【小牧幸助文学賞】20字小説応募作品集(陰陽師)と【毎週ショートショートnote】強すぎる数え歌「急急如律令(急いで事を成せ)」のコラボ作品
陰陽師(特拉法加)のまじない
強すぎる数え歌「急急如律令(急いで事を成せ)」
「一つとや、百尺竿頭、一意攻苦急急如律令。
二つとや、不撓不屈、二河白道急急如律令。
三つとや、妙計奇策、三思後行急急如律令。
四つとや、瑶林瓊樹、四海兄弟急急如律令。
五つとや、為虎添翼、五倫五常急急如律令。
六つとや、無念無想、六根清浄急急如律令。
七つとや、内剛外柔、七転八起急急如律令。
八つとや、薬籠中物、八宗兼学急急如律令。
九つとや、古今無双、九年面壁急急如律令。
十とや、十全十美、おんあろりきゃそわか。」
陰陽師曰く。
「どんなに言葉を入念に尖らせたとしても言葉は色んな感情を持つ。
よって、ここにある数え歌には幅が生じている。
つまり、この世に本物の強き数え歌を唱えることは不可能なのだ。
では、真実の真言はどこにあるのか。
それは、人の胸の中にしか存在しえない。
雑多な日常が支配する現実とは隔絶された。
音も匂いも色もない。
純粋に玄理だけが支配する理念の世界にのみ存在する。
実生活で直ちに役に立たないからこそ。
この数え歌の秩序は美しく、強くもある。
言霊が織りなす呪文の玄理。
それは、かくも純粋で美しく気高くすらあるのだ。
不動佛心咒。」
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百尺竿頭:くふうにくふうを重ねたうえに、さらに進歩向上をはかること。
一意攻苦:いちずに心身を苦しめて努力すること。
不撓不屈:強い意志をもって、どんな苦労や困難にもくじけないさま。
二河白道:煩悩にまみれた人でも、念仏一筋に努めれば、悟りの彼岸に至ることができる。
妙計奇策:人の意表をつくような、奇抜ですぐれたはかりごとのこと。
三思後行:物事を行うとき、熟慮したのち、初めて実行すること。
瑶林瓊樹:人品が気高く、衆にすぐれていること。
四海兄弟:真心と礼儀を尽くして他者に交われば、世界中の人々はみな兄弟のように仲良くなること。
為虎添翼:強い者がさらに力を手にして勢いを増すこと。
五倫五常:人として常に踏み守るべき道徳のこと。
無念無想:一切の邪念から離れて、無我の境地に到達した状態。
六根清浄:欲や迷いを断ち切って、心身が清らかになること。
内剛外柔:外見は穏やかでもの柔らかだが、内心はしっかりしていて、芯が強いこと。
七転八起:何度失敗してもくじけず、立ち上がって努力すること。
薬籠中物:必要に応じて使うことのできる、身につけた知識や技術のこと。
八宗兼学:広く物事に通じていること。
古今無双:昔から今まで並ぶものがないこと。
九年面壁:一つのことに忍耐強く専念して、やり遂げることのたとえ。
十全十美:完全で全く欠点のないこと。
おんあろりきゃそわか:観音菩薩(観世音菩薩とも観自在菩薩とも呼ばれる。)の真言であり、無染無着で泥の中より美しい蓮の花が咲くように世の中の人々の心を清浄にするという意味。
観世音:その名を一心に唱えれば、すぐにその声を聞いて救ってくださるという意味。
観自在:私たちの苦しむ姿を必ず見つけるという意味。
急急如律令(きゅうきゅうにょりつりょう):中国漢代の公文書の末尾に書かれていた決まり文句で、「急いで律令の如く行え」、要するに、「急いで事を成せ」という命令句。
そわか(蘇婆訶):真言の最後につく言葉で、「成就」を願う言葉であり、サンスクリット語の「スヴァーハー(svāhā)」が語源となっていて、意味としては「~成就あれ!」。
不動佛心咒:阿閦如来(あしゅくにょらい)の語源は、「揺るぎないもの」を意味し、物事に動じず迷いに打ち勝つ強い心を授けるといわれている。「大円鏡智(だいえんきょうち)」と呼ばれる智慧を具現化した仏。 「大円鏡知」は知識や経験のない純粋な心、鏡のようにありのままを映し出す清らかな心という意味を持っている。その真言が不動佛心咒。
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【ちょっとした雑感】
恩田陸さん著「ネクロポリス」に、以下の様な合理性に関するセリフがあります。
「人間の言う「合理性」という言葉自体が曖昧で揺れているものなのだ。
しょせんは、一人の人間の内側からしかものは見られないのだから。」(同書から引用)
私たちは、いつも効率とか効力を、真先に考えてしまいがちです。
でも、喉が乾ききった時、どんな飲料水よりも、たった一杯の水が、命を元気づけてくれたりしませんか?
例えば、
「応無所住 而生其心」ではなく、
「大麦小麦 二升五合」と勘違いして唱えても、
プラシーボ効果で健康維持が期待できます(^^)
だけど、前述の例において、お坊さんに諭されて、正しく唱えることに変えてしまった結果・・・
心に引っかかりができてしまい。
その途端、魔法が解け、心に執着が宿ってしまって、健康維持に対する効能が無くなってしまう結果に^^;
それほど、ココロは難しい・・・
自分にとっての真言って、自分の治る力を信じて、心の中で唱える時から輝きはじめる世界なんだろうね(^^)
なので、まあ~、ちょっと間違った言い方でも、良いんじゃないかって、そう想います。
それは、
「ちちんぷいぷい」、
「痛いの痛いの飛んでいけ~」、
と言いながら、患部をなでて、さすってくれた母の手に似ています(^^)
悪化したココロのしこりを解きほぐし。
痛みを丸め取って。
ピーンと、弾き飛ばしてくれると想うから。
自分なりの効能大の数え歌を、幾つか持っておくのも良いのかなって、そう感じました(^^)
【参考図書】
「ネクロポリス 上」(朝日文庫)恩田陸(著)
「ネクロポリス 下」(朝日文庫)恩田陸(著)
「ジョニーのかぞえうた」モーリス センダック(著)神宮輝夫(訳)