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12シトライアル第六章       八百万の学園祭part15

第百八十話 Give Me Blood…
 俺たち日曜シフトが教室内に入り、芹奈せりなが暗闇を怖がるので明かりをつけてから準備を始めた。
「ていうか芹奈、お前の担当なんだっけ?」
「ん?受付だよー?」
「それなら教室の中入る必要あったか?」
「…まあ、そんな日もあるよね☆」
やっぱり明るい場所だといつも通りなんだよな…もうちょい暗闇にいる時のテンション感でいてくれてよかったかもしれない。あれはあれで調子狂うが。
「まあでもわたし、学級委員だし、一時的にでも中に入って監督する責任はあるでしょ?」
「だったら、金曜シフトと土曜シフトの時にもそうしろよ。」
「わお、ごもっともー!」
ちなみに、芹奈の口からそれ以上の弁明はなかった。

 結局芹奈を教室の外に出してしまって、それから数分後、
「委員長!確認終わったから確認よろしく!」
お化け役の切込隊長である哲哉てつやがせっかく外に出した芹奈を呼びに行った。芹奈を外に出したのは二度手間だったな。ちょっと失敗である。
「じゃあみんな準備だいじょぶ?」
そんなことは何も気にせず芹奈が尋ねる。暗闇のままだったら間違いなくこうはいかなかっただろう。そして芹奈はコースを巡行しながら個別に確認をする。やがて俺が待ち受ける棺の前にもやってきた。
「てっちゃんもおっけー?」
尋ねられたので俺はひょっこり顔を出し答える。
「ああ、問題ない。」
「ん、りょーかい!みんなだいじょぶそうだね!じゃあそろそろ始めるねー!」
そう言うと芹奈は教室の出口近くのスイッチを押し、電気を消した。そしてドタバタ音がしたので、おそらく暗い空間からそそくさと逃避したのだろう。何事もなく芹奈の確認が終わったことに安堵した。

 それから30秒ほど経った頃、入り口側のドアがガラガラと開く音がした。土曜日シフトの面々をターゲットにした俺たちの予行演習が始まったようだ。そして最初の仕掛け、哲哉が壁から手を出すところで、
「「ひゃーーっ!!」」
甲高い悲鳴が二重に聞こえた。どうやら最初は女子二人組のようだ。やはり仕掛けは全部知っていても、それ即ち全く驚かないということではないのだな、と再認識できた。考えてみれば、実はビビリな俺が驚かなかったのは、同伴の芹奈が俺以上に怯み上がっていたからだったのか。ちなみに今の客の二人は、その後も順調に各トラップで悲鳴を上げ続け、そしてフィナーレ。遂にラストの俺がドラキュラとして待ち構えている棺の前に二人が辿り着いた。ちなみに、ドラキュラの動きは、まず一度素通りしてもらって、そして棺の横を曲がったらもう出口へ一直線となるので、安心して客が出ようとしたところを後ろから、
「Give Me Blood…」
と言いながら追いかける、というものだ。さあ、初挑戦で上手くいくだろうか。

予定通り二人は俺が入っている棺の横をおそるおそるといった足どりで歩んでいることが足音から窺える。そして二人が完全に棺の横を通り過ぎたのを棺に作っておかれた隙間から見て確認して、その隙間に指をかけて棺を開け始める。ちなみに確認するとは言っても、暗くて顔までは見えないので、どんな表情、どんな感情でここを通るのかがわからないのは、脅かす側としては些か残念だ。個別練習の時から思っていたことだが、棺を開けるのに何か装置があったらいいのになんて毎度思ってしまう。なんとか音を立てないように棺を開け、脱出に成功。そして、さらに足音を立てないように二人の背後に忍び寄り…
「Give Me Blood…」
俺はセリフを放った。すると二人は最大級の悲鳴を上げ、俺の方を振り返ることすらせずに一目散に逃げ出した。これは大成功でいいだろう。ただどこか複雑だ。なぜかって?だって今はリハーサルだから全身にドラキュラの衣装を纏っていないし、メイクみたいなのも一切していないからいいものの、本番はわざわざ本格的に姿かたちから入るのに、その姿を全く拝んでもらえないというのも虚しくなるから。できれば声にまず驚いてもらい、さらに振り返ってもらってその形相に驚いてと二段階で驚いてもらいたいものだ。

 その後も順調に驚かせ続けた。途中でよく知る三人の声が室内で聞こえてきたので、おそらくあの三人だろうな…と思い、精一杯驚かそうとしたのだが、俺の棺を通りすぎて出口に向かって歩いて行ったと思って三人の背後に着こうとしたのだが、俺が、
「Give Me Blood…」
と言うより前に、
「「「Give Me Blood…」」」
と三人で言ってきやがった。しかも俺がセリフを放つ前から既にこちらを向いていた。
「…お前らな、首謀者は誰だ?」
「ごめんね、きしくん、二人ともノリノリで止められなかった。」
河本こうもとがそう言ったということは主犯は上原うえはら並びに佐々木ささきで決まりでよさそうだが…
「河本…その割にお前もノリノリだったよな?」
「…なんの…ことかな?」
誤魔化すのが下手すぎる。コイツら、後でホントに血をいただいてやろうか…そして、順路やトラップを全部知っているからってメタ思考を働かせるとか、三人とも全く楽しみ方をわかってない!

