12シトライアル第六章 八百万の学園祭part33
第百九十八話 ありがたや…
どーもどーも、うちは紗希。古川紗希。うちの幼馴染、とーくんの幼馴染…そりゃそうか。今日はそんなとーくんやその従妹の歩実ちゃんと約束していた通り、二人の高校の学園祭を見に行く。楽しみすぎて夜眠れるか不安だったけど、羊を一匹数えようとしたところよく眠れた。この話をとーくんにしたら、きっと真顔で「何言ってんの?」とか言われるんだろうな。
昨日とーくんと一緒に、とーくんの学校近くの喫茶店に行ってるからもう一人でも迷わず行ける。去年のうちは、傍からみたらきっと迷える子羊みたいになってたことだろうね。そもそもどこで降りればいいかもわからなかったし。でも大丈夫、今回はもう最寄駅に迷わず降り立つことができた。心配ごとはない。あるとしたら、あの喫茶店からとーくんたちの高校までどうやって行くか…どうやって行くんだろう。
閑話休題。意味はよくわからないけど、とーくんがよく言っている気がするので言ってみた。意味はよくわからないけど、語呂がいいからちょくちょくこの言葉は借りようかな。ともあれ、なんとかとーくんたちの高校に辿り着けた。迷うかもとは思ったけど、道を通ってみると案外既視感があって難なく辿り着けた。さて、とりあえず受付でも済ませよう。
「ようこそ!東帆高校へ!こちらにお名前などなどお書きください!」
受付の人の案内に従って表に諸々を書く。名前、古川紗希。本校生徒との関係、幼馴染とでも書いておこうかな…いや、漢字で書ける自信ないし、友達でいいかな。こういった受付用紙には珍しく…なのかな?書くべき項目が多かった。年齢とか、職業とか、地元民か否かとか…個人情報洗いざらい吐かせる気だろうか。まあいっか。とーくんの学校だし…自分で言ってて思う。どんな理由だよって。
閑話休題。うん、何回心中で呟いても語呂が良くて心地良い。とーくん、いい言葉知ってるな。
「ご記入ありがとうございます!それでは、こちらパンフレットになります!ご自由に楽しんでくださいね!」
「ありがたや…」
「ありがたや?!」
なぜか驚かれた。なんでだろうか。まあ、幼馴染のとーくんと歩実ちゃんですらちょくちょくうちの発言に驚いてるみたいだし、わからなくもないけど…んー。なんでだろう。
そんなどうでもいいことはさておき、早速校内を回り始めることにしよう。時間は10時前。まだそこまでお腹も空いていないから、一旦何かしらのアトラクションでも行こうかな。とーくんのところ…は、歩実ちゃんと合流できてからだしな。一旦歩実ちゃんに連絡しとこう。
『あゆみちゃーん
着いたよー
どこで合流するー?』
さ、いつ既読になるかな。ひとまず待ちぼうけっていうのも暇だし、返信が来るまで一人行動。それはそれで楽しいよね。
まずやってきたのは、パンフレットによると三年生のフロア。どうやら演劇をやっているみたい。どこか観てみようかな。そう思ったから手当たり次第にいろんなクラスの受付で空いてる席がないか確認したけど、結局今はどこも上映中で、少なくとも午前はもう空きがないらしい。どうしようかな。そんな折…
「あれ?紗希ちゃん?来てたんだ!」
どこかで聞いた声。振り返ると、やはりどこかで見知った顔があった。
「まりりんとゆかりんと…委員長さん?」
「お、よくご存じで。」
とーくんとも馴染みのある三人が通りかかったのだ。
「紗希ちゃんは何してるの?」
「とりあえず歩実ちゃんとの合流待ち。で、一旦何しようかって考えながらぶらぶらしてる。」
ありのままを伝えた。すると、
「じゃあ、しばらくあたしたちと回んない?先輩も真凜も大丈夫?」
「私は大丈夫。」
「私も!」
思いもよらぬ提案をもらった。
「ありがたや…」
「「「ありがたや?!」」」
普通にお礼を述べたつもりがまたしても驚かれた。ほんとになんでなんだか…
閑話休題。そんなこんなで四人で最初に向かったのは一年生のフロアの和風喫茶だった。まだあまりお腹は空いていないけど、たしか今日はシフトじゃないとはいえ歩実ちゃんのクラスだったはず。行かなきゃ損。
「みんな和装…悪くない。みんなうちのおばあちゃんのとこで働いてくれないかな…」
つい口走っていた。付け焼き刃の和装なはずなのにそうは見えない。よく練習してるのがわかる。
