貿易(空と海の補完性)
世界の物流は、貿易量(トン)ベースでは、国際貿易の大半が海上輸送により担われている一方、貿易金額ベースでは航空運送が多く活用されている。例えば、貿易金額ベースでは、日本の場合は約4割、米国の場合は約3割が航空輸送を活用している。これは、付加価値の高い製品の生産については、国際的な分業が拡大するとともに、航空輸送の利用による運送が増加することに起因する。
また、海上輸送や空運輸送で国境を越える前においても国境を越える後においても、トラック輸送や鉄道輸送、更に倉庫といった国内の陸上輸送を経ないと物流は完結しない。このため、経済全体で見ると物流コストの多くを占めるのは陸上輸送と倉庫である。
ただし、多くの産業が様々な輸送手段を用いて資材を調達し、各産業が相互につながっていることから、陸上輸送、倉庫、海上輸送、航空輸送のいずれか一つが欠けてもサプライチェーンは混乱する。新型コロナウイルス感染拡大の局面においては、サプライチェーンが寸断される中で、陸路や海運を回避して空輸での輸送を行うなどの代替も見られたが、それも補完的な役割にとどまるものであり、通常の物流網を維持するには至らなかった。サプライチェーンの冗長性の観点からは、生産拠点にとどまらず、その生産拠点間を円滑につなぐことや、製品を消費地へと輸送をする物流網の把握が重要な課題として存在する。
コロナ拡大時の一例として、検疫に時間を要することに伴い、輸送時間やコストが上昇したことから、中国でIT製品・同部品や自動車部品などを生産する企業においては、海上輸送を回避して航空輸送を行うケースも見られた。これは、一時的にはコスト増加となるものの、サプライチェーンの維持を優先した動きと見ることができる。世界の貿易のうち重量基準で9割強が、金額基準で7割前後を海運が担うが、付加価値の高いスマートフォン、電子部品、医薬品、医療機器は空輸されることが多い。そのため、航空貨物の輸送能力が減少しても、輸送のニーズは存在するため、運賃は上昇しやすくなる。
各物流の補完性
日本において財の貿易活動を行う上では、海上輸送または航空輸送が不可欠である。
海上輸送は鉱物性燃料、鉄鉱石、食料品など重量の重い財を大量輸送するのに適し、重量の関係から航空輸送されることは少ない。一方、航空機は、少量または軽量で単価の高い荷物を速やかに輸送するのに適している。このように、財の特徴に応じて輸送手段は使い分けられている。この結果、貿易金額を基準に見ると、海上輸送は約6割、航空輸送が約4割を担う。
各輸送手段が扱う財にはそれぞれ異なる特性があるため、輸送手段の代替可能性は財の特性や状況に応じて異なる。例えば、災害や感染症が発生するような緊急時において、海上輸送を航空輸送で代替することは、少量または軽量で付加価値の高い財、緊急性の高い物資においては可能であるものの、鉱物性燃料や自動車など重量の重い財や大量の輸送は困難であり、全てを代替することは難しい。また、感染症に伴い航空機の運航が制限される場合や減少する場合においては、航空輸送自体が限られる状況となる。
一方、航空輸送を海上輸送で代替することは、物理的には可能であるものの、アジア・米国間で1ヶ月前後から1ヶ月超、アジア・欧州間で2ヶ月前後を要するため、長距離間の輸送の場合には緊急の代替輸送手段には適しにくい。
まとめ
各輸送手段と財の持つ特性を知って初めて貿易というものが成り立つこと、空と海の補完性
(空→海×、海→空○)について理解することができた。
そのうえで、コロナ拡大のような特殊な事情のときに発生したニーズをチャンスとらえ、いかにものにしていくかで企業間で大きな差がつくと考えた。