12シトライアル第六章 八百万の学園祭part22
第百八十七話 デジャヴとジャメビュ
下北のクラスの学園祭の出し物とはいえ、初めてメイド喫茶を体験した。
「メイド喫茶ってこんな感じなんだな。」
「うん、なかなかいいでしょ?」
「いいかどうかは難しいけど、こういうのを嗜好とする人がいるなら悪いもんじゃないだろうな。」
「まあ、そういう需要があるから存在してるんだけどね。」
「それもそうか。ならいいんじゃね?」
「徹、主観の感想へたっぴ?」
…正直あまり得意ではない。客観的事実に基づいて行動したい人間だから、あまりそこに主観を混ぜるのは得意じゃない…というか、俺の主義には合わない。
「じゃあ心愛ちゃんはどうだった?」
「え、似合ってたんじゃないか?」
「それはさっきも話した。徹個人的には?」
いや、主観的な感想は好きじゃないんだよな…何かの拍子にここで言う感想が下北の耳に入れば、下北の気分を害するかもしれないし。
「でも大丈夫。徹の感想はそれはそれ。心愛ちゃんの耳に入れることはない。」
またも桃子に腹の中を見透かされたかのような発言をされた。俺はコイツの心情全く読めないというのに…
「まあ、そうだな…上手く言語化できないけど、なんと言うか…下北らしいけど下北らしくなかったって感じはしたかな。」
「…どゆこと?」
そこは俺の思考読み取ってくれ!まあ、言葉足らずで読み取らせようとか、そんなの都合が良すぎるよな。俺はこっそり俺の傲慢を反省した。
閑話休題。腕時計を見ると、時刻は13時頃になっていた。
「じゃあ、長居しすぎてもロット乱しで迷惑だろうし、そろそろ出るか。」
「そうだね。」
(これ、徹の喫茶店も長居したらロット乱しになるのかな…今度行く時気をつけよう。)
「お嬢様!ご主人様!本日はありがとうございました!またいつでもお出迎えいたしますので、是非またお帰りください!」
去り際、下北がメイド喫茶にありそうな挨拶をしてきた。またここでメイド喫茶をやっていることなんてないけれど。だが、ちゃんと最後までメイドを演じきってくれた。きっと恥を忍んでのことだと思う。だからこちらも相応に応えてやらないとな。
「ありがとう、またコーヒーでも用意しておいてくれ。」
「メイド、昇給。」
なんか桃子の演じ方はベクトルが違う気がするが、なんやかんやお嬢様とご主人様という立場をそれぞれ楽しんだ桃子と俺なのであった。
退室し、
「じゃあ桃子、この後俺は演劇観に行こうとしてるんだが、お前はどうする?」
そんな話題を振ってみた。
「あ、私も一つ観たいクラスある。」
「どこ観るつもりなんだ?」
「3H。部活で一番仲良かった先輩がヒロインだから。」
「なるほど…じゃあ別みたいだな。俺も同じような理由でC組観に行こうと思ってんだ。前部長たちがいるし、図書委員長の大城先輩とかもいるしな。」
正直、前部長コンビの演技とかすごく気になるし、大城先輩の脚本がどんな感じに仕上がったのかが何より気になって仕方がない。いや、そういえばもう一つ気になることが…
「桃子、お前部活何やってんの?」
「バドミントン。」
「初耳なんだが?!」
「言ってなかったから。」
シンプルに知らなかった。
「言ってくれてよかったのに。」
「訊かれなかったから。」
やはり俺は初対面の時とか、それ以降もそうだが話題の振り方、探り方が下手らしい。にしてもバドミントンか…桃子のすばしっこさの根底にあるのはバドなのかもな。
閑話休題。桃子と行き先が分かれたので、またまた一人行動の時間になった。そして3年E組の教室前に着いたのだが…
「あ!やっぱり岸さんも観に来たんですね!」
こちらとしても予想通りと言えば予想通りで、大城先輩の脚本作りを手伝ったことで、間接的に3年E組に貢献していた田辺さんがいた。尤も、時間まで重なるとは思ってもみなかったが。すごいな、今日1日。ずっと一人で回るつもりが、芹奈然り桃子然り、そして今の田辺さんもそう。偶然時間と場所が合うことがこんなにもあるのか。友人の母数が増えたから、誰かしら友人と鉢合わせする可能性も高くなったといったところだろうか。これを去年の俺に教えてやりたい。お前は翌年、友人たちと学園祭を回ることになる、と。
