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12シトライアル第六章       八百万の学園祭part13

第百七十八話 二郎系ナポリタン
 前回のあらすじ。学園祭で使うものの予備を買っておこうと、高校近くのショッピングモールに出向いたところ、モール内で行く店舗行く店舗でことごと信岡しのおかと遭遇しまくった挙句、のんびりしようとして入った喫茶店の隣の席に、例によって信岡、そして信岡がご飯を食べる約束をしていた桃子とうこが座り鉢合わせたのであった。

 そして現在…
とおる、何頼む?やっぱりコーヒー?それともコーヒー?それからコーヒーも?」
「「……」」
桃子のご所望により三人ともまとめて四人席に移ることになった。日曜なのに平日並に空いているからできることである。この状況には流石に俺も信岡も白目だ。それにしても何なんだ?この桃子の質問は。選択肢がAしかない。たしかに飲むのはコーヒーで違いないからよくご存じと言えばそうだが、生憎あいにくランチタイムなので、選択肢にフードメニューも入れてほしいところだった。
「コーヒーは飲むけど、カツサンドも頼もうかな。」
「徹が…コーヒー以外を頼むこと…ある?」
「お前、俺を何だと思ってん?!」
流石に俺もコーヒーだけで生存に必要なエネルギーや栄養は賄えないんだが…

 閑話休題。
「シノちゃんどうする?」
「えっと…あたしはミックスジュースと、それからミックスサンドにするわ。」
「ミックスジュース…シノちゃんほんとに甘いの好きだよね。」
「まあそうね…というか、この喫茶店のミックスジュースすごく美味しいのよ!」
さては常連だな?
「そんなここよく来るのか?」
「ええ、もうかれこれ…」
律儀に数え始めた。そしてハッとした顔をする。
「なっ…なんであんたなんかに教えなきゃいけないのよ!」
急に罵声…というのか何というのかわからないが、そんな声を浴びせられた。別にいいだろうに、常連か否かを訊くくらいは。それにしてもアニメや漫画によく見るような、典型的なツンデレみたいな反発の仕方だったが、何だったんだ?

「そういえば桃子はどうすんだ?」
「私は…ナポリタンにしようかな。あと、シノちゃんイチオシのミックスジュース…」
早速常連に影響されている…一応言っておくが、俺は靡かない。決して揺るがない。断じてミックスジュースに手は出さない。
多田ただちゃん大丈夫?そのナポリタンの写真イカつすぎるけど…」
信岡がそう言うので俺も気になって、メニューを再度渡してもらった。そして目を疑った。
「…どんぶりのナポリタン?!」
いや、おかしいって…逆写真詐欺でお馴染みのコ○ダコーヒーでさえ出さない量のナポリタンの写真があった。
「大丈夫。どうせ写真詐欺。」
その可能性は大いにあるわけだが…
「だからってこんなに盛るか?」
「それはあたしもそう思うわ。本当にこの量が来ちゃったら多田ちゃんはどうするの?」
「大丈夫。食べれる。私の胃袋無限だから。」
とんでもないことを言い出した…

 そんな具合で“とりあえず”全員の注文が決まったので店員さんを呼んだ。
「アイスコーヒーとカツサンドで。」
「ミックスジュースとミックスサンドをお願いします。」
「ミックスジュース、ナポリタン…以上で。」
一人ひとり各々が望む品を唱えたところで、
「それではナポリタンをご注文のお客様、麺の量はどうなさいますか?」
店員さんから確認が入った。なるほど、ここで俺は…そしておそらく信岡も納得した。さっきのメニュー表の写真はあくまで大盛、或いは特盛を選んだ結果のものであり、インパクトのためにわざわざあれを写真にしたのだろう、と。
「あ、普通で。」
「承知いたしました!では、チーズ入れますか?」
チーズ?粉チーズのことか、それかパルミジャーノ・レッジャーノのような特別なやつをチーズグレーターですりおろすのだろうか。どういった形式かは未知数だが、桃子を見ると目が輝きまくっている。その結果、桃子の答えは…
「全マシマシで…!」
「いや、二郎系ラーメンか!」

 閑話休題。待つことおよそ5分。
「お待たせいたしました!まずはアイスコーヒーと、ミックスジュース二杯になります。フードメニューは少々お時間かかりますので、お待ちください!」
ドリンクだけ先に届いた。この分だと、おそらくあと10分程でフードも届くだろう。しばらくコーヒー吸って待っていよう、と思っていたところ、
「そういえば、徹は学園祭で完全フリーなのは金曜日だよね?」
「そうだが…」
「で、シノちゃんは金曜と日曜が空いてるんだよね?」
「ええ、そうね。」
「で、私がクラスのシフトに入るのは土曜日。てことは、二人とも私のシフトの時にH組に来てくれないってことだよね。だから、フードが来るまで私のディーラーの練習に少し付き合ってほしい。」
だから…とは?