「紗希ちゃんのおばあちゃん何やってるの?旅館とか?」
「惜しい。料亭やってる。」
「なるほどね!いつか行ってみたいなー!」
「いずれ招待する。」
「え!いいの?!」
「是。とーくんを連れて行ってることも何回かある。それにおばあちゃん、孫には甘々だから正直孫の友達って言えば喜んでうぇるかむの姿勢見せてくれる。」
これに関しては紛れもなくそうだと思う。うちに限らず、世の中の孫というものは、基本的に両親がある程度厳しくても祖父母には優しくされがち…いや、甘やかされがちだと思う。無論、それが悪いわけではないけど。
それから少しして、若女将…もといこのクラスの人がオーダーを取りに来た。
「私はおはぎと抹茶で!」
「私は…わらび餅と焙じ茶を。」
「あたし抹茶のかき氷でお願いします!」
「うち、金鍔と抹茶にする。」
それぞれが好きなものをオーダーした結果、うちとまりりんの抹茶以外何一つ重なることはなかった。四人もいて食べるものが同じにならないくらい品揃えが豊富とは…文化祭クオリティを超えている気がする。
「そういえば、とーくんが言ってた。ここのクラス、お菓子は出来合いのものだけど、抹茶は茶道部の人が立ててるって。だから、ゆかりんも先輩さんも抹茶飲まないの損。」
率直に思ったことを言ったら、
「ゆかりん?」
「先輩さんって…私も真凜や由香里ちゃんみたいに可愛く呼ばれたい!」
違うところに食いつかれた。そういえば、ゆかりんなんて呼んだことなかった。でも、まりりんゆかりんでちょうどいいし、いいよね。
「じゃあ先輩さん、お名前は?」
「流唯よ。」
「漢字は?」
「流れるに唯一の唯だけど。」
「じゃあ…るゆるゆ?」
「「「語呂悪っ!!」」」
閑話休題。今日何回目だろう。結局先輩さんの呼び方はお流さんになった。
「お待たせいたしました!こちらご注文の品々でございます!」
若女将にしては元気な声で(若女将ではない)店の人が品物を持ってきてくれた。
「たまには和菓子もいいね!」
「うん、美味しそう。」
「で、由香里は相変わらず冷たいの好きだよね!」
「だってあたし猫舌なんだもん!」
猫舌だからってそこまでしなくてもいいのに…と思った。多分みんなも思ったはず。敢えては言わないんだろうけど。
「おばあちゃんが料亭やってるって言ってたし、紗希ちゃん自身も和菓子好きなの?」
「いかにも。」
「いかにもって…」
「強いて言えば、和菓子に限らず和食愛好家。」
「たしかに!前うなばら来た時も和の定食がいいって言ってたしね!」
((喫茶店で和の定食??))
なんかゆかりんとお流さんが頭の中はてなで埋まってるような顔をしているけど、なぜだろう。まあいっか。それにしても…
「この抹茶、美味しい。」
「ほんとだね!すごく美味しい!」
「お、まりりんもわかる口?」
「そんな詳しくはないけどね。」
はてな組の二人にはわかり得ない美味しさを感じている。やはり茶道の心得がある人の立てる抹茶は間違いない。それにこの金鍔ともよく合う。あまりお腹が空いていなかったとはいえ、来てよかった。
「そういえば紗希ちゃんは歩実ちゃんと合流した後どうするの?」
ゆかりんからの質問。
「とりあえず少しアトラクションを回る。それかちゃんとご飯食べる。そういうゆかりんたちは?」
「あたしたちはとーるのお化け屋敷に挑もうかなって!ね?」
「…そうね。」
「あ、そういえば流唯先輩苦手でしたね。怖いの。」
「ならお流さん、尚更行くべき。」
「紗希ちゃん?もしかして私を終わらせようとしてる?」
見かけによらずお流さんって怖がりなんだな。怖いもの知らずそうなのに。それにしたって、何も学園祭のお化け屋敷程度で死ぬほど怖いということはないと思うんだけど…
こんな会話をしていたところ、
「あ!紗希ちゃんここにいたんだ!」
待ち人、来たる。
「ごめんね!ちょっとクラスの手伝いしててスマホ見れてなくて…でもまさかこのクラスに来てるとは思わなかったよ!」
「歩実ちゃん、仕事終わったの?」
「うん!一段落ついたし、もうフリー!」
とのことなので、うちは残りの抹茶を一気に飲み干して、まりりんたち三人を残して歩実ちゃんと教室を出た。
(((掴めないな、この子…)))