「せっかくなので、一緒に観ましょう!」
そう田辺さんが提案してきた。てっきり問答無用で一緒に観ることになるものだと思ってはいたが。こちらとしては、偶然出会しておいてわざわざ別々に観なければならない理由など特にないので、
「わかった。観ようか。」
普通に了承した結果、このクラスの演劇は田辺さんと観覧することになった。
「すみません、次二人分で席を取れる公演っていつですか?」
田辺さんが受付で確認している。
「えっと…二人は在校生だよね?」
「はい。二年生です。」
「在校生枠は…あ、今日最後の3時10分からの公演だったらまだ枠余裕あるから予約できるね。予約しますか?」
「はい!お願いします!」
どうやら予約はできたようだ。
「岸さん、すみません。二時間近く待たなきゃいけないんですけど、どうしますか?」
「いや、別に田辺さんが謝ることではないよ。」
それだけは紛れもないことである。それにしても、ここから二時間…
「たしかに、どうしようか…」
偶然出会しただけならまだしも、一緒に予約してしまった以上、ここからまた別行動というとはなんか違う気がする。だが、
「田辺さん、もう何か食べた?」
「あ、はい。クラスメイトとメイド喫茶で…」
あ、この人も下北のとこ行ってたんだ。
「心愛ちゃん可愛かったんですよ!」
「あー…実は俺も桃子に連れられて行ってきたから、下北は見た。なんかいい意味でイメージと違ったからびっくりしたけど。」
「ですよね!可愛すぎて、チェキ撮ってもらっちゃいました!岸さんもだったりしますか?」
「まあ、桃子に促されてではあるけど。」
話の内容がすごくデジャヴ!…って別にそんな話がしたいんじゃなかった。
閑話休題。結局その後10分程、田辺さんがメイド下北について熱弁していた。俺は黙って聞いておくことしかできなかった。それにしても、田辺さんといい桃子といい、みんなそんなメイド喫茶とか慣れてるものなのか?
「お互いもうお昼は食べちゃってるわけで…何か娯楽がいいと思うけどどうする?」
俺はパンフレットを田辺さんに渡して訊く。
「そうですね…あ、私これ興味あります!」
田辺さんが指差したのは、服飾部/写真部のブースだった。
「なんでも、コスプレとか和服の着付けとかをして写真を撮ってもらえるみたいで!」
あ、これ服飾部と写真部の共同出店ってことか。正直俺も他に特にやりたいこともなかったので、乗った。
今回、服飾部と写真部のブースは化学室だったので、そこに入室すると、
「あ、岸じゃん!あと田辺さん!いらっしゃい!」
俺の親友の一人、上原がいた。手にはカメラを持っている。そして…
「お、学祭デートか。いいね。」
同じく佐々木までいた。
「お前、そう見えるからって言うなよ…」
「そう見えるって言っちゃってんじゃん…」
「あっ…岸、田辺さん、悪い!悪気はない!」
二人のそんな会話を俺はどんな気分で聞いていればいいのやら…毎回割と困る。変な誤解が生じかねず、田辺さんにも申し訳ない。田辺さんを見遣ると、やはり顔が赤い。そりゃそうだ。俺とそんな関係だと思われるのは心外だろう。
((相変わらず岸は何も気づいてなさそう…平常運転だ…))
「それにしても、上原は写真部で佐々木は服飾部だったんだな…知らなかったよ。」
なぜこの二人は今まで部活の話してこなかったんだろう。それにしても、今日は急に桃子の部活も知ったりと、近しい関係の友人たちの知らなかった一面を続々と知ることができている。そういう意味で、今日という1日においてはデジャヴなのかもしれないが、未だかつてこんなに友人について新たにいろんなことを知った日はないから、過去全部を比較対象とすれば、とんてもないジャメビュの1日だ。…って、あれ?そういえばコイツら、体育祭前にリレーに立候補してたよな。文化部所属でそれはかな。強心臓だな、二人とも。
閑話休題。
「てなわけで、ここはコスプレフォトショップなんだけど、岸と田辺さんはどんなのが撮りたい?ソロもできるしツーショットとかもできるけどどうしたい?」
「俺はどっちでも…」
「ツーショットでっ!!」
食いつきがすごい。俺は宣言通りどちらでも良かったので、田辺さんの熱望によりツーショットを撮ることになった。どんな写真が撮れるのか、案外楽しみだ。