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12シトライアル第三章 疾風怒濤の11時間part32
第八十四話 疾風怒濤の11時間の回顧録
色んな意味で荒波に抗った渓流下りも幕を閉じ、正直俺はもうボロボロだ。そもそもラフティングを渓流下りと言ううちの学校はどうなってるんだ…渓流下りの後、昼食はとったが、もはや疲れすぎてあまり喉を通らなかった。そして現在12:30。あとはバスに1時間程揺られて帰るだけ。ゆっくり寝て休みたいところだ。
「岸くん、そろそろバス乗ろうか。」
河本が話を振ってきた。
「そうだな、行こう。」
答える俺の声に力はこもっていない。とはいえバスに乗らないことには帰れないので、余力を振り絞り、俺たちはバスに向かった。バスに乗ると、俺の後ろの席で既に信岡が眠っていた。
「信岡、後輩の救出、相当頑張ってたからな…」
「これはゆっくり寝かせてあげなきゃだね。」
まあ、俺も寝ようとしていたのでちょうどよ…
「みんなお疲れー!!」
芹奈黙れー!
閑話休題。
「ごめんごめん、ついついテンション上がっちゃってさ!」
「絶対今じゃないだろ…」
なんとか信岡はまだ眠っている。起こしていたらどうなっていたことか…考えるだけで恐ろしい…
「そういうわけだから、とりあえず帰りのバスは静かにしといてくれ。」
「あはは…りょーかーい。」
コイツが最低限のモラルは持ち合わせていてよかった。
程なくして、我々A組も通路挟んで隣のH組も全員が揃ったようだ。
「それじゃあ、出発するぞー。運転手さん、お願いします。」
「眠たい人も多いだろうから、できるだけ車体が揺れないように気をつけますねー。」
なんて神対応な運転手さんなんだろうか!
「ねえ徹、林間学校どうだった?」
通路挟んで隣の桃子が俺に問いかけた。
「そりゃあ楽しかったさ。色々大変だったけど。」
「たしかに徹、今疲れた顔してる。渓流下り?」
「ご名答。たしかに疲れはしたけど、結局は楽しいが勝つ林間学校だったかな、渓流下りも。」
「それは何より。」
「桃子は?」
「私も楽しかった。カレー、美味しかった。」
「チーズ山盛りにしたんだっけ?」
「そう、なんか班の人はみんな引いてた。」
果たしてどれだけ山盛りにしたのだろうか…
閑話休題。それからも桃子と数分話した後、
「私も疲れたし、そろそろ寝ようかな。」
流石に桃子も疲れたようだ。ただ眠る前に一つ。
「一個だけ聞いていいか?」
「ん?」
「キャンプファイヤー、何か感想あるか?」
やっぱり自分が担当したものの評価は気になる。
「すごく綺麗だったよ。特に最後の花火。たしかあれって徹の仕事だったよね?」
「よくご存じで。」
「徹のことは基本なんでもわかる…係も委員会も、部活も…身長、体重…血液…が…た、いつも…部屋で…一人で何…し…」
「話しながら寝るな!」
ていうか、怖っ!普通に恐ろしいくらい知ってんじゃねえか!帰ったらカメラか盗聴機探すか…
さて、話し相手だった桃子も寝たことだし、俺もそろそろ寝るとするか…なんて思っていると、俺のスマホがポケットの中で震えた。液晶を見ると、
「紗希?」
幼馴染からメッセージが届いていた。
『林間学校昨日と今日だったよね?
どうだった?』
というメッセージ。今日は金曜だから普通に学校あるはずだが、よく考えてみれば、時間的に今は昼休みだからこうして連絡できているわけか。
『めっちゃ疲れたけど、最高に楽しかったよ。
服選びとか手伝ってくれてサンキューな。』
と返した。刹那、既読がついた。早すぎだろ。
『それは何より。役に立てたならさらに何より。』
返信も恐ろしい程に早かった。
『それに…』
なんだろうか、さらに追撃か?
