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12シトライアル第六章 八百万の学園祭part18
第百八十三話 和服と抹茶、ブラコンシスコン
予想以上に面白かった由香里と真凜をはじめとする、10組の漫才を堪能し終え、俺は次の目的地を思案していた。
「面白かったねー!」
そしてなぜか俺に同伴してきた芹奈はそう宣う。
「そうだな。それにしても次どこ行こうかな…」
「決めてないの?」
「正直ノープラン。」
そう告げると、
「じゃあ今度はわたしについてきてよ!」
芹奈が返してくる。なんだ、コイツはプランとか立ててたのか…まあ考えてみれば、実は誰よりも用意周到なヤツだしな、芹奈は。なんなら代えのプランの一つや二つすら持ってそうだ。そんなわけで…
「じゃあ今回はついていかせてもらうよ。」
徒然なるままに校内を練り歩くのも乙かもしれないが、ここは芹奈のプランに乗っかることにした。俺だって正直学園祭を満喫したいからな。
結果、芹奈に連れられてやってきたのは一年生フロア。一年生は、全クラス飲食系の出し物なのだが…
「お前、これ祭りの食べ歩き的なことか?」
「ふっふっふ…てっちゃん察しがいいね。勘のいいガキは…わたしは結構好きだよー!」
嫌う流れだっただろ、絶対。あのセリフに変な主観を混ぜないでほしかった。
「まあ、もちろん食べ歩きってのはできないからちょっと違うんだけど、色んなクラスの食べ物を巡りたいなーと。てっちゃんはこの中だったらどれから行きたい?」
「そうだな…」
一年生って何やるって言ってたかな…歩実のクラスが和風喫茶をやるってことしか正直知らない。金本とか下北とか、その他うちの部の一年生に訊いておくべきだったな。ただ初手はやることが知れているところがいいな。
というわけで、最初は俺の従妹であるところの歩実のクラスに行くことにした。
「やっぱりてっちゃんってシスコンの気あるよね。」
「そうか?」
俺からしたら、圧倒的に歩実がブラコンで、俺はそれに付き合わされる従兄だと思っているが…もしかしたら、それにあまり嫌な顔せずに付き合いきっている時点でシスコン認定されてしまうものなのかもしれない。よくわからんけど。
いざ実際に歩実のクラスを見ると、
「なかなか作り込まれた外装だな。」
「ほんとだねー。」
竹などが描かれた壁紙が貼ってあったりもそうだが、まさかのドアまで交換しており、普通のドアではなく襖に変えられている。そんなのアリなの?よく申請通ったな。そんな折、
「ようこそ、いらっしゃいました。」
その襖から和服を纏った女子生徒が出てきて、俺たちに歓迎の言葉を放った。
「現在、比較的空いていますので、すぐにでもご案内できますが、いかがですか?」
どうやらベストタイミングだったようだ。
「それじゃあお願いしまーす!」
俺が答えるよりも早く、芹奈はすぐさま答えた。反射として口をついて出た言葉と形容するのが適切な程早かった。俺じゃなきゃ見逃してたね。
そのまま教室内へと導かれ、席へと案内された。そして、手が混んでいたのは外装だけではなかったことに気づく。席は教室内に張り巡らされた畳に配置されている。とにかく和のテイストに全振りしているらしい。まあ、お菓子は実際に作っているわけではなく和菓子屋さんから仕入れているらしいから、その分力を入れるとしたら内装・外装だったということだろう。
「それではこちらのお座敷におかけください。」
俺と芹奈は促されるままに腰を下ろした。
「てっちゃんって和菓子好きなの?」
「そんな飛び抜けて好きってわけじゃないけど、洋菓子よりは和菓子派かな。どちらかと言えばだけど。」
たまに洋菓子のクリームがふんだんに使われたやつを食べると気持ち悪くなるんだよな…そういう意味で、和菓子の優しさがどちらかと言うと好きなのだ。
「じゃあてっちゃんの喫茶店でも和菓子出せばいいのに。」
「それとこれとはまた別だろ。」
まあ、それをやりかねないのがうちのマスターなのだが。
「ちなみに、かく言う芹奈は?和菓子好きなのか?」
「いや、別に普段そんな食べるものでもないかなー。普段大体スナックだから。」
「たしかになんかそんなイメージかも。てか、この前コンビニ行った時とかもその話したな。コンビニスイーツとか好きでよく買うとか、ただスナックの方が…とかとか。」
