「ファミレスを享受せよ」の感想
ファミレスを享受せよ
『ファミレスを享受せよ』というフリーゲームをプレイした。
非常に良いゲームだと思った。以下ネタバレあり。
ポイントアンドクリック(脱出ゲームのあれ)のゲーム性で終盤にのみルート分岐があるシンプルなシステムなゲーム性で、永遠のファミレスからの脱出を目指したりする作品。
私が素晴らしいと思ったのはこのポイントアンドクリックという古態をとどめるジャンルを、物語の中で非常に有効に使っている点だ。
本作は「話題」をアイテムのように収集していき、ファミレスにいる他者に対して話題を振ることで会話が発生し、また新たな話題が手に入る…というシステムだ。収集した話題の大半は全4人のキャラに対して使えて色々な話を聞けるが、新たな話題を発生させる存在は大抵そのうちの誰かで、攻略には関係ない話も多い。
だから大半のプレイヤーにとって、物語を進めようとすると、基本的に総当たり的に話題を振っていくことになる。少なくとも推理する必要じゃない。
これは人によってはかなりダルく感じる作業で私も好きではない。一度聞いた話題を示す表示もないので間違って同じ話を見せられたりする(スキップ機能もない)とフラストレーションがたまる。だがこれは「ポイントアンドクリック」というシステムの根本的な問題だ。
脱出ゲームをやったことのある人なら、詰まってとりあえず画面中をくまなくクリックしたことがあるでしょう。ちなみに本作のミニゲームの間違い探しも連打で見つける感じになる。
さてその宿命的だるさに対し、本作は「永遠の変わり映えしない時間」というものをテーマにすることで、そのポイントアンドクリックのダルさをフレーバー的なものとして活かせている。
そしてより有効な使われ方が終盤へのターニングポイントにある。
話題振りをこなしてキャラから一通りのことを聞き出した主人公に対し、重要人物から「箱」が渡される。
その箱を開けるには16桁10進数のパスワードを解く必要があるのだが、他の人物に聞いても開け方がわからない。ファミレスには道具もなにもない。
プレイヤーが箱のパスワードをいじっている内に結局主人公は「総当たりで解く」という覚悟をきめる。
パターンは10の16乗なので1秒1回やれてもやり切るには数百万年かかる計算になるが、
不変にして無窮のファミレスの中で、数万年かけてパスワードを見つけることに主人公は成功する。
その過程は加速度的に早くなっていく早送り映像で見せられる。たまに(数千年に一度?)他のキャラに話しかけられたりもするが、本当にそれをやり切る過程を見せられるため、実時間でもそこそこ長い。
やられた〜と思った。
「総当たりを余儀なくされるポイントアンドクリックのシステム」を散々やらされたあと、ゲーム内世界の主人公の(あるいはその世界自体の)特殊性、武器として「総当たり」が提示される。
非常によくできたゲームシステムと物語の関係性だ。すごく良いし、無限というテーマの表現としてもよくできている。
そしてそこからは総当たり的な探索はかなり低まり、ばら撒かれた謎に対する回答が明かされていく。
その明かし方は「重要な存在の記憶から模造された存在」との質疑、そして「特殊なアイテムで他の人物の過去を覗く」という直球なもので、まあその、あんまり美しくないかもしれない。
しかしそこで一気に説明されたうえで「永遠のファミレス」からどう抜けるかでルート分岐するところががきれいな終わりだと思いました。
物語自体もメタに行くこともなくて、しっかりと世界観を完結させているし、とても良い作品だと思いました。
ゲームシステムと物語
あえて個人的な好みの話をすれば、キャラも世界観も好きではない。
キャラのうちでは人間味があるツェネズだけ好きだが、キャラの表情などが総じてほとんど変わらないので生きている感じがしない。(実際半分死んでいるような世界なのでやはり理にはかなっているのですが、それと好みは別や。)
短編SF的な時空間の使い方は面白いと思うのですが、自己犠牲愛のシンプルな重ねがけみたいな真エンド?も美しくて好みじゃない。
そもそも普通にプレイしただけで全部のやり取りを回収できていないし、考察もしていないため、世界設定が全然わからんのでストーリーもちゃんと理解できたというつもりもないですが…。それは「設定に対する考察」を誘引する作り方自体にノレないということでもあります。
しかし、こういう自分との好みの方向性の違いがあってもなお、やはり素晴らしいゲームだと言えるのは前段で語った通りゲームシステムと物語の連関が本当にうまくできていること。
要するに、「刺さる人には刺さる」的な評価を超えている作品だと思う。(それはそれとして「刺さる人には刺さる」って安易に使われすぎだよな)
これは私の思い込みというか偏執なのだが、ゲームにおいて重要なのはゲームシステムだ。それはシステムがプレイヤーの体験の輪郭を形作るからだ。最終的にどのようなスタイルを取るにせよ、自分が提示したいゲーム体験としてシステムを活かせていないなら、どんなすごいシナリオもコードも一段劣ったものになると思う。
その点で本作はうまく見せている上にいままで自分が見たことのない作りになっていて、かなり優れた作品だと思う。
あとこのアートワーク……。低コストで良い感じの雰囲気になっちょる…!パクリたい!
