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BASEグループが考える「BNPL」とは

はじめに

BASEグループ公式noteでは、初回の記事で私から決済・金融を通じたBASEグループが目指す世界観をお話し、続いて各事業/プロダクト責任者からそれぞれの事業概要を深堀りしたnoteをアップしております。今回は私たちが来年3月にリリースを予定している「BNPL」について、海外動向や国内市場の特徴などを交えながらお話ししたいと思います。

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BNPLとは  〜 Buy Now Pay Later 〜

このnoteをご覧いただいている方々は既にご存知の方が多いとは思いますが、BNPLとは「Buy Now Pay Later」の略語で、いわゆる後払い決済のことを指します。購入した商品の支払日を翌月に伸ばしたり、数回に分けて分割して支払う、といったものです。
Klarna・Afterpay・Affirmに代表される、BNPLに特化した欧米のメガベンチャーの誕生や世の中の普及度から、最近生まれた画期的なサービスの様に見えますが、BNPL自体は何十年も前から存在しているサービスです。
古くから「個品割賦」や「ショッピングローン」と呼ばれているもので、むしろレガシーな決済・金融商品ともいえます。既に利用したことがある方も多いと思いますが、スマホや家電・自動車等の購入代金を分割で支払うなど、一括で購入するには手を出しづらい商品も欲しいタイミングで入手できるようになります。アカウントベースで毎月のお買い物総額を後払いする場合は、クレジットカードの「マンスリークリア(翌月一括払い)」「分割払い」と体験は同じですね。
では、特段目新しさがある訳でもないのに、なぜグローバルでこんなにもクローズアップされる様になったのでしょうか。

BNPLは「ネットショッピングにおける購買体験を最適化するプロダクト」

私たちは、BNPLはネットショッピングの購買体験を最適化するプロダクトと考えています。

古来からある決済手段の1つで、プロダクトの中核価値は変わりませんが、商慣習やマクロ環境の変化に呼応する形で、テクノロジーがプロダクトを進化させました。ユーザー体験とそこに紐づいた購入者・ショップのメリットが大きくアップデートされ、生まれ変わった決済・金融サービスと言えるでしょう。

以下はネットショッピングにおける決済周りの代表的な課題ですが、これらのペインポイントを解消しているのがBNPLの特徴です。

  • クレジットカードは使い過ぎてしまうし手数料も高い

  • そもそもカードが作れない

  • 悪用が怖くてカード番号をネット上に入力・登録したくない

  • 現金払い系の決済手段(コンビニ払い 等)は利便性が低い

  • カート画面上で16桁のカード番号や有効期限を入力したり、3Dセキュアという認証手段でパスワードを要求される(いわゆる「かご落ち」と言われる、購買プロセス上のユーザーの離脱が発生)

上記をBNPLで解消することによって、購入者視点では、クレジットカード以外の支払手段、支払金額の明瞭さ・支出管理、利便性 等が向上します。
ショップ視点では、顧客満足以外にも購入者への訴求の工夫次第で、CVRや売上・購買単価増 等に貢献します。決済手段の1つながら、その本質はマーケティングツールに近い存在とも言えます。

また、従来の割賦販売事業者が費用対効果の関係で積極的に手を出せなかった中価格帯の商材に関しても、インターネットの力で対応コストを抑制し、対象商材に加えユーザーの幅を広げたことも市場拡大に寄与していると考えます。グローバル共通で若年層や女性の利用が相対的に多いとも言われていますね。まさに、Eコマースやデジタルネイティブ世代に適合した決済・金融サービスです。日本でも最近普及し始めていますが、先行している海外事例や日本市場の特徴から、色々と読み解いていきたいと思います。

海外におけるBNPLの潮流

海外では、前述した既存の決済サービス、特にクレジットカードのペインポイント解消に加え、各国特有の商慣習にうまく合わせたプロダクト設計がBNPLの浸透に奏功したと言われています。

