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12シトライアル第五章       狂瀾怒濤の9日間part1

第百二十八話 祝勝会の主役?
 地区大会という嵐のような二日間が終わりを告げた。色々しんどかった。自分の勝敗で決勝の結末が決まり、先輩と県大会を賭けた試合をし、団体戦で負けた因縁の相手と県大会最後の一枠を争い、そして先輩たちへのリベンジの最後のチャンスをものにした。この大会、俺はいろんなことを成し遂げたが、正直運が良かったのだ。謙遜するなという気持ちもわかるが、実際俺は、先輩たちという明確な目標があったからここまで強くなれたわけだし、県大会の枠が17だったから桜森さくらもり先輩に負けても首の皮一枚繋がっていたのだ。それに何より、絶体絶命とも思える場面から立ち直れたのは、部の仲間や応援に来てくれていた友人たちのおかげに他ならない。いい仲間や友人に恵まれた。これは幸運以外の何でもないだろう。

「おーい、とーるー?なーにそんな険しい顔してんの?…聞こえてる?とーるってばぁ!」
「うわっ、うるさっ!何だよ、由香里ゆかり!」
「何だよ、はこっちのセリフだよ!せっかく真凜まりんとマスターが祝勝会開いてくれてるんだよ?」
そう、あんな考え込んでおいてなんだが、現在、大絶賛俺たちの祝勝会中である。ことの発端は…

 「よし!それじゃあみんなお疲れ様!今日はゆっくり休んでな!」
桜森先輩の号令で我々東帆とうはん高校卓球部は解散した。そして、
「じゃあ、あたしたちもそろそろおいとまするわね。今日はいいもの観れたわ。」
信岡しのおかがそう言ったのを筆頭に応援に来ていた面々も帰ろうとしたのだが、
「みんなストーップ!!」
真凜がその面々と、卓球部の内まだ残っていた俺と由香里、金本かねもと下北しもきた、さらには桜森先輩と春田はるた先輩を呼び止めた。
「ちょいちょい、真凜、なぜ止めた?」
そう尋ねたところ、
「今からうなばらで由香里ととおるくんの祝勝会をやります!マスターにはもう伝達済みです!ということで…今から行きましょう!」
「…待て待て待てっ!んな急すぎないか?!」
「私は最初からそのつもりだったよ?」
「俺たちが負けてたらどうしてたんだよ!」
「準優勝おめでとうの会にしてた!」
「決勝は確定だったのかよ…」
「そこは…まあ2人なら大丈夫だって信じてたし、あとは一か八か…ね?」
ね?じゃないだろ…なんて思ったが、マスターにまで裏をとってるんなら逆に行かないとマスターに申し訳ない。ということで行くことになり、今に至る。ちなみに部長のお二人は…
莉桜りおちゃん!桜森くん!2人も来て!」
2人とクラスメイトの大城おおしろ先輩も説得したことでついて来させられたようだ。

 「徹くん!ちょっと手伝ってー!!」
「俺祝われる側じゃなかったのかよ…」
「いってらっしゃーい!」
なぜか俺も厨房に呼ばれた。自分で言いたくはないが、一応俺主役だぞ、今日は。なんて思いながら厨房に向かったが、流石にマスターも真凜も弁えていたようだ。運ぶのを頼まれただけで済んだ。どうやら主役の面目は保たれているらしい。頼まれた品々を客席の方に運ぶと…
「…なあ、誰かこの状況を説明してくれ…なんで増えてるんだよ!!」
「てっちゃんお疲れー!」
「お姉ちゃん、第一声それじゃないでしょ?徹さん、おめでとうございます!」
「徹、おめでとう。ちなみに今日は姉不在。」
「流石にな?」
今日はいなかったはずの岩井いわい姉妹と桃子とうこが来ていた。なぜ?
「勝手に多田ただちゃんと委員長に連絡させてもらったわ!」
信岡てめぇやりやがったな!仕事増えるじゃねえか!ちなみにこの後、結局調理も担当しました☆運ぶだけではなかった。あゝ無情、あゝ無情。

