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12シトライアル第五章       狂瀾怒濤の9日間part33

第百六十話 宴の口滑り
 8月17日金曜日。今日は朝目が覚めるともう家に父さんの姿はなかった。今度はどこに飛んで行っているのやら。それはそうと、俺は今週二度目の食べ放題に来ており、現在店の前で待機中。だが今日は別に俺の親友三銃士と来たわけではない。
「あ!とーる早いね!」
そう俺に声をかけて最初に来たのは、俺の最強の相棒由香里ゆかりだった。そしてそれに続いて、
とおるお疲れ!」
「由香里ちゃんやっほー!」
県大会を以て引退した桜森さくらもり先輩と春田はるた先輩、そして
「おーいきし、お前何分前に着いてんだよ…早すぎだろ。」
もりはやしといった同級生、さらには岡林おかばやし先輩やつじ先輩ら、三年生の諸先輩が続々やってきた。そう、今日は二、三年生合同の打ち上げだ。え?なんで一年生がいないのかって?それは一年生までいれると人数が多くなりすぎて予約が取れなかったからだ。という事情で申し訳ないながら今回は、去り行く先輩たちとこれからを担う俺たちという二世代での打ち上げとなっている。

 全員集まったので入店し、コースの確認をした。今日の食べ放題はしゃぶしゃぶである。
「それでは、みんなお疲れ様でした!俺たちはもう引退ってかたちだけど、二年生はこれからも高みを目指して頑張ってほしい。それと一年生の面倒しっかりみるんだよ。」
桜森先輩が理想の部長トークをしたところで、
「それじゃあ乾杯の音頭とりまーす!乾杯!」
春田先輩の音頭で宴が始まった。注文する前から元々出されている肉を全て消費しないと、追加で肉の注文ができないので、まずはそこから平らげることにした。ちなみに俺と同じテーブルを囲っているのは桜森先輩、春田先輩、そして由香里だ。
「じゃあどんどん入れますね。」
こういう雑務は後輩たる俺…や由香里の仕事!ついついこういう時俺は気を回してしまうさががあるようで、俺は先輩相手に気を遣ってしまう。後輩には、気を遣おうとしなくていいぞと言っているくせに。どの口が言ってんだよって話だよな。もちろん気を遣うのは悪いことではない。だが多分、やりすぎもよくないとは思う。ちなみにそれは…
「先輩!器ください!取ります!」
由香里も同じだった。やっぱりコイツは俺の相棒だな…とつくづく思った。

「そういえば由香里…」
俺はこの間プールに行った時に真凜まりんから聞いたことを思い出した。
「ん?何?」
「お前、体調大丈夫か?大会の後結構な熱出してたらしいけど。」
「あれ?あたしその話とーるにしたっけ?」
「いや、真凜から聞いた。」
「あ、なるほどね!バイト先同じだもんね!」
この話を聞いたのは月曜のバイトの時じゃなくて、水曜日に偶然プールで会った時だが…まあそれは言わなくていいか。
「ちなみにあたしはもうこの通り大丈夫!元気すぎるくらいだよ!」
そう言うと由香里は笑顔で20秒程熱い出汁にくぐらせた豚肉をポン酢につけて頬張った…が、
「熱っ!!」
そういえばコイツ猫舌だったわ。

 閑話休題。
「それにしても最悪だったよ!せっかく真凜と流唯るい先輩とプール行く約束してたのに!」
そういえば本来は桃子とうこじゃなくて由香里が来る予定だったんだよな。
「そりゃお気の毒だな…」
「間が悪かったんだね…可哀想に…」
由香里の隣で春田先輩が合掌する。そして、
「そういえば徹は大会終わってから何してたんだ?」
「俺ですか?」
俺の隣からは桜森先輩が尋ねてきた。この一週間…結構色々やったんだよな。
「そうですね…普通にバイト行ったり、クラスメイトとご飯行ったり、従妹の自由研究手伝ったり、幼馴染とプール行ったり、昨日は久々に父さんが帰ってきたんでホームパーティみたいにしてもてなしたり…大会後なのにあまり休めなかったけど、楽しい時間を過ごしましたよ。」
「逆に徹はよくそれでダウンしてないな…さらに言えば結構暑い一週間だったのに。」
「まあ、そんなハードなことはやってないですからね。」
本音を言うと、何もせずにゆっくりする日は1日くらいほしかったが。