同作者の他作品もやってみた
おいし水さんについてのインディー通信さんのインタビューも読んでみて興味を持ったので他作品もやってみた。
(リンク先下部に日本語原文があります、ちなみにウチが受けたときのはこちら)
月刊湿地帯 (oississui.com)
湖
湖 (oississui.com)
ローグライトノンフィールドRPGだが、じゃんけんを基本にした戦闘システムと、アイテムの数と質がものを言うつくりで、地味に珍しいと思う。
またルート選択をあみだくじの要領で作るのが面白いところ。
これが第一作らしいんだけど運要素主体のすごろく的なものとして遊べるものになっている。キャラ選択があるけどクリアするなら「特使」だけでいいと思います。
LongOne
LongOne by oissisui (itch.io)
クリアできていません。私は三度の空腹よりジャンプアクションが苦手かつ嫌いなので、多分けっこう最初のほうで詰まってしまった。ウチのキーボードとの操作の相性の悪さも理由にさせてほしい。
とりあえずそこまでの感想として、助走とジャンプにめちゃくちゃフォーカスしている作品だと思った。それ以外にやることがない。マリオUSA的なしゃがみジャンプ(しゃがんでからジャンプすると大ジャンプになる)に助走の要素が足されることで、めちゃくちゃジャンプ制動の幅ができていて、しかもジャンプ後の空中制御がほとんど効かないため、いかに助走とジャンプを決めて先にうまく飛び移るかにすべてがかかる。私がプレイしている限りは敵もでてこない。ストイックな作品だ…。
いるかにうろこがないわけ
https://store.steampowered.com/app/2632800/_/
クリアできていません。6時間やったけど、最高到達点は64面中の34面…。32面ボス、まともに勝てる気がしない。
ローグライト性のあるSTGなのだが、ハチャメチャにむずかしい。
自機は射程距離の短いショットを一発しか撃てず、撃ったあとに弾を回収しないと撃てるようにならない。
ショットを外すとダメージを受けるか体当たりで敵を倒す(自機にもダメージが入る)かしない限りショットは復活しない。体力回復も少ない。むずかしい。
スキル更新フェーズで弾かスキルを変えられるのだが、強い弾はない(中盤はニードルだけやたら有用)、スキルも壊れ性能のものはないので、本当に地力が試される…。
色は黒地に二色のデザインで、敵の違いは形状でだけで表されていて普通にわかりにくい。敵がぴったり重なっているとき(追尾系の敵がよく重なる)はそのままなので、最初の動きをちゃんと見ていないと倒したつもりがもう一匹に狩られる。弾の回収に少し時間がかかるので至近距離でも連発できない。
一番不便なのが射程がわからないこと。外すことでしか射程がわからないが、さっき説明した通り、弾を敵に当てない=1ダメージ確定なので基本当てないといけない。これが故に元々短い射程をなるべく接近して打つことになって、よりリスクが増える。
アクションゲームが苦手なので、ここら辺の仕様が本当に苦痛できつかったが、すごい割り切りかただと思った。
本作にはポーズもなく(unityゲームなのでWinキーでポーズにはなる)殲滅するとすぐに次の面に行くのだが、最初1.5秒くらい敵が止まっているのがおもしろい。今回の敵配置を確認したり、すぐに撃ってリスキルしてから面を始められる。そこらへんの戦略性は担保するあたりがうまいなあと思った。
古典的なゲームの仕様をやりやすくするのではなく、そのまま活かして独特の体験を作るという意味では「ファミレス」における「総当たり」と同じ思想で作られているのかなと思った。でも難しかった…。
割り切り
やってみたと言いつつ2/3クリアできてないじゃないか。すいませんが、まとめ的な感想に移らせてください…。
インタビュー読んでも思ったが、好み(安部公房とスタァライト)から作品まで一貫した何かを感じるなぁと思った。割り切ったシステム、割り切ったデザイン、閉じた空間…。
ここまで方向性があるのにお若いらしいからすごいね……。
ここ二年ほどインディーゲームというものにちょこちょこ触れてきたが、物語性の強いゲームのなかで新しい見せ方をやる作品が生まれる機運が日本では低いような感じがしていた。「ファミレス」はとてもよかった。
もちろん古典的なノベルゲーム・ギャルゲーの枠組みの作品がインディーでたくさん作られる土壌があることはよいと思うのですが、俺はびっくりするようなものが見たいし、「ゲームならではの物語の見せ方」に多様性が生まれることで発展してほしいなあと思っている。
作者のおいし水さんがそういう意図・嗜好で作ったものではないのかもしれないが、ゲームとして作られている「ファミレス」には一般のノベルゲームにない見せ方の強みがあり、希望があるように思った。
にょ