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12シトライアル第六章       八百万の学園祭part9

第百七十四話 コンビニで何買う?
 9月11日火曜日。学園祭まで二週間を切って、自称進学校の我らが東帆とうはん高校でも授業はほどほどに、学園祭への準備が着々と進んでいる。いや、自称進だからこそ行事には一生懸命なのかもしれない。今日は部活の後、塾に行かなければならないので、申し訳ないことにクラスの放課後準備には参加できない。もしかしたら、そんな時は部活をサボって準備に参加すればいいという考えもあるかもしれないが、生憎あいにく俺は一応副部長という立場があるので、サボりにくい。そういうわけで、この時期の塾というのは、時として悔やまれることだ。

 16時半頃、そろそろ行かないと授業に余裕を持って入れないというところで部活を抜け、足早に塾に向かう。その道中…
「うぉーい!準備のサボり魔ー!」
後ろからよく聞き慣れた声で、聞いたことのない呼び方をされた。そしてこのパターンは…などと考えたので、俺は体を右に捌いた。すると…
「あれっ?!うわーっ!!」
というものすごい叫び声と共に突進してきた勢いそのままに地面に突っ込んだ女子高生の姿が確認できた。
「流石にもう読めてきたわ…」
ホントに芹奈せりなの絡みにはどういった対応をすべきかは、今後も考えものだな…

「てっちゃん…わかってて避けたの…?」
「逆にわかってないと避けれないだろ。」
「わかってたならしっかり受け止めてよ!」
「なんでタックルを、しかも背後からのを甘んじて受け入れなきゃいけないんだよ!」
「こうやって避けられて転んだら怪我するのわたしなんだよ?!」
「モロに喰らったら腰とか怪我するの俺なんだぞ?!」
「それは…てっちゃんの方が重症にはなるだろうね。おそらく多分めいびー。」
「間違いなく絶対マストビーだろ…」
なんか、コイツとの会話はいつも素人の漫才みたいな掛け合いになるんだよな。学園祭で漫才をやるクラスに俺たちで殴り込んだら勝てるかな…んー、俺は一体何を考えているんだろうか。

 閑話休題。
「して、てっちゃんはこれからどちらに?」
「俺は塾行き。」
「あ、そういえば前杏奈あんなの迎え行った時、一緒にいたねー。」
「あー、そんなことあったな。雨の日で芹奈が傘持って杏奈ちゃんを迎えに行って、それでいて傘を持ってない俺にも一本貸してくれた時のな。」
「よくそんな覚えてるねー!で何が面白いっててっちゃんが傘持ったはいいけど結局その後雨止んで傘使わなかったんだよね!」
「お前だってよく覚えてんじゃねえかよ。」
案外、芹奈の記憶力…に限らず、各種ステータスは侮れない。俺がここ数ヶ月で学んだことだ。

「で、芹奈はこの時間まで何してたんだ?」
「さっきわたし言ったよ?」
何も言われた記憶はないのだが…
「何て言ってた?」
流石に言われてもいないことをわかるはずがない。
「てっちゃんに最初に言ったよ!準備のサボり魔って!」
なんかそんなこと言ってやがったな、コイツ。
「それ言ってたうちにカウントするか?」
「するよ!そう言えばなんとなくクラスの学園祭の準備があったことはわかるでしょ!」
それはまあ否定できないな。この時期、この時間帯にサボるといえば学園祭の準備くらいしか想像はできないしな。
「まあ、わたしはやってないんだけどね!」
「何やってんだ学級委員!!」
コイツが何よりのサボり魔だった。

「いや!言いわ…じゃやなくて、理由あるの!」
言い訳とかいう聞き捨てならないことを言いかけていたが、俺も部活と塾という言い訳の下にクラスの準備を飛んだので何も言えた義理はないからここは黙認。
「ちょっと先生に職員室に呼ばれててね。」
「お前…何かやらかしたのか?」
「やっぱりてっちゃんはわたしのこと何だと思ってるのかな?!」
ドジついでに成績不良でいつ何時どんな場面でも何かしらやらかしている委員長だと思っている。失礼ながら。
「まあてっちゃんがわたしをどう思ってようといいけどさー、今回は別にお咎めとかじゃなくて、学園祭に向けて何か先生の方で用意してほしいものの確認とか、予算が現状足りそうかどうかとか諸々の擦り合わせをね。」

芹奈がひとしきり説明をした。
「お前、それは普通に準備に含まれるだろ。」
しかも珍しく、ザ・学級委員みたいな仕事してるし。
「なんか…悪いな、お前のことを俺よりもサボり魔だと思って。」
「いいんだよー、わたしの言い方も悪かったし。でも、もうちょっとわたしへの待遇は改善してほしいかな?」
俺はかなりコイツに対して失礼を働いている気がしてならなくなった。

