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リモートワークをするのは幸せだけど管理するのは地獄
コロナを経て、リモートワークがすっかり定着してきましたね。一方で、コロナが明けてからはオフィスへの出社を前提に戻す企業も出始めていて、リモートワークの良し悪しが改めて議論されるようになりました。
24年末にはLINEヤフーがフルリモートを廃止することで話題になってましたね。
2025年4月からは、全社員(約1万1500人)が原則月1回以上の出社となり、社員の約6割に当たるカンパニー部門(事業部)は週1回以上の出社を求められる。
とはいえ、たった月1、週1の話やないか・・・と思ってしまったわたくし。個人的には肯定的です。
私も以前は100%リモート可の大企業に在籍していました。自分ひとりで部屋にこもって仕事をするのは苦手ではなかったので、いちプレイヤーとしてフルリモートで働くのはとても快適でした。
しかし、立場が管理者になると状況は一変します。若手メンバーを多く抱えるチームをリモートでマネジメントするのは、想像以上に大変でもありました。
「進捗管理が大変」「会議がしづらい」みたいな問題は全くありません。このような『手段』はリモートワークにあわせた代替手段を用意することはさして難しい話ではありませんからね。それよりも難題なのは『カルチャー』とのギャップです。
今回は、私がフルリモートの会社で若手部下を抱えたチームを運営していたときに直面した悩みをシェアしてみたいと思います。
若手メンバーのモチベーションをどう把握するか
まず困ったのが、若手メンバーのモチベーションの把握です。リモートワークは、自分で仕事を進められる人にとっては天国のような働き方だと思います。出勤時間も気にしなくていいし、好きな環境で集中できるし、息抜きも自由にできます。
でも、一方で若手メンバーの中には、仕事のリズムをつかみきれない人や、進捗管理が苦手な人もいます。特に新卒や経験の浅いメンバーの場合は、職場の “空気感” や周りの作業を横目で見ながら学ぶことが多いものです。
そういう人たちがリモート環境に放り込まれると、モチベーションが落ちているのか、何に詰まっているのかが見えにくいという課題が出てきます。
部下が2〜3名であればリモート環境でもじっくりと歩み寄った仕事がでるのですが、当時の私は直下部下10名〜14名を抱え、様々な会議が押し込まれる大企業の中間管理職。チーム運営のためにはリーダーポジションの人材を配置して間接的なマネジメントをしなければならず、ひとりひとりとじっくり向き合う時間がとれない状態でもありました。
オフィスなら「なんか今日テンション低そうだな」「作業止まってそうだな」という雰囲気で察して声をかけることができますが、リモートだとそれができません。
ビデオ会議で顔を見ることは可能ですが、リアルほど細かい表情やちょっとした空気を感じ取るのは難しい。というよりビデオ会議では顔を出さないカルチャーだったので、そもそも顔が見れない。
管理する側としてはビデオ会議でカメラONを強制したい反面、昨今はこれもはハラスメントに該当するので強要できない。(大企業はコンプライアンス重視の体裁を大事にするので『カメラを嫌がる社員には強要しないように』とのアナウンスもよくある話。)
この構図を逆手にとったメンバーは、いろいろ難癖をつけてカメラONを拒否し、自分が過ごしやすい(サボりやすい)状況を作ったりする人間も。
・・・話は剃れましたが、ともかく、リモート環境下で若手メンバーのちょっとした変化をどう汲み取るかは、かなり苦労しました。
評価・フィードバックのタイミングを逃しがち
若手メンバーほど、こまめなフィードバックが重要といわれています。
でも、リモート環境だと作業の進捗が見えにくかったり、会話も基本的にミーティングやチャットベースなので、気づいたときには全然違う方向に走り出してしまっていたこともあったり。
また、小さな成長や成功体験を称えるタイミングが難しく、「お、今の提案いいじゃん!」と即座にほめる機会が減りがちです。声をかけるときには、すでに次のタスクに取りかかっていて、「あれ…実はこうした方がよかったかもしれないね」と言ってもタイミングが合わないということもしばしば。
特に若手メンバーは、自分の仕事が正しくできているのか、成果が出ているのかを常に気にしている傾向が強い印象があります。リアルな場であればちょっとした会話でフォローができるんですが、リモートだと意識的に機会をつくらないとフィードバックが追いつきませんでした。
