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UI/UXデザインツールが提案するデザイナーの働き方【座学会】-社内勉強会-

はじめに

こんにちは。Communication Design Group マネージャーの佐藤です。
日々業務に打ち込む中で、スキルや知識のアップデートを行うのはとても大切ですよね!BASEでは、デザインチームが「BDI(BASE Design Inspiration)」という社内向けの勉強会を開催していて、デザインに関する知見を共有しています。

今回は、2022年8月9日[火]に開催されたBDIで、わたしがお話した「UI/UXデザインツールが提案するデザイナーの働き方【座学会】」の内容をお届けします。あくまで社内向けに開催した内容ですので、一般向けの知識提示ではなく、わたし個人の考えの社内共有という立ち位置で読んでいただければと思います。

BDI(BASE Design Inspiration)とは
デザインに関する幅広い知見を共有し、みんなで楽しく学ぶことを目的とした任意参加型の社内勉強会です。 デザイナーだけでなく誰でも参加することができます。Inspirationの名の通り新たな閃きにつながる新しいトピックを取り上げることも多くあり、2018年の秋頃から活動開始〜継続しています。

テーマの背景

2022年も半ばを迎えた今、UI/UXデザインツールとして「Figma」や「Adobe XD」などが主流になりましたね。でも、なぜそれまでデザインツールの王様のように君臨していた「Adobe Photoshop」や「Adobe Illustrator」が主流ではなくなったのでしょう?

そこで今回の勉強会では「UI/UXデザインツールの生まれた背景を理解して、働き方をアップデートしよう」というのが今回の目的です。(働き方についての話なので、デザインツールの操作方法や超絶テクニックはありません)

FigmaやAdobe Photoshopは、あくまで道具

FigmaやAdobe Photoshopなどのデザインツールですが、これらはあくまで道具だと思います。目的あってのデザインなので、どんな要求・要望に応えるためにツールが利用されてきたのかを知る必要があると思います。
そこで今回は、デジタル経済史とデザインツールの歴史から、デザインツールに何が求められているのかを紐解いていきましょう。

デジタル経済史とデザインツールの歴史年表

1985年頃〜現代までのデジタル経済史を、ダイジェストでまとめました。
なぜ1985年から取り上げたのかというと、デザインツールのイノベーションの始まりとして、1987年にリリースされたAdobe Illustratorの登場が良い目安と考えたからです。こちらを起点に、時代の変化を4つに分けて分析したので、順に見ていきましょう。

1.パソコン通信初期

  • 1985年〜1995年頃

  • 初代携帯電話の発売や、パソコン普及の兆し

  • Adobe IllustratorやAdobe Photoshopが発売

  • デザインツールは、ビジュアル表現の追求として利用

  • 企業→消費者へのコミュニケーションが一方通行

2.インターネット普及初期

  • 1995年〜2001年頃

  • Windows95やiMacの発売によってPCの一般家庭の利用が増加、インターネット社会が加速

  • Macromedia Studio MXなど、ホームページ作成ツールが発売

  • コミュニケーションはメールなどのテキストが主流

3.ブロードバンドの急速な普及

  • 2001年〜2009年頃

  • Adobe Creative Suiteの発売(パッケージ販売)

  • ワンセグやiPhoneの登場

  • SNSの登場でコミュニケーション速度・拡散が加速

  • 動画・音楽などコンテンツをデジタルで消費するようになる

  • 紙・Web・映像を横断したマルチクリエイターの増加

4.スマートフォンの普及

  • 2010年〜現代

  • UI/UXデザインツールがリリース

  • iPadの発売など、デジタルツールの大画面化と多様化

  • ドローンやVR、スマート家電の登場など、IoT化が進む

  • InstagramやTikTokの登場で、SNS上で画像や動画でのコンテンツコミュニケーションが加速

それぞれの時代にリリースされた商品やサービスに伴って、コミュニケーションに求めることが、単純なコミュニケーションから多様な形式でのコミュニケーションに変化していきました。

消費行動の変化

さらに、ここに消費行動の変化を重ねると、下記のように「モノ消費」「コト消費」「トキ消費」「イミ消費」の4つに分解することができます。

モノ消費時代

  • 1980年代〜1995年頃

  • 商品やサービスの機能を消費していた時代

  • 「この機能、良いな!欲しい」と思わせるためのクリエイティブを、企業は消費者に対して一方通行で伝えられればよかった時代

コト消費時代

  • 1995年頃〜2010年頃

  • すでに多くのモノを持ってる状態で「欲しいモノが特にない」と感じて、精神的な豊かさを求める

  • 「●●を買うとこんな体験ができる」と感じさせるために、企業と消費者が双方向でコミュニケーションするクリエイティブが求められた時代

トキ消費時代

  • 2010年頃〜現代

  • SNSの投稿を見るだけでいろんなコトを疑似体験できるようになったけど、情報が氾濫して目新しさや魅力を感じなくなった

  • 時間や場所が限定された“今だけ”の盛り上がりに期待する消費行動、と言われています(例:ハロウィンで仮装した人が自然発生的に渋谷に集まってにぎわう、など)

イミ消費時代

  • 2010年頃〜現代

  • 商品・サービスの選択を通じて社会に貢献する消費行動、と言われています(例:キャンペーンの売上3%を環境保護団体に寄付する、など)