「お、よく覚えてるね!さてはてっちゃん、わたしのこと好きすぎかー?そうならそうとハッキリ言いたまえよー!」
…ウザい。調子に乗らせてしまった。
閑話休題。しばらくして俺たちの元に、先程案内してくれた子とは別の和服に身を包んだ女子がやってきた…のだが、
「お兄!来てくれたんだー!芹奈先輩もお久しぶりです!お兄、今日は芹奈先輩との学園祭デート?あっ…じゃなくて…気を取り直して、お越しいただきありがとうございます!」
よく知る従妹であった。そういえば、長い付き合いなのに、和服姿の歩実って初めて見るかもな。というか、学園祭デートて…少なくとも俺と芹奈でそれはないだろ。俺もそうだが、芹奈も多分そんなことには無頓着だと勝手に思っている。
「てっちゃん暇そうだったから!ごめんね、お兄ちゃん勝手に連れ回して。」
「いいんですよ!お兄がみんなと仲良くしてるの、わたしも嬉しいから!」
「いやー、歩実ちゃんほんといい子だね!いかん、わたしの妹にしたいっ!」
芹奈、反応に困ることを言わないでほしい。
「じゃあ、ところで二人ともご注文は?」
「俺は抹茶とどら焼きを頼む。」
「わたしはねー…羊羹・芋羊羹盛り合わせと抹茶で!」
「承知しましたー!それじゃあ暫しお待ちを…」
なんとか注文を終わらせた。
「にしても芹奈、最初から芋羊羹なんて食べていいのか?だいぶ腹に溜まるぞ。」
ホントにコイツは一年生グルメを巡る気はあるのだろうか。
「あー、だいじょぶだいじょぶ!わたし、胃は使い分けられるから!」
「…おん?」
「えっとね…飲み物の胃、主食の胃、おかずとかサラダとか諸々の胃と、あとスイーツの胃って感じで!」
「お前は牛か!」
いや、牛でもそんなトチ狂った使い分け方はしないが、胃が四つあるのはもはや牛である。
「面白いこと言うねー。わたし今日から自己紹介に牛予備軍とか入れようかな。」
「いいんじゃね?食べてすぐ寝て牛になるとも言うし、お前のタックル闘牛のそれ並だし。」
「これ、わたし実は貶されてたりする?」
「……」
「てっちゃん何か言って?!」
閑話休題。そんな芹奈とのいつも通りのくだらない会話を重ね、しばらくして、
「お待たせしましたー!抹茶二つと、どら焼き、それから羊羹・芋羊羹盛り合わせです!ごゆっくりどうぞ!」
注文していたものを歩実が届けに来た。和菓子屋さんの和菓子だからこのクラスのオリジナルというわけではない。けれど、学園祭にはそれを特別なもの、唯一無二のものだと思わせる力があるのを、今初めて思い知った。あれ?そういえば…
「歩実、お菓子は店のやつってのは知ってるけど、この抹茶は?」
流石に淹れた状態で店から買っているわけもないのだが、そうしたら誰が淹れたと言うのか。
「あー、それね、うちのクラス、茶道部員が3人いてね!むしろ、それを活かすために和風喫茶をやろうっていう風になったんだ!だからお茶の質についてはご心配なく!」
すごいな、茶道部がクラスに3人も固まってることあるんだ。歩実が去って行った後抹茶とお菓子を味わったが、落ち着く味、美味であった。
「疲れたー!」
バックヤードに戻ってわたしは来ていた和服を脱ぎ始める。
「みんなありがとね、協力してくれて!」
「いいのいいの!第一、和風喫茶やろうって言い出してくれたの歩実ちゃんだから!ちょつとくらい我儘言ってくれてむしろ嬉しかったよ!」
「私もー!」
「それにしても、歩実ちゃんってほんとに岸先輩、だっけ?好きだよね!」
「ね!なんというか…ブラコン?」
なんともストレートな言葉をぶつけられた。まあ、否定はできないけど。
「だって、お兄ちゃんの接客するためだけに、お会計担当から午前中だけ着物を着るなんて。それも急遽。」
そう、わたしは接客担当でもなんでもない。ただ、お兄のスケジュール的にここに来れそうな金曜午前に接客に回ってお兄の相手をしたかった。違うな、せっかくだしお兄にわたしの着物姿見せたかった。てことでみんなに無理言って着物を着せてもらって、接客に回らせてもらったのだ。お兄はさぞ驚いただろうなー。あと、わたしのこと、可愛いって思ってもらえてるかな…思ってもらえてたら、従妹冥利に尽きるよね!
(((ブラコンな歩実ちゃん…可愛いっ!)))