 閑話休題。そんな最悪なターンもあったが、それ以外はなんとかやり遂げた。というか、回を重ねるごとにタイミングの取り方とかがわかってきたというより、感覚的に染みついてした。
「それじゃあラスト一人入りまーす!」
受付の芹奈が教室内に告げた。もうラストか…やってみると、短時間でも案外大人数を捌けるもんだな、と感じられた。さあ、ラストも全力でいきますか!そのラストの標的は…
「ひっ…ひゃーーっ!!!」
これまでら入ってきた誰にも劣らない…いや、むしろ過去最大の悲鳴を上げている。普段誰かの悲鳴を聞く機会なんてないので、声の高さ的に女子とはわかるものの悲鳴だけでは誰だか判別できないが…これは脅かし甲斐があるな…などと思っていたら、
「ぐわー!!」
別の悲鳴が聞こえてきた。いや、悲鳴というか呻き声というか…なんだろう、ラスト一人って言っていたから客自体は一人なはず…となると誰かアクシデントがあったのか?心配だが、とりあえず俺は自分の責務を全うせねばならないので、一旦集中だ。

その客はその後も至るところで悲鳴を上げ続け、そしてさらに少し遅れて別の悲鳴…というより先程同様の断末魔のような叫び、呻きが聞こえてくる。これ、順番とか考えると、最初の呻き声は多分哲哉だな…にしてもホントに何があったんだ?いや、だから一旦集中しないと…そう思っていると、俺が待つ棺の近くにまで客はやってきた。そしてこれまでの誰よりも時間をかけて棺の横を通り過ぎる。そのペースはそれこそカニの歩幅ほどだった。

完全に通り過ぎたのを確認し、慎重に棺を開け、そしてその客の背後に迫り、そして最後ということで、最大限におどろおどろしく、
「Give Me Blood…!」
と言い放ってみせた。すると、
「きゃーーーーっ!!」
彼女は特大の悲鳴を上げて、そして振り返った…かと思えば、俺の顔面に固いものがめり込んだ。
「ぐわーっ!!」
ここでやっと察した。この客…絶対信岡しのおかだ…そして、驚いてしまうたび反撃して、それを受けたことでみんな呻き声を上げていたんだな。こんなことを考える間、僅か0.1秒。そしてどんどん血の気が抜けていく。そりゃそうだよな、硬いものだから多分拳か肘か膝、或いは頭突きが顔面に入ったんだもんな…これこそGive Me Bloodだ…

 そして目が覚めると、そこはベッドの上。多分事態に気づいた誰かにより、保健室に搬送されたんだろう。横を見ると、腕を氷嚢で冷やしている哲哉、心配そうな顔をする芹奈、そしてバツが悪そうな顔をしている犯人の信岡がいた。
「あ、てっちゃん起きた!よかったー!」
とおるほんとに大丈夫か?信岡さん曰く膝がモロに入ったらしいけど…」
「膝だったのか…そりゃ意識飛ぶわな…」
「その…本当に申し訳ありませんでしたっ!!」
珍しく信岡が全力謝罪してきた。なんかむしろ調子狂うな…
「まあ、いいよ。どうせホラーとか苦手で、脅かされてつい反撃しちゃったんだろ?」
「はい、おっしゃる通りです…」
「いいよ、そんだけ怖かったか?」
「あれは心臓に悪すぎだわ。」
「お前の蹴りも大概な。」
「……」
「でも、そこまで怖がらせられたならむしろ自信になったかな。ドラキュラとして。」

そんな会話の後、芹奈が俺に紙パックを渡してきた。
「ん?何これ?」
「いやー、ともちゃんにてっちゃん倒れる寸前にGive Me Blood…って言ってたって聞いたから、代わりのトマトジュース!」
俺あれ口に出してたんだ…というかトマトジュースってホントに代わりになるの?なんて思ったが、とりあえずこの厚意はありがたく受け取ることにした。


 どうも、ばっちです!次回10月21日月曜日の投稿は、連載とは関係ない投稿になります。下の記事の答え合わせといきましょう。

 解けた方はいらっしゃるでしょうか?少しでも多くの方に挑戦していただけていることを願います!それでは、また次回お会いしましょう!

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