日本ではマンスリークリアという金利手数料が発生しない翌月一括払いが多いですが(後述します)、海外のクレジットカードは金利が発生するリボ払いがメインです。使い過ぎや金利手数料の回避がニーズとして高いこと、クレジットヒストリーという過去の返済履歴が審査に強く反映されるため、そもそもクレジットカードの発行ハードルが高いことが課題に挙げられます。
米国ではコロナ禍やインフレの影響でリボ払いを中心とした多重債務が問題になっており、支出管理がしやすいBNPLにとっては追い風になっているとも言われています。

また、日本と異なり給料が月に複数回振り込まれる国も多く、「Pay in 4」という、月に2回振り込まれる給料のペースに合わせた隔週4回払いの支払い形態もあります。欧米を中心に、VisaやMasterの様な国際ブランドへの依存度を減らす動きも活発化しており、国際ブランドが設定する手数料やルールに関する訴訟も頻発しています。決済・金融に限らず特定のプラットフォーマーに取引が集中することを忌避するリベラルな文化は、国際ブランドを経由せず購入者とショップが直接つながるBNPLの様なプロダクトが拡がった要因の1つかもしれません。

ネットから始まり対面店舗での利用にまで拡大を見せていますが、BNPLの利用増に伴い、欧米やオーストラリアを始めとした各国で規制強化の動きも進んでいます。この潮流はグローバルで加速するものと見られており、日本でも同様の動きが想定されるでしょう。

国内キャッシュレス決済市場の特徴

日本のキャッシュレス決済市場の特徴として、世界トップクラスの銀行/送金ネットワークの充実に加え、クレジットカードのシェアの異常な高さが挙げられます。この数年でコード決済のシェアが高まっていますが、金額ベースだとコード決済のシェアは5.5%、対してクレジットカードの比率は約85%です。(経産省資料より試算*)

BNPLはメディア等の露出やユーザー数がかなり伸びてはいますが、市場全体で見るとまだこれからです。2021年で約1兆円程度と言われていますので、コード決済の水準感を下回るイメージです。(矢野経済研究所より* )

キャッシュレス支払額及び決済比率の推移(経済産業省HPより)

2021年のキャッシュレス決済比率を算出しました (METI/経済産業省)
EC決済サービス市場に関する調査を実施(2021年) | ニュース・トピックス | 市場調査とマーケティングの矢野経済研究所

引用:(METI/経済産業省)(矢野経済所)

さらに海外と比較して顕著な点は、クレジットカードの発行ハードルの低さに加え、特にマンスリークリア(翌月一括払い)が利用の大半を占めていることです。数字で見ると、2021年のクレジットカードの信用供与額:69.6兆円のうち、マンスリークリアは契約件数ベースで約93%です*。単純計算をすると、日本のキャッシュレス決済市場において、クレジットカードかつマンスリークリアのシェアがいかに高いかが見てとれます。実はグローバルではクレジットよりもデビットカードの方が利用されており、即時払いと後払いの棲み分けができていますが、日本はクレジットカードのマンスリークリアが実質デビットカードに近い役割も担っています。

日本のクレジット統計 2021年版(一般社団法人クレジット協会)より

日本のクレジット統計 2021年版

引用:一般社団法人日本クレジット協会

BNPLへの期待

前段の決済比率のシェアは金額ベースなので、件数ベースにすると単価の高いクレジットカードのシェアが下がるとは思いますが、ここまで圧倒的な強者がいると、日本市場でBNPLが今すぐ決済市場全体の覇権を握る可能性は低いかもしれません。

但し、これは2021年までの数字。決済市場のユーザー層は収入・購買力に連動するため、ユーザーのポートフォリオに偏りがあり、30代以上が大半の流通額を支える構造です。今後、デジタルネイティブな10代・20代の層が消費層の世代に入ってきたとき、キャッシュレス決済の地殻変動が起きる可能性は十分あります。