  • キーワードは、環境保全、地域貢献、健康維持など

  • 自分自身がいいコトを体験できるだけでなく、他の人や将来の自分にいい影響を与えようとする消費行動、と言われています

時代の移り変わりによって消費行動も変化し、それに合わせて求められるクリエイティブも、単純な施策から複雑な施策へと変化してきました。

ツールの開発スタイルの変化

かつてはアドビ社も、年1回のパッケージ製品の発売に合わせて開発が進められていましたが、現在では開発サイクルを高速化し、細かいアップデートをクイックにリリースするようになりました。
こういった開発手法は、いつ、どこから出てきたのでしょう?そのきっかけはいくつかありますが今回は2つ紹介しましょう。

アジャイル ソフトウェア開発の宣言

「アジャイル ソフトウェア開発宣言」は2001年に公開されたもので、ソフトウェア開発の概念を提唱した文書です。ソフトウェア開発における 4 つの基本的な価値観と、それを支持する12 の原則で構成されたもので、今回覚えておいて欲しいのは「計画に従うことよりも、変化に対応することに価値がある」と考えられていたことです。

「リーンソフトウェア開発」の原則

「リーンソフトウェア開発」の原則は2003年に公開されたもので、トヨタ生産方式を参考に考案された開発手法です。ムダを削減することに重点を置いた考え方が特徴で、今回覚えておいて欲しいのは、「速く提供すること」「継続的改善」を唱えていたことです。

2つから言えることは、ものづくりの進め方がアジャイル式に変化していった、ということです。こういった背景から、UI/UXデザインツールは開発されていったと推察することができます。

ワークフローとデザインツール

ここからは、実際のワークフローについてお話ししましょう。
ものづくりの進め方がアジャイル式に変化したことは、言い換えれば素早く作って、みんなで会話することが必要になったと言えます。
では、そこでいったい、誰とどんな議論をしなければならないのでしょうか?いろんな文脈がありますし、置かれている環境によって話は変わってくるので、全ては語れませんが今日はその中から1つだけピックアップして『「デザイン経営」宣言』を例にお話ししたいと思います。

「デザイン経営」宣言

「デザイン経営」宣言とは、2018年に経済産業省が宣言したもので「企業価値を高めるためにデザインを経営資源として経営や事業戦略に活用しましょう」という考え方です。

ビジネススケールとして、経営があり、事業があり、その中でプロジェクトがある。「デザイン経営」宣言の文脈から考えると、デザインを依頼する人たちがデザインに期待することは「見た目のデザイン」だけじゃないってことですね。デザイナーも広い視野でビジネス成果を考えることが必要になってきたと言えるでしょう。

でも、デザイナーからすると「経営とか事業とか、わからないし…」となりますよね。だから、それを補うために、マーケティングや営業などの「チームの力」が必要になってくると考えています。

つまり、デザイナーは、ディレクターやコーダーだけでなく営業やマーケター、時には経営者などの「ビジネスレイヤー」と一緒に「ビジネス成果の創出」について会話することが求められているといえるでしょう。

何を説明するのか?

ではそのチームで、デザイナーは「何を説明すればいい」のでしょうか?デザイナーが「デザイン経営」の文脈で役に立てることは何かを考えてみましょう。

デザイナーの強み

「デザイン経営」宣言にも記されていますが、デザイナーは以下に長けていると思います。

  • 課題やニーズを見つけること

  • アイディアを視覚化すること

つまり、クリエイティブを模索するシーンでその力を発揮できます。

例えば「こう考えている」という思考やアイディアを形にすることは、チームの目線を合わせやすくなり、議論を加速することができます。

また、インタラクションやアニメーションのように「動き」のあるものは「シュッと」や「フワッと」といった言葉では伝わらない曖昧なイメージを正確なものにしてくれます。

開発メンバーとの共有

一方で、実制作においては、開発メンバーとのコミュニケーションも重要です。しかし、クリエイティブにおいて複数のクリエイターが関わると一貫性を保つのが難しくなります。

そこで、「スタイルガイド」などでクリエイティブを明文化し、再利用可能な要素を作ることで、反復作業や、やり直しに強くすることもブランドの世界観を保つためには重要なことです。

このように「なぜ、この形になったのか」「なぜ、このクリエイティブが良いのか」という、デザイナーの頭の中を明文化することで、デザインが正しく伝わり、ビジネスのイノベーションに貢献できるんではないでしょうか。

まとめ

  1. 時代の移り変わりによって、単純なコミュニケーションから多様な形式でのコミュニケーションに変化した

  2. 消費行動も変化し、求められるクリエイティブが単純な施策から複雑な施策へと変化した

  3. デザインツールの開発スタイルもアジャイル式に変化した

  4. なぜUI/UXデザインツールが開発されたのか?コラボレーションするため

  5. 誰とどんな議論をするのか?ビジネスレイヤーに対して「ビジネス成果の創出」を議論するため

  6. 何を説明するのか?クリエイティブの模索や、一貫性を持ったクリエイティブを保つため

今回は、このようなお話しをさせていただきました。
みなさんの、これからの働き方のヒントになったら幸いです。

参加者の感想

参加者からは「とてもおもしろかった!」「勉強になった!」と、好評でした。若いメンバーからの質問では「昔の人は、当時のAdobe Photoshopでどのようにデザインしていたのか?」などのジェネレーションギャップ的な話題で盛り上がりました!

おわりに

最後までお読み頂き、ありがとうございました。
今回のような「デザインと名のついたテーマでありながら、普段あまり深く触れない経済視点のテーマ」を取り上げたことは、メンバーには良い刺激になったようです。今後も、いろんな視点でデザインの勉強会を継続していきたいと思います。

最後に、BASEではチームとして一緒に働く仲間を募集しているので、ご興味持っていただける方がいましたらよろしくお願いします!