ。

それに、隠しごとがないことを「平穏」よ呼ぶはずなのに、平穏のために隠しごとをするなんて、平穏を裏切っているみたいだ。」

空が、雲におおわれていても。

太陽が、なくなるわけではないし。

雲が、流れ去れば。

必ず晴れる。

雲の上は、いつも、晴天なんだと、感じられれば・・・

「私は神も仏も信じないが、ただひとつ、祖母がよく口ずさんでいた「お天道様は見ているから」のお天道様を信じていた。

それゆえ、空をめぐるあれこれを憎めない。」

「この歳になって銭湯に通ってみると、そこは思いがけず賑やかなところで、その賑やかさも、裸になっているせいか、ひとつも嘘がなかった。」

「おいしいものというのは、たいていの場合、手間ひまがかかっていて、そのうえ、何かしらを思い出させる。

昔のことや、遠いところや、ずいぶん会ってないひとや(・・・)」

希望を、少しでも見出す日々の願い。

なにごともなく、晴天。

だと、思えるかもしれない(^^)

「「なにごともなく、晴天。」という言葉のあとには、かっこ付きで、(そんなはずはないけれど)と、つづくわけです。

そんなはずはないけれど、それでも、空が晴れていたら、どんなに悲しくても、やはりお腹が空いてくる。

それもまた、なんだか悲しくて、そんな希望と悲しみのあいだを行ったり来たりするような、そういう思いを「なにごともなく」に託してみようと思いました。」

これは、本書のあとがきの部分で、作者の吉田さんが、この物語のタイトルに込めた意味を語っているシーンです。

あの東日本大震災の時に、この物語が生まれたそうです。

【金曜日に読む本】
「なにごともなく、晴天。」(中公文庫)吉田篤弘(著)

皆さんのもとに、◯◯◯のことなら、いくらでも話していられるものたちが、少しずつでも、増えていきますように(^^)

【令和俳句叢書(その2)】


増成栗人句集『草蜉蝣』

「草笛に草笛をもて応へけり」
◆自選十五句
いちにちを遊子となりて花の下
火を焚かな近江も奥の月の背戸
草蜉蝣九鬼水軍の島にかな
つばめつばくろ三尺の蜑小路
月齢は十三雁の帰るころ
国栖人にやさしく円座すすめらる
草笛に草笛をもて応へけり
晩秋の蝶よお前も白樺派
宇治十帖二タ夜続きの天の川
一月一日落款の朱のうつくしき
象潟の雨の鵯上戸かな
振り向けば椿の落ちただけのこと
存問の色でありけり鷹の爪
お神楽のたうたうたらりたらり冬

中村雅樹『晨風』

「屋根に人舟に人ゐて松手入」
◆自選十五句より
釣り人に卯の花腐しつづきけり
水餅の沈みをり上時国家
玉砂利の中の団栗掃きにけり
ひんがしに神島はあり芋嵐
ふなばたに使ふ包丁朝ぐもり
みづうみは草を打ち上げ明易し
演習の空砲をうつ芒かな
朴落葉あたまに乗せて遊びをり
一日の茶殻を干して寺の秋
屋根に人舟に人ゐて松手入
輪飾や伏流水の湧くところ
吉野へと河原伝ひや西行忌
御嶽の気流に朴の咲きにけり

和田順子句集『皆既月蝕』

「応へなきものへ語りぬ夜の秋」
◆自選十五句
いくそたびその名問はれて翁草
石積の集落どこも枇杷熟れて
ジーンズに脚入れて立ち夏は来ぬ
炎天を歩む失ふものは無く
炎昼の孤独たとへば深海魚
サングラス卓に置かれて雲映す
応へなきものへ語りぬ夜の秋
牛冷やす牛より深く川に入り
特高を逃れし父の墓洗ふ
草の香やごぼりと水のありどころ
戻りたる椅子に秋冷来てゐたる
皆が居るやうに蜜柑を盛りにけり
開戦日マンホールの蓋ことと踏み
初礼者大きザックで来たりけり
小豆粥母は生涯京ことば

松尾隆信句集『星々』

「氷柱折るとき星々の声のあり」
◆自選十五句
梅の中ひとすぢの水走りけり
ゆつくりと蛇のどこかの進みをる
五千石二十年忌の雨の音
スケートの十一歳は風のやう
忽然と桜満開誓子の忌
母の日の義母と握手をしてをりぬ
よくきれるおとのしてをり松手入
氷柱折るとき星々の声のあり
ずぶ濡れの礁の春となりにけり
尾からすぐおたまじやくしの首ねつこ
平成に摘みし令和の新茶かな
次の星流れたるなり山上湖
鳥羽僧正忌蛙らの穴に入る
『瘤』といふ小さき句集開戦日
ゆりかごの中に瞳よもがり笛

山口昭男句集『礫』

「ゆつくりと氷の上をこほる水」
◆自選十五句
置くやうに花びら落とすチューリップ
夏の月ロールキャベツに白き帯
炬燵より短き返事する男
赤ん坊のすつぱきにほひ涅槃西風
はくれんの喜劇の如く散つてをり
むらがりてものの形の蟻の数
籐椅子に霧吹のころがつてゐる
雷のにほひ出したる近江かな
天高し男をおいてゆく女
前菜の黒き玉子や秋旱
ゆつくりと氷の上をこほる水
ほがらかなマスト一本蓮如の忌
十二月紙の礫の開き出す
干柿に食ひ入る縄のかわきかな
落ちてゐる菊人形の菊の影

梶原美邦句集『旹の跡』

「とりどりの時間が落ちてゐる椿」
◆自選十五句
種袋振ると日和の音ばかり
虫はみな自分の闇を鳴らしをり
舞ひ上がる音丹頂となれる穹
土の香の春意あつめてゐる箒
想ひ出が菊の中から香りをり
切干の風の模様となる筵
とりどりの時間が落ちてゐる椿
人間のほかは曇りの海開き
体内の水澄むこゑを発したり
一村の灯が初空のいろとなる
初蚊打つ掌にぺちやんこのこゑの跡
ががんぼの名刺片足置いてゆく
トンネルの秋思吐きだす電車くる
夕去りて鳴ける氷柱の番縄
おにぎりの転がりたがるあたたかさ

本井英句集『守る』

「蜷が身をゆするたび砂ながれけり」
◆自選十五句
芍薬の蕾に案の如く蟻
川の名の変はりてさらに鰻落つ
グエンさんゴさん勤労感謝の日
卒業の日の「おはよう」を交はし合ひ
吾が断ちし根ツ切虫の天寿かな
病ひには触れず日焼を褒めくれし
充電のごとく冬日に身をさらし
箱釣の箱立てかけてありにけり
稲架立てる場所をまづ刈り取りにけり
手びさしの右手が疲れあたたかし
船虫に英傑のあり凡夫あり
青鷺の踵揚ぐれば指垂るる
同乗の救急車より年の瀬を
蜷が身をゆするたび砂ながれけり
お薬師さま里へ下ろして山眠る

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