相続税3000万円の壁②(配偶者税額軽減について)
前項で省略した相続税の配偶者税額軽減についての考察です。
この軽減措置は、①配偶者による財産の取得は、同一世代間の財産移転であり、遠からず次の相続が生じて、その際、相続税が課税されることになるのが通常であること、②長年共同生活を営んできた配偶者に対する配慮、③遺産の維持形成に対する配偶者の貢献等を考慮して設けられたものといわれています。(国税庁HPより)
法定相続割合の部分については上記の意味が理解できます。
では配偶者税額軽減の「法定相続分相当額、又は、1億6000万円以下の税額」の1億6000万円とはどういう意味を持つのでしょうか。
平成5年と令和4年の相続税の比較をしてみました(財務省HPより)。
配偶者税額軽減(法定相続割合又は※迄の税額)
平成5年 ※=8000万円 令和4年 1億6000万円
基礎控除(◎+法定相続人×◯)
平成5年 ◎=4800万円 令和4年 3000万円
平成5年 ◯= 950万円 令和4年 600万円
課税件数割合(年間課税件数/年間死亡者数)
平成5年 6% 令和4年 9.6%
最高税率
平成5年 70% 令和4年 55%
負担割合(合計納付税額/合計課税価格)
平成5年 16.6% 令和4年 13.5%
税収
平成5年 2兆9000億円 令和4年 2兆9000億円
前項の野村総研の推計に照らすと配偶者税額軽減は主に富裕層に有利に働いているように思われます。
超富裕層には恩恵がないと思われるかもしれませんが、相続税の最高税率は平成5年の70%が現在の55%に引き下げられています。
30年の間に相続税の課税対象者が1.6倍になり、税負担が富裕層以上から富裕層未満の者に移行しているわけですが、ほかにも基礎控除を超えるが特例適用により税額が生じない者に非課税申告という無用な苦労を強いている事は前項で述べたとおりです。
富裕層以上が節税にいそしんでいる一方で、富裕層未満向けに相続税の不安を煽るニュースサイト記事や士業広告を目にすると虚しくなります。
富裕層以上が財産を増やすのは自由ですが、全ての国民に健康で文化的な最低限度の生活が保障されたうえでの事であって欲しいと思います。富裕層は日本を自由で安全に暮らせる場所にする事が富裕層の幸福にもつながるという考え方をできないものでしょうか。その原資となる税金の負担について寛容になれないものでしょうか。
否、脱税は違法だが節税は合法だとするならば、富裕層を非難するべきではなく30年かけて税法を改正(改悪)してきた者を非難するべきなのかもしれません。
ちなみに、国税庁HPでは相続税の持つ機能として ①所得税の補完機能(被相続人が生前において受けた社会及び経済上の要請に基づく税制上の特典、その他による負担の軽減などにより蓄積した財産を相続開始の時点で清算する所得税を補完する機能) ②富の集中抑制機能(相続により相続人等が得た偶然の富の増加に対し、その一部を税として徴収する ことで、相続した者としなかった者との間の財産保有状況の均衡を図り、併せて富の過度の集中を抑制する機能)があると説明されています。
〈計算例〉
法定相続人が配偶者と子1人という仮定で考えてみました。
(A) 現状。
基礎控除「3000万円+600万円×2=4200万円」
配偶者税額軽減「法定相続分相当額又は、1億6000万円以下の税額」
(B) 基礎控除を「5000万円+1000万円×2=7000万円」とした場合。
(C) 基礎控除を「5000万円+1000万円×2=7000万円」とし、配偶者税額軽減を「法定相続分相当額又は、8000万円以下の税額」とした場合。
〈結果一覧〉
基礎控除(申告不要の上限額。子が相続してもよい。)
(A) 4200万円 (B) 7000万円 (C) 7000万円
配偶者税額軽減で課税されない上限(配偶者が全て相続した場合)
(A) 2億 200万円 (B) 2億3000万円 (C) 1億5000万円
配偶者税額軽減が法定相続相当額より有利になる上限
(A) 3億6200万円 (B) 3億9000万円 (C) 2億3000万円
※ 法定相続人の数が増えると金額は増えていきます。