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12シトライアル第五章       狂瀾怒濤の9日間part31

第百五十八話 おかえり父さん
 8月16日木曜日。父さんが珍しく夏に帰ってくると言っていたが、今日がまさにその日だ。年末年始は一週間弱だが帰ってくることは多い。昨年末から今年の年始は4日間だったかな、帰ってきていた。だが夏に一日でも父さんがうちにいるというのは、俺の記憶が確かなら、俺が中一の頃以来だ。先日は鳥取まで行ってたとかなんとか言って、二十世紀梨を大量に送ってきたし、その前は愛媛いったから蜜柑とか、島根行ったから宍道湖のしじみとか…最近中国・四国多めだな。どれも食べきれないから紗希さきやバイト先のみんなにお裾分けしたけど。

「お兄!なんか手伝うことあるー?」
今日は俺だけではない。父の妹家族も一緒なので、叔父さん叔母さん、そして歩実あゆみも一緒だ。叔母さんと俺は料理を作り、歩実はそれを手伝ってくれている。尤も料理をさせるわけにはいかないのは全員承知なので、
「じゃあ、食器諸々並べといてくれ。」
「りょーかい!」
料理自体には関わらないところの手伝いを依頼するだけだが。そして叔父さんは、このパーティーの準備の時間稼ぎというのもなんだが、先に父さんと合流してもらい、二人で遊んできてもらっている。というのも叔父さんは、父さんから見て妹の旦那に当たるわけだが、めちゃくちゃ父さんと仲が良い。父曰く、
「妹はいるけど弟はいないからなぁ。」
とのことで、叔父曰く、
「姉はいるけど、兄はいないからね。」
とのこと。だからお互い姻族とは言え兄弟ができたのが嬉しく、仲が良いようだ。

「それにしてもとおる、ほんとに料理の腕上げたよね!」
隣で作業している叔母さんからお褒めの言葉を賜った。
「まあ、一人で暮らすようになって長いし、喫茶店でもバイトしてるからね。」
これだけやってたら上達しない方が不自然というレベルである。
「でもたしかに、高校生になってバイト始めてから更に上手くなった気がするよ!」
「あれかも、料理の幅が広がったから、その分色んな技術がついてきた感じかな。」
「おかーさん!お兄すごいんだよ!今はなんかすごいオムライスも作れるんだよ!」
多分ドレス・ド・オムライスのことを言っているのだろう。あれはできるようになるまでホントに大変だった。
「せっかくだし徹、それ作ってみたら?」
「あ!わたしも賛成!多分伯父さんも驚くよ!あとわたしもまたお兄のオムライス食べたい!」
「お前多分後者がメインだろ。」
歩実はわかりやすく、バレたっ!とでも言うような顔をしているが、たしかに俺が成長したところを父さんに見せるにはうってつけか。俺が成長しているとわかれば、きっと父さんもより安心して、気兼ねなく日本中を飛び回りやすくなるだろう。俺は早速ケチャップライスの用意に取り掛かった。

 1時間後、オムライスの卵以外、全ての料理の準備が終わった。ここで叔母さんは叔父さんに連絡を入れた。そろそろ戻ってきて大丈夫という旨を伝えているのだろう。
「二人が手伝ってくれたおかげで、だいぶ速く準備が進んだよ。ありがとう。」
「いいのよ。私も兄さんを労ってあげたいからね!」
「きっと伯父さん喜んでくれるね!」
「だといいな。」
俺たちは気長に二人の帰還を待つ。
「こんなこと言っちゃがめついけど、今日兄さんはどこのお土産持ってきてくれるかな…」
そう、父さんはいつもその土地その土地から送るだけでは飽き足らず、帰ってくるとそれとは別のお土産も用意してきてくれる。もはや申し訳ないレベルですらあるが、父さんは身内相手に遠慮することはないといつも言うので、その厚意はありがたく受け取ることにしている。
「ここしばらく中国・四国多かったから、流れで九州とか?」
「あー、ありそう!わたし宮崎のマンゴーがいいな!おかーさんは?」
「んー…福岡の明太子とか、袋麺でいいからラーメンのセットとかかな!」
「それもいいね!お兄は?」
「そうだな…熊本のスイカ担いで来るに一票。」
「「ありえなくはないね…」」