 閑話休題。
「ところで芹奈はここからどこ行くんだ?」
普段芹奈とは登下校の道中で顔を合わせることがなかったので、純粋に疑問に思い尋ねた。すると、
「わたしは単純に帰るだけだよー。」
「それは…なんとなくわかる。最寄りは…って思ったけど、そう言えば俺が通ってる塾の最寄りから歩いて帰ってたから俺の目的地と同じか。」
「お、よく覚えてたね!というわけで、一緒に行こっか!」
という成り行きで、駅まで…もっと言えば塾の最寄り駅まで同行することとなった。

 駅に着くと、
「てっちゃんは塾の授業って何時から?」
芹奈が俺に尋ねる。
「6時からだよ。」
「あ、じゃあ今日は杏奈と一緒なんだね!」
ちゃんと妹の授業時間などは把握している辺り、しっかりと姉としての務めを果たしていることが窺える。
「それは知らなかったけど、俺の時間がどうかしたのか?」
「いや、てっちゃんにちょっと余裕あったらコンビニ寄ろっかなーって思ったんだけどどう?」
そう言われて腕時計を確認すると、現在の時刻は16:45。最寄りまでは電車でおよそ15分と考えると、ちょっと寄り道したとしても多少の余裕を持って入室できるだろう。というわけで、
「まあまだ余裕あるし寄るか。」
芹奈の提案にのることにした。

 ということで、早速駅構内のコンビニに入店。
「てっちゃんって普段コンビニで何買うの?」
そう芹奈に尋ねられた。普段か…
「基本的にそんなに頻繁には使わないかな、コンビニは。」
「じゃあ来た時は何買うの?」
「レジ横の抽出機のコーヒーが多いかな。」
「やっぱ好きだねー、コーヒー。」
「まあな。」
「わたしはてっちゃんがカフェイン中毒で倒れないか心配だよー。」
心配される程は飲んでいないが。

「そういう芹奈は何買うことが多い?」
「んー、基本的にスイーツかな!わたし結構コンビニスイーツ好きでさ!」
まあ…納得である。ただどちらかというと…
「なんか芹奈はザ・スイーツってものよりスナックの方が好きそうなイメージだけどな。」
偏見だが、俺の中で芹奈は、家で映画を観る時はコーラでも飲みながらポテチとか齧っていそうなイメージだ。
「んー、まあ正直言うとスナック買うことの方が多いよ。でも、しょっぱいものばっかりじゃ健康に悪いし、しょっぱいもの食べたら甘いもの食べたくなるから自動的にスイーツも買っちゃう、みたいな?」
塩辛いスナック単体より余計に健康に悪そうだというのは黙っておくことにしよう。

 そんな会話をしながら、俺はシュークリームと相変わらずのレジ横の抽出機のコーヒーを、芹奈はプリンと某キリンのキャラが特徴的なジャガイモのスナックを買った。
「まさかホントにスイーツもスナックも買うとはな。」
「やっぱり欲望には抗えないねー!」
「ちょっとは抗おうとした方がいいぞ…」
心からそう思ってしまった。そしてその後、ベンチに座ってそれぞれ買ったものを食した。やはりコンビニスイーツはたまにはいいな。このシュークリームもちゃんと美味い。カスタードとホイップのバランスが絶妙で、何よりコーヒーとよく合う。そして芹奈はというと、スプーンでプリンを掬って口に運んでは、ジャガイモスティックを2本一気に口に運ぶというのをひたすら繰り返していた。しょっぱいものの後は甘いもの、その後はまたしょっぱいものというのがたまらないとは言っていたが、一口置きにそうなるとは思わなかった。

 数分後、二人とも全て平らげ、電車に乗り込んだ。現在時刻は17:13分。これなら5時半までには最寄り駅に着き、10分以上余裕を持って入室できそうだ。
「ちなみにてっちゃんは何の勉強するの?」
なんか今日は異様に芹奈からの質問が多いな。
「ここ最近はずっと世界史やってるよ。苦手すぎるからな。」
「てっちゃんにも苦手分野とかあるんだね。」
「お前こそ俺を何だと思ってんだよ…」
「全知全能の神とか?」
「ゼウスかよ…持ち上げすぎだろ!」

そんなくだらない会話をしつつ電車に揺られ、最寄り駅に着いた。
「それじゃまた明日ねー!」
「ああ、またなー。」
俺は芹奈と別れ、塾へと足を向けた。

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