 結果、およそ30分後、全ての料理を作り終えた。パーティーメニューなど普段作らないから余計大変だった。アラカルトって食べるのは楽だけど作るの面倒なんだよな…特に揚げるのが。
「徹くんお疲れ様!!あと…ごめんね、今日の主役なのに手伝わせちゃって…」
「申し訳ないね。でも、特に文句も言わずに手伝ってくれて助かったよ。ありがとう。」
真凜とマスターに良心があるのがせめてもの救いだ。
「それにしてもマスター、今日店休みなのにすみません。こんなことしてもらっちゃって…」
そう、うなばらでは基本的にその月の29日以降は定休日。働いていても変なシステムだとは思うが、これに従えば7月29日の今日は本来店は休みなのだ。それなのに店を開放してくれるだけでなく、マスター本人も来てくれているのだ。ありがたいが迷惑じゃないのだろうか。
「いいんだよ。真凜ちゃんも私も、徹くんの活躍を祈っていたし、優勝という輝かしい成績を残して帰ってきたらそりゃあ祝いたくもなるさ。」
…いい人すぎないか?あの母親もこんな人だったらよかったのかな…って何考えてんだ俺は…

 閑話休題。料理がずらっと並んだテーブルを15人で囲って座る。
「私はもう帰るから、徹くんと真凜ちゃん、最後戸締りだけよろしくね。改めて徹くん、おめでとう。」
「ちょっ、マスター?!」
あの人ホントに料理だけして帰っちゃったよ…
「じゃあ、乾杯の方を…って音頭は誰がとる?」
そう尋ねると、全員一斉に…
「徹。」「てっちゃん!」「とーるー!」
「お兄!」「岸くん。」「岸。」「徹くーん!」
「とーくん…!」「岸センパーイ!」
「徹さん!」「徹先輩!」「岸さん。」
満票で俺かよ…にしても全員呼び方バラバラって…まとまりねえな。流石に嫌なので部長たちに目線を送ると、
「徹くん、ファイト!」
「適任は徹しかいないよ!」
先輩方にまで太鼓判を押されてしまった。一応俺、陰キャだぞ?それにしても、この面々と同時に一緒にいるって初めてじゃね?ホントに個性の塊みたいな面々だよな、コイツら。

グズグズしていてもしょうがないので、俺はコーヒーの入ったグラスを持って立ち上がった。
「ええっと…とりあえず皆さん、昨日と今日はお疲れ様でした。それから…その…ありがとう。」
「てっちゃん固いぞー!!」
芹奈せりなが野次ってきた。コイツ…あとで覚えてろ…
「ホントに応援のおかげで、この2日間の結果を残せたと思ってます!というわけなので…俺と由香里のミックス優勝だけでなく、東帆高校団体、シングルスでの男女それぞれの県大会進出、ミックスでのツートップ、そして何よりみんなの応援への感謝、その全てを込めまして…乾杯!!」
やはり固かったかと思ったが、ちゃんと皆も合わせて乾杯と言ってグラスを上げてくれた。グラスの中は皆バラバラだったが。

 その後は皆で和気藹々と話を交わしながら用意した食事も楽しんだ。大会の話やテストがどうだったとか、何でもないような話がとても楽しかった。しかし途中で女子がほとんどであるのをいいことに、聞かないようにしていても聞こえてしまうこちらの気まずさも知らずに女子陣が恋バナなどを始めた。
「ちょい徹、こっちこっち!」
「あっ、はい!」
それを察知してか、桜森先輩が俺を一旦外に連れ出してくれた。間違いなく理想の先輩ランキング堂々の一位である。こうしてなんとか、俺は女子がどんな会話をしているのかを悟らずに済んだ。これだけ仲良くしてくれていると、少しは期待してしまうところが普通はあるはずだ。だが、俺は期待しない。いや、できないのだ。理由は…いずれ話す、かもしれない。

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