「ベイトマンニュース」スコットランド生活㊺エディー・リーダーのコンサート
我が家のキッチンのリフォームとバスルームの修理の際に、ずいぶんお世話になった大工さんのサンディとケビンは、めっちゃ穏やかで楽しいおっちゃんコンビです。
細身で物静かで穏やかなサンディとは対照的に、ケビンはちょっと立派なビール腹でいつも冗談を言っては大笑いしている明るいおっちゃん。
実はケビンには大工の他に別の顔があるんです。なんとそれは「バンドマン」。エディー・リーダー(Eddi Reader)という、80年代には世界的に大人気であり、64歳になった現在でもスコットランドでは名の知れた女性歌手のバンドでコントラバスを担当しています。
彼らが我が家の修理に来てくれた時に私が日本人だと知って、ケビンは大喜び。ツアーで何度も日本に行って、彼は日本のことが大好きになったのだそうです。仕事合間にはコーヒーよりも、紅茶よりも、緑茶を好む日本通。笑。
現在も年に数回というペースで、主にスコットランドでのコンサートをしているのだそう。
そんなケビンが「今度この近くの町ダンディーでコンサートをやるんだけど、来る?」と招待してくれて、私と夫は思いがけず「エディー・リーダー」のコンサートに行くことになりました。
いやぁ、これがしみじみとよかったです。エディーと同年代のイギリス人である私の夫は、もちろん彼女のことを(大ファンというわけではなかったけれど)若い頃から知っていて、「いやぁ、若い頃、彼女はめっちゃ可愛くてさぁ。ものすごい人気だったんだよ。」と興奮気味です。世界的に大ヒットした「パーフェクト(Perfect)」という曲は、日本人の私ですら知っていました。
彼女のバンドメンバーは彼女と同年代の熟年バンドで、来ているお客さんたちも皆おっちゃん、おばちゃんたちばかり。笑。ド派手な演出も、大音響もないけれど、心に響くような本物の音楽と、おもしろいおばちゃんトークで、ほんまにしみじみとよかったです。
彼女は元々スコットランドのグラズゴーの下町出身です。7人姉弟の長女で、決して裕福とは言えない家庭で育ったそうです。
18歳の時にロンドンで行われたコーラスグループのオーディションに合格したのがきっかけでデビューを果たし、その美貌と実力であっという間にスターの階段を駆け上りました。
でも大人気となった後、(多くの有名人がそうであるように)若い彼女は苦しみ続けることになります。世間から求められる音楽と自分が奏でたい音楽とのギャップ、当時のバンドメンバーとのトラブル、急にお金持ちになったことでの家族間の揉め事。知名度やお金だけでは人は幸せになれないんでしょうかねぇ。彼女はアルコールに逃げ、アル中になってしまったそうです。
そして40代を超えた頃、心身ともに疲れ果てた彼女は、ふと「故郷のスコットランドに戻ろう。」と決意して戻って来るんです。
当時現在の夫(スコットランド人で彼女のバンドでギターを担当しています。)と二度目の結婚をし、スコットランドに戻って、ようやく穏やかに暮らし始めた彼女だったんですが、今度はその夫が難病にかかって命の危機に直面します。
彼女はなんとか夫を救おうと、自宅に音楽スタジオを建てて夫のそばでレコーディングしながら経済的と精神的の支えをし、夫も何度も手術を受けて、なんとか命の危機から脱却するわけです。
「あれから20年。いやぁ、あの頃はほんとに大変だったわ。でもね、あの危機を2人で乗り越え、今は2人で自分たちが心から奏でたい音楽を作り、こうして仲間と共に演奏している。今が一番最高だわ。」
そんな風に話しながらアコースティックギターとコントラバス、そしてアコーデオンの伴奏に合わせて静かに、でも心に響くように歌う彼女の音楽はほんまに素敵でした。
山あり谷ありを経験した彼女の歌声は、やはり山あり谷ありを経験した(あるいは経験中)である同年代の観客やからこそ、よりしみじみと響いてきたのかもしれないですね。
大工ケビンのコントラバスもめっちゃ素敵でしたよ。完全にプロでしたね。
ふぅふぅ言いながら、大量の汗をかきつつ大工仕事をするケビンしか知らなかったから、ほんまにびっくりしました。笑。
生活していくために、自分がほんまにやりたいことをするために、毎日一生懸命に働いて、そしてたまに集まって一緒に音楽を奏でる。素敵やないですか。
64歳になったエディーは確かに歳をとっていたし、声もハスキーで太い声に変わっていたけど、素敵な仲間たちと一緒に自分の歌を歌っている彼女は、ほんまにキラキラしていて素敵でした。私自身も刺激と感動をもらいました。
さぁ、また明日から私もがんばっていこう。
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