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12シトライアル第三章 疾風怒濤の11時間part26
第七十八話 疾風怒濤のゴーストツアーⅠ
野外炊爨の後は、例年通りハイキングやオリエンテーションが行われたのだが、幸い特に何事もなく無事に終えることができた。そして今日のイベントは残すところ肝試しとメインイベントのキャンプファイヤーのみとなった。キャンプファイヤーは21時から約1時間程で行われることになっている。
そして現在19時。ちょうど肝試しスタートの時間である。自由参加なので、本当は同室の河本、佐々木、上原を誘って行こうと思ったのだが、
「なあ、せっかくだし肝試し行かない?」
とヤツらに尋ねたところ、
「僕は…遠慮しとこうかな。情けないことながら、ちょっと暗所恐怖症でね…」
河本には意外な弱点があった。佐々木は、
「いやー、所詮全部人または人工物って知っててやるのは僕的にはちょっとねぇ…」
言わんでええやん…
「佐々木、事実だけど皆まで言うなよ…あっ…」
上原もボロを出したな。
「じゃあ俺は行ってくるから、先風呂でも入ってればどうだ?」
「いや、岸だけじゃなくて俺も佐々木もキャンプファイヤーの準備はするし、そこで汗とかかくだろうからその後でいいよ。」
「そっか。じゃあ適当に寛いでてくれ。」
ということで、俺は今ソロでお送りしています。そして一つカミングアウトさせてくれ。実は俺、結構ビビリだったりする。正直お化け屋敷に一人で入れた経験はない。まあ、多少ビビリな方がこういうのは楽しめるからな!と自分を正当化したところで、順路に従って歩き始めた。はあ、俺も部屋で寛いでればよかった…と開始3秒で思い始めたが、進む以外に選択肢はないのでとにかく歩く。順路の傍には木にかけられた提灯があり、風に揺られる様は火の玉が揺れているかのようだ。中に青い電球でも入れているのだろう…あれ?俺、俯瞰視できてる…?ビビらなくなった…?自分でも驚いている。何はともあれ、これでどんどん進め…
「うゔぁあーー!!」
「どぅわぁああーーー!!!」
進めると思ってた時期が俺にもありました。目の前から何かが呻きに近い叫び声を上げながら躍り出て来た。完全にさっきのマインドがフラグになった…にしてもこのお化け、どんな飛び出し方だよ…なんか木にぶら下がってるし、猿かコイツは!などと思っていると、
「あれ?岸センパイじゃないですか?」
顔にペイントをしているからだろうか、顔はちゃんとはわからないが、この声と呼び方は…
「お前…金本か?!」
「ご名答!」
言いつつ金本は木から降りて来た、というか降って来た。コイツ、お化け役かよ…というか近くで見ると、
「お前、この仮装に相当金かけただろ?」
お化けに見合わない派手なコスチュームであった。
「え?言っても全部で9万…」
「かけすぎだろ!」
どんだけ肝試しに命懸けてんだ…てか命の懸けどころ絶対間違ってるだろ!
閑話休題。
「にしても今お前どこからどう湧いて出た?!」
「湧いて出たって表現されたの初めてですよ…でも単純ですよ?木の枝にこの鉤爪引っ掛けて、あたしは葉っぱで隠れてる枝の上に身を潜める。ターゲットが来たら後ろにジャンプして、あとは振り子の要領で飛び出すだけ!どうでした?」
「めちゃくちゃ飛び出して来てる感じがして正直ビビった。」
コイツ意外と頭使えるんだな…と思ったことは黙っておこう。
「センパイって意外とビビリなんですね!もう一回やってあげましょうか?」
「お前、面白がってるだろ…?」
「だってセンパイがビビリなの、普段からは想像つかないですもん!もう一回くらいセンパイが本気で驚いてるところ見たいです!」
コイツ、なんか思考が|《ゆかり》由香里に似てきたな…
「ていうか、俺一人の相手してていいのか?他にも肝試しに来るヤツら山ほどいるだろ。」
「あ、それなら大丈夫です!新しい挑戦者来る時にスタート地点の人から連絡来るので!今はまだみたいなので、もう一回くらいならできますよ!」
「なら受けて立とう!俺も同じ轍は踏まない自信がある!驚かせるものなら驚かせてみろ!」
俺は、なぜ意地を張ってしまったのだろうか。後輩相手にみっともない。
「こっちのタイミングで行きますからね!」
にしても、来ることもその飛び出し方もわかってるのにどうやって驚くのだろうか。なんて思っていた折、いきなり金本が飛び出して来た。大丈夫。この程度ならもう驚かないぞ。と、
「うわっ!」
「え?」
金本が鉤爪から手を離してしまったのか、勢いそのままに俺目掛けて飛んできた。待て待て待て!!お化けとは別の意味でホントに怖いんだが!と思ったが時既に遅し。金本の足が俺の鳩尾に突き刺さり、その状態のまま俺は後ろに倒れ、仰向けの俺に垂直に金本が刺さった状態になった。そして金本はバランスを崩し、俺の腹に膝を、両腕の付け根に両手をついた。再び俺の内臓に大ダメージ。まさか心霊系のイベントで物理ダメージを受けるとは…
「いてて…え?キャーー!!」
なぜかお化け側の金本がお化けを見たようなリアクションをして俺から飛び起きた。その勢いで俺はまたダメージを受けた。もう体感瀕死である。
(センパイとあんなにくっついちゃうなんて…あたし多分顔赤いよね…暗くてよかった…!)
「その…センパイ、色々すみません…」
俺は言葉を発する余裕もないくらいに腹の内外に痛みがあるが、辛うじて起き上がってサムズアップだけしてやり、順路に従って歩き出した。俺、このままお化け(本物)になってもおかしくないな…