と云ふと私はやはり坂口安吾の『堕落論』を思ひ出す。
思想が一應自由、とまあ、そんな事になつたので、プロパガンダに走る人が多かった中、人間だから堕ちるのは当たり前なのだ、と説いて、実存の有りやうを明快に考察してみせた。正に文學者の鑑であつたな、安吾は。
また自分の作品についてくどくど解説を加へるつーのもダサいぞ、と彼は全身で主張してゐたやうに思へる。文學は衝撃の藝術でなくてはね、返すがへすも。
それから、堕ちる、と云つたら、現人神から人間に降下した方もゐた譯で…そこら辺まで示唆した安吾は、實に勇氣の人だつたですな。
〈すめろきや國負けし日の夏なこと くにを〉
©つゞき・くにを。