「…ん?てかちょっと待って?とーるもプール行ってたの?幼馴染とって、紗希ちゃんと?」
「え?ああ…まあ。強引に連れ出されてな。」
「え、何曜日?」
「水曜日。」
「じゃああたしたちが行こうとしてた日と同じじゃん!もしかしてプールで真凜たちと会ったりした?」
「ああ、まあ会ったけど。真凜と大城おおしろ先輩と桃子に。」
(尚更プール行けなかったの悔やまれるじゃん…なんであたし熱出したのー!あたしのバカー!)
なんか由香里が頭を抱えているが…風邪がぶり返したのか?
「おい、由香里?大丈夫か?また体調悪化?」
「違うよバカ!」
「理不尽!!」
((こんなにわかりやすいのに…))

 本日二度目の閑話休題。30分程食べ進め、もともと出されていた肉は全て平らげた。
「じゃあ追加注文しますか。先輩、何がいいですか?」
「えっと…それじゃあ…」
下の者が先陣を切って注文をとるという不文律に従いオーダーをとった。そして、野菜は自分たちで取り放題なのだが、その野菜ももうなくなりそうだ。
「由香里、野菜取りに行こうぜ。」
「うん!行こ!」
「じゃあ先輩たちはちょっとゆっくりしててください。」
俺は由香里と野菜、その他を取りに行った。


「ねえ、春希はるき…私たち思いっきり気遣われてない?」
「ああ、俺もそう思う…けど、なんやかんやそこがあの二人らしいところだよね。」
「言えてる!」
「あの二人が食べたそうな肉も注文しとくか。」
「そうしよ!なんか気遣ってくれるのは嬉しいけど、申し訳なさが…ね?」
「ほんとだよな。良すぎる後輩を持つとこうなっちゃうんだな。なんか、幸せ太りする亭主の気持ちがちょっとわかった気がする。」
「んー…なんかそれとはまた違くない?」
「でも、本質は同じだと思うんだよなぁ。将来そんな家庭持てたらいいんだろうな。」
「なんかかなり先を見据えた話になってるね。でも、私も春希とならそうあれる気がする…」
「…えっ?!」
「あっ…私、今なんて言った?」
「「……///」」


「とーるー、あとどれ取る?」
「えっと…えのきと椎茸と…水菜辺り取っておくか?」
「いいね!ご飯とかも持ってく?」
「んー…俺は食べるけど、先輩たちがあとどれくらい食べるかによるかな。由香里は食べる?」
「あたしは食べるよ!」
「じゃあ茶碗二つだけ持って行くか。もし先輩たちが食べるって言ったらそのまま渡してまた俺たちの分取りに来ればいいし、そうじゃないなら俺らが食べればいい。」
「とーるほんとに気遣い上手いよねー。じゃあご飯2杯注いで戻ろっか!」
俺と由香里は野菜の山とご飯2杯を持って席に戻った…

 のだが、
「「先輩?!」」
桜森先輩も春田先輩も下を向いて悶絶している。俺たち別に何も辛いものとか出してない…よな?
「何かあったんですか?」
「二人とも真っ赤ですよ?」
ホントに辛いものなかった…よな?!
「えっと…」
「実は…カクカクシカジカ…」
俺たちはことの顚末を聞いた。
「「はぁ?!」」
そして仰天した。なんと、ひょんなことか将来の話になり、そこで春田先輩が口を滑らせて桜森先輩と結ばれたら…みたいなことを言って、両者悶絶とのことである。
「ていうか春田先輩…桜森先輩のこと好きだったんですか?」
「えっ?!」
俺が尋ねると由香里がさらに驚いた。
「いやとーる、驚くポイントそこじゃないでしょ?!明らかに両想いだったじゃん!」
「「っ!!」」
「え?!そうなん?!」
今年一の衝撃だ。
「あたしが驚いたのはまだ二人が付き合ってなかったこと!多分…みんなも付き合ってると思ってたと思う!ですよね?!」
由香里がみんなに尋ねると、満場一致で頷いた。嘘だろ…知らんかったの俺だけ?
「とーるは自分のことにも人の色恋にも鈍すぎ!この超絶怒濤の激鈍男子!」
たまに大城先輩に言われることを由香里にまで言われた。俺、そんな鈍感?

 場が祝福ムードに包まれている(?)中、
「ご予約の12名様ご来店でーす!」
俺たちと同じ団体客が入ってきた。12人って言ったらうちの一年生と同じだな。てことは、アイツらを連れて来てたらこのお客さん方は入れなかったのか…アイツらには悪いが、連れてこなくてよかった。どうやらその団体は俺たちの近くのテーブルに陣取るようなのだが、ちょっと見覚えのある顔が…
「あれ?!先輩方!お疲れ様です!」
人数が同じだとは思ったが、まさか一年生が自分たちで予約していたとは…しかも日程は言ってなかったから完全に偶然のエンカウントだ。そんなことあります?

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