そして、これだけ同一の決済手段が強烈なシェアを握って画一化されている状態は、個別シーンにおけるユーザー体験は最適化できていない状態と言えます。この辺りの市場環境から、日本においても、既存の決済手段のペインポイントを解消したBNPL事業者が大きく成長し始めています。相性の良いEコマースにおいては今や欠かせない決済手段になり始めています。

以上から、日本におけるBNPLの普及のポイントは、顧客ニーズに向き合い、マーケットフィットした状態をいかに作れるかと考えます。

BASEグループが目指すBNPL 〜ショップが購入者に使って欲しい決済サービス〜

冒頭、BNPLは「ネットショッピングにおける購買体験を最適化するプロダクト」とお話しました。

BASEグループがBNPLに取り組む理由は、前述のネットショッピングにおけるペインポイントの解消に加え、この購買体験の最適化を誰よりもより良い形で実現できると信じているからです。

私たちは、ショップと購入者両面の顧客基盤を有しているだけでなく、EコマースのプラットフォームをWeb・アプリともに自社で提供していることから、商品選択やカート・決済画面などショッピングの場をUI/UXレベルで最適化することが可能です。決済事業の特性から「購入者↔︎決済事業者↔︎ショップ」となってしまう購買体験を、私たちが裏方として決済サービスまで仕組みで提供することで「購入者↔︎ショップ」という2side-networkを活かした、よりシームレスな体験が可能となります。

このように、画一化された決済サービスを個別最適化し、決済前後の体験とスムーズに繋げていくことで、ネットショッピングの体験全体をより良くすることに取り組んでいきます。

これまで、ショップが決済サービスを導入する際の判断基準は「購入者が使いたい決済」をラインナップとして取り揃えることが一般的でした。購入者ニーズの高い決済を導入することで顧客満足を高めるだけでなく、決済事業者の利用促進キャンペーンによる送客を期待して導入することも珍しくありません。

私たちが提供するBNPLは、購入者向けショッピングサービス「Pay ID」*の1機能として提供する予定です。ショップと購入者の持続的な関係構築とスムーズな購買シーンを併せて提供します。購入者だけでなくショップの導入メリットを強く意識していくことで、ショップから購入者におすすめしていただける様な「ショップが購入者に使って欲しい決済」を目指していきたいと考えています。

*関連記事
購入者向けショッピングサービス「Pay ID」が目指すネットショッピングの最適化|BASEグループ公式note

終わりに

前回のnoteでもお話ししましたが、私たちはEコマースの在り方がこれまで以上に変わっていく、大手プラットフォームが全てを掌握する中央集権型から自律分散型へシフトしていく世界を想像しています。

その世界が実現されゆくとき、ショップと購入者が本質的につながる機会を提供するために、ショップ・購入者、双方のユーザに向き合いプロダクトを作り、価値提供を続けていきたいと思います。

BASEグループは今年創業10周年を迎えます。もう生まれたばかりのスタートアップではありませんが、スタートアップカルチャーを維持しながらも、一定の顧客基盤・プロダクト組織・アセットを保有している非常に面白いステージです。Next 10 yearsを共に創っていく仲間を募集しておりますので、ご興味をお持ちいただけた方は弊社採用HPでも私のTwitterへのDMでも、お気軽にご連絡いただけるとうれしいです。

長文になってしまいましたが、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。


プロフィール

髙橋 直(たかはし なお)
1983年生まれ、東京都出身。青山学院大学卒業後、三井住友カードへ入社し、戦略提携や事業開発業務に従事。国内外IT企業との資本業務提携や電子マネー事業・決済プラットフォーム事業等の立ち上げに参画。2022年4月1日にBASE株式会社に入社、同日付で執行役員に就任。BASEグループの決済・金融を中心とした戦略事業を担当。

この記事を読んでBASEグループの決済・金融事業にご興味を持たれましたら、ぜひ私のTwitterにDMでご連絡いただけるとうれしいです。
@nao_takahashi_