『うちも』
『来月』
『林間学』
『校』
紗希のもう未来永劫発生しないであろう連続メッセージ!しかし、林間学校を『林間学』と『校』に分けるのは謎すぎる…ホントにコイツはいつも何を考えているのやら…
『そうか、楽しんできてな。』
俺はメッセージを分ける趣味はないので、普通に一文で返した。すると、
『うちがとーくんの買い物に付き合ったように
とーくんにもうちの買い物付き合ってもらう』
今度は一文で送ってきやがった。というか…
『この間紗希の分も買わなかったか?』
買い物の日、たしかに俺に必要なものは買ったが、同時に紗希の買い物にも付き合ったような…
『それとこれとは別…』
なんじゃそりゃ…
閑話休題。こんな感じでやりとりを続けること30分、
『それじゃあとーくん、うち授業始まるから』
ということで、俺たちの液晶でのやりとりは幕を閉じるのだった。これでやっと寝られると思ったが、
「えー、二年A組、H組の皆さん、間も無く学校に到着しますんで、近くの人を起こしてあげてくださいねー。」
最悪だ…結局寝れずに終わるのかよ…と心の中で嘆いていると、
「おはよう、岸くん…よく眠れた?」
隣で寝ていた河本が目を覚ました。
「生憎まったくだよ…」
河本…羨ましいヤツめ…
「それはお気の毒に…でも、家に帰ったらゆっくり寝るといいよ。」
「言われなくてもそのつもりだよ。」
俺たちは笑い合った。笑えるだけの力は残っていてよかった。
「それにしてもこの林間学校、色々あったね。」
「ホントだな…」
河本に問われて俺は返答しつつ思い返した。バス移動前に市場で買い出しをした1時間、行きにバスで揺られた1時間、班で野外炊爨を楽しんだ2時間、肝試しのまったく違った二周に費やした2時間、裏方でみんなのためせっせと働いたキャンプファイヤーの1時間、電話とか部屋でみんなと話した消灯前の1時間、朝食前に自然豊かな道を歩いた1時間、時に穏やかで時に大荒れだった渓流下りの1時間、そして帰りのバスでみんなと対話やチャットをしつつ二日間を振り返っている今この1時間。一つの林間学校とは思えないほど濃密な経験ができた二日間だった。
だが、一つ一つ全てが思い出深い。その分一つ一つの時間の流れは疾風の如く速く、次の出来事は怒濤のペースですぐやって来る。去年はそんなこと、感じられなかった。それもきっと、一つ一つが大切な“仲間”たちとのエピソードだからなんだろうな。
このように振り返り、俺の…いや、俺たちの今年の林間学校は幕を閉じていく…
おまけ
「家に帰るまでが林間学校だ。最後まで気を抜くなよー。さようならー。」
「「「「「さよならーー!」」」」」
先生が小学生の遠足の時のようなセリフを言って我々は解散となり、俺は心は軽く、体は重い足取りで駅へ向かった。とにかく寝れていないため疲れているのだ。まあ何はともあれ、林間学校は終了。家に帰ったらしっかり休もう。そう考えてしばらく歩き、なんとか駅へ辿り着き、電車に乗り込んだ…までは記憶がある。
目が覚めると…
「…終着駅だ…」
どうやら寝過ごしたみたいだ。この時、最後に先生が言ったセリフが頭の中で反芻された。
「家に帰るまでが林間学校だ。最後まで気を抜くなよー。」
先生、すんませんでした!
12シトライアル第三章をここまで読んでくださった皆様、お久しぶりです!ばっちです!第三章はこれにて完結となります。第三章は林間学校のお話でした。どうでしたか?もしかしたらこの林間学校のお話を通して、ご自身の学生時代思い出したよ!っていう方とか、今後林間学校控えてて楽しみ!って思ってくれた学生の方とかいらっしゃるんじゃないかなーと思います。いや、いれくれたら嬉しいです笑
僕自身は林間学校なるものは中高通して一回もありませんでした。高校はご時世もあってですかね。まあそれ故、この章は完全に僕の妄想林間学校で書いているので、あくまでもフィクションとして楽しんでいただけていたら行幸です。
さて、第三章完結ということで、週明けの10/2(月)より、新章スタートとなります。次はどのような物語が展開されるのか、是非お楽しみに!
そして、もうすぐ私ばっち、noteで活動開始して一年を迎えます!またその時にも申し上げるとは思いますが、二年目のばっちもどうぞ、宜しくお願い致します!