 そんな話をしていた折、玄関の鍵が開く音がした。そして、
「徹、ただいま。」
半年ぶりくらいの父との再会だ。
「父さん、」「兄さん、」「伯父さん、」
「「「おかえり!!」」」
俺たちが出迎えると、父さんは微笑んだ。
「徹、元気そうだな。麻耶まやも歩実ちゃんも元気そうで何よりだよ。」
ちなみに麻耶というのは叔母さんのこと。四人で会話をしていると、
「いやー、僕らからするとヨウ義兄さんが変わらず元気なのが嬉しいよ!にしても重いな…」
スイカを担いで遅れて入ってきた叔父さんが言う。俺の予想は当たっていたが、担いで入ってきたのは父ではなく叔父だった。父の名は陽誠ようせいなので、叔父さんは一文字だけ取ってヨウ義兄さんと呼んでいるらしい。
「ありがとう、玄葉くろばくん。」
そして玄葉というのが叔父さんのことだ。

 さて、みんな揃ったことだし…
「じゃあ俺、最後の仕上げに入るから。」
「お!待ってましたー!」
やっぱり歩実は自分が食べたかっただけだな。
「徹、まだ何か作るのか?」
「まあね。すぐできるから。」
ここ半年何もできていなかったから、父さんを最大限もてなせるよう気を抜かないように作ろう。
「この品々、麻耶が作ったの?」
「半分そうだけど、半分不正解。なんならほとんどは兄さんの実の息子が作ってるんだから!美味しく食べたげてね!」
(徹…いつの間にこんなに色々できるように…たまにしか見てやれないのが悔やまれるね。)

 とりあえずオムライスが一つ仕上がったので、真っ先に父さんに差し出す。
「父さん、これが俺のバイトとかでの練習の賜物。冷めないうちにどうぞ。」
俺が差し出したオムライスを見るなり、
「徹…ホントに成長してるんだな…俺嬉しいよ。」
父さんはしみじみしながらそう言ってくれた。
「にしてもこれすごいな!なんだっけ、ドレス・ド・オムライスとかいうやつだっけ?」
「そう。まあ俺もここ数ヶ月でできるようになったばっかりだけどね。とりあえず、召し上がれ。」
「うん、いただくよ。」
そしてオムライスを口に運ぶなり、
「うまっ!」
口をついて出たように一言。こういう自然と出る一言が一番嬉しい。
「じゃあみんなの分も作るから。」
「待ってましたーー!!」
歩実の語気がさっきより強い。ホントに自分が食べたかったというのが一番なのだろう。

 なんとか全員分のオムライスが完成した。
「やっぱりお兄流石だね!」
「ほんとに上手じゃない!流石喫茶店でバイトしてるだけのことはあるのね!」
「徹くん、これいくら出せばいい?」
叔父さんが財布の紐を緩めすぎているので、慌てて止めた。身内だからというのもあるかもしれないが、それにしたってこんなにも喜んでもらえたのだ。相当自信になる。
「じゃあ、他のも冷めちゃうし食べていきましょっか!」
叔母さんの一声で全員グラスを持った。大人組は各々好きな酒を注ぎ、歩実はグレープジュース、俺はレモンスカッシュを注いだ。
「なんだー徹、お前レモンサワー飲むのか?」
「父さん、まだ酔ってないよな?」
「まあまあ、いいだろ。どうせレモン系飲むなら、一緒にレモンサワー飲もうぜ!」
「未成年の実の息子相手になんてこと言ってんだよ…」
多分父さんはもう酔っている。何も飲んでいないのに。この場の空気にでも酔っているのか?
「歩実も!グレープジュースより一緒にワイン飲もうよー!」
叔母さんまでヤバいことを言い出した。酒乱が早えよ…まだ乾杯前だから飲んでないけども。やっぱり父さんの妹だな…と思った。ただ一人叔父さんだけがまともである。
「歩実、徹くん…この酒乱兄妹どうしようか。」
「おとーさん、まだおかーさんも伯父さんもお酒飲んでないよ?」
「多分どうしようもないんで普通に始めますか…乾杯。」
「「「「かんぱーい!」」」」
俺はめんどくさくなって、流れで乾杯の音頭とった。

 それから、俺たちは俺と叔母さんが拵えた食べ進めながら団欒に興じた。一家団欒の時間など普段はない。戸籍上は二家だが、そんなことはどうでもいいだろう。ただ…
「徹ー、お前そろそろこれはできたかー?」
一つ残念な点は、父さんが絡み酒なことである。父さんは言いつつ小指を立ててきた。そしてやはり兄妹は似るもので…
「兄さーん、徹のこれは歩実の席でしょー?」
叔母さんもまた絡み酒。そしてとんでもないことを言っている。俺と歩実はめんどくさいのに絡まれた。俺は叔父さんに助けを求めるも…
「ヨウ兄さんも相変わらずだな…歩実、徹くん、献杯。」
勝手に殺された。これは…叔父さんが一番有罪ギルティ!てか、父さんも叔母さんもよく飲むな…まだ14時だぞ…

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