 我々に拒否権や質問権などはなく、おとなしく練習に付き合うことになった。桃子は早速カバンからトランプを取り出し、切り始めた。山を二つに分け、高速で交互にペラペラとめくりそれを重ねていく切り方をしようとして…
「あいたっ…」
ねずみ取りのように、高速でシャッフルしているトランプに指を挟んだ。そしてその後も、それを3回くらい繰り返した。
「その切り方、諦めたら?」
信岡が告げた。俺も同感である。
「…ほーりーしっと。」
言葉がよろしくない!

 閑話休題。その後、桃子は切り方を変えてなんとかカードを配り終えた。三人それぞれの前には2枚ずつカードが置かれている。これは…ブラックジャックだな?俺はカードをめくった。1枚はA、もう1枚は6だった。これで7、もしくは17。これは追加で引かない手はないな。一方信岡は…
きし、これどういうルール?」
そもそもブラックジャックをご存じでないようだ。ちなみに信岡のカードはQと6。微妙なラインだ。
「これはブラックジャックっていうゲーム。ルールは…」

 一頻り説明したところ、
「なるほど。ということは、今のあたしのカードは結構微妙な感じね…」
「流石、理解が速いな。」
地頭がいいだけのことはある。そして一方ディーラーの桃子はというと、9と4。ディーラーは合計17以上になるまでは引き続けるため、俺たちが中途半端に勝負を仕掛けると負ける可能性がある。
「さあ、まずは徹から。どうする?」
「ヒット。」
そして俺の手札に加わったのは5。この状況で一番微妙なのがきた。これで俺はAを1換算しないといけなくなった。合計12。ということで、
「ヒット。」
ここで9が出れば理想的なんだが…現実はそう甘くなく、出たのはK。10以上は全て10換算なので、1つオーバーして俺は負け。

「続いてシノちゃん。どうする?」
「えっと、引くわ!」
信岡は1〜5ならセーフ、それ以外はアウトだが…
「っ!5だわ!ピッタリ21よ!」
「やるね…」
ビギナーズラックかもしれないが、信岡はいきなり紛れもない21ジャストを叩き出した。そしてディーラーはというと…
「9…合計22…バースト…シノちゃんの勝ちだね。」
あれ?このディーラー、弱い…俺が言えた義理じゃないか。

 その後の数ゲームも、なぜか俺はずっとバーストしていたのだが、楽しかったのでよし。ちなみに桃子のシャッフルはずっとぎこちないままだった。そんな折、
「お待たせいたしました!こちら、カツサンドになります。そしてこちらがミックスサンドですね…」
フードメニューが遂に届いたのだが…全員にとって想定外のことが起きた。それは…
「そしてこちら、麺の量普通のナポリタン、トッピング全マシマシです!」
届いた桃子のナポリタンが、メニュー表の写真のまんまだったことだ。
「「「………」」」
絶句である。大量の麺だけのナポリタンの上には、ケチャップで炒めたピーマンやニンジン、タマネギが大量に乗っており、ラーメンのチャーシューのような存在感のウインナーが丸々2本!そして、刻まれたニンニクのような存在感の大量のパルミジャーノ・レッジャーノと思しきチーズの山、そして追いトマトソース…これは、二郎系と形容できてしまいそうなナポリタンだ。
「…いただきます…!」
桃子は覚悟を決めてこの山を食べ始めた。

 余談。俺のカツサンドはとても美味しく、信岡もミックスサンドは美味しいと言っていた。そして桃子はというと…あの覚悟は必要だったのか疑う程ペースを落とすことなく食べ進め、10分足らずで完食していた。あの身長145cmのどこにあれが入るんだか…ホントにコイツの胃袋は無限なのかもしれない。ちなみに桃子曰く、
「普通のナポリタンと違って、一杯で色んな食べ方ができて飽きないし何よりチーズが普段食べてるやつより格段に美味しい。」
とのことでした。

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