上司・部下の関係だけでなく、先輩社員らとの横つながりのコミュニケーション機会も同様に減ってしまいます。出社前提の時代には、隣で先輩たちが喋っている内容(雑談を含む)から、仕事の仕方、立ち回り方、現在のチームの課題・・・など多くの情報を入手したり、察することができました。時には、先輩が上司から怒られている場面を見ては「ああ、こういうことはしない方がいいんだな」と学びにもなっていました。
このように間接的に手に入っていた情報が、リモートワークでは断絶されてしまいます。隣の人が何をしているのかさえ分からないことも珍しくは有りません。
根本的な問題は何なのか
リモートワーク前提での会社カルチャーが整っていない環境に、いきなりリモートワーク制度だけを導入することにそもそも無理があるのです。
私が属していた大企業は、日本の歴史とともにある伝統的な大企業(JTC)でした。毎年、大量の新卒社員を採用して、多くの人は専門性とは違う職場に配置され(というより専門性が求められない総合職採用である)、現場で先輩の背中を見ながら手厚い指導のもとで育成するカルチャーでした。
明らかに、出社を前提とした組織運営でした。
それなのに「次年度からフルリモートワーク制度を開始します」とのアナウンスとわずかな期間の制度説明だけで、何万人もいる従業員が価値観を変えられるわけがないのですよね。
幅広い年齢層の人がいて、それぞれが何年・何十年とかけて染み付いてきた「これまでの働き方」があるのですから。
そういう会社に入社した新卒社員は本当に苦労します。
フルリモートワークでも成功できる組織運営とは
ひとことで書ければいいのですが、なかなか難しいですね。この議論は、前提条件を揃えて議論しなければ最適解が導き出せません。
フルリモートワークでも成功できる組織づくりは可能だし、その一方で失敗すべくして失敗しているフルリモートワーク運用も珍しくありません。
ひとつの見方として言及すると、リモートワークで成功する組織の大前提は「自立した人材がどの程度の割合を占めるか」に帰結すると感じます。ひとりひとりが目的を理解し、自分で考え、行動できるメンバーで構成されていることが必要不可欠なのです。
そのため、新卒社員を大量採用している会社でのフルリモート運営は非常に厳しいと言わざるを得ません。経験豊富な社員であれば自分の判断で動けますが、まだ仕事の基本を学んでいる段階の若手は、リモート環境だけでは成長に限界があります。そもそもで、サボろうとする人も決して少くはありません。
最初から専門性を期待しているポジション(エンジニア、デザイナー、研究職・・・など)であれば指導しやすい方ですが、将来的にジェネラリストとして育成する総合職のような場合は特に難しさを感じます。
専門職は成果物が明確で評価基準も比較的わかりやすいですが、ジェネラリストの場合は「どう動くべきか」という判断力そのものを養う必要があるからです。
なので、組織が既にカルチャーをもっていて、大きく、根本から変えづらい組織である場合、フルリモートは諦めてある程度の出社を前提にした方が会社としての生産性は高いでしょう。
私自身も、100%フルリモートだった職場を「週1は原則出社」ルールを敷いてコミュニケーション機会を増やしただけでも、だいぶ雰囲気が変化しましたので、お勧めです。
(本当は週2くらいにしたかったのですが、会社がフルリモート推奨している状況で組織マインドがだいぶ染み付いてしまっていたので、反発を抑えるために週1で妥協しました。)
組織のカルチャーって「ゆるい方向」には簡単に倒れますが、「厳しい方向」には全く倒れていかないので、不可逆性のようなものを感じます。不可能とは言いませんが、そのために要するパワーが何十倍も必要になってしまいますよね・・・。
まとめ
リモートワークは、プレイヤーにとっては楽だけど、管理する側にとっては厳しいよね、という話を体験談混じりで記載しました。
もちろん、リモートワークにはたくさんのメリットもあるので、一概に「やめるべき」とは思いません。ただ昨今、働き方の社会情勢の変化に伴って中間管理職への負荷の集中が起きていて、その一因としてもリモートワークは影響を与えていると感じます。
管理する側・プレイヤーを問わず、リモートワークで苦労されている皆さん、自身の身体を第一にしてくださいね。
ここまで読んでいただきありがとうございます!今後も、システムエンジニア、SES、プロダクト開発・・・など、ITに関する関心事や働き方について発信していきます。
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