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バスキュール独自のクリエイティブ手法「DATA-TAINMENT(データテインメント)」とは何か?

前回のポッドキャストでご紹介した「メテオブロードキャスター」は、流星観測データにストーリーや情緒性を持たせ、新たな体験を創り出すプロジェクトでした。

バスキュールではこのプロジェクトに限らず、データに新たな体験価値を与えるアプローチをさまざまなプロジェクトで実践しており、こうしたクリエイティブの手法を「DATA-TAINMENT(データテインメント)」と呼んでいます。

今回の記事では、この「データテインメント」をクリエイティブとしての魅力、データ活用のアプローチとしての可能性という2つの側面から解説していきたいと思います。本記事と連動したポッドキャストと合わせてお楽しみください。


データから体験を生み出すエンターテインメント

バスキュールでは、DATA-TAINMENT(データテインメント) = 身の回りのあらゆるデータを入力ソースとして扱い、新たな体験価値へと昇華するクリエイティブと定義し、あらゆる物事がネットに接続され、世の中のさまざまな事象をデータ化できるようになった時代ならではのクリエイティブ・アプローチと位置づけています。

「データテインメント」は、「データ」と「エンターテインメント」をかけ合わせた造語で、リアルデータから体験を生み出す新しいエンターテインメントという意味合いを持たせています。
また、生み出す体験だけでなく、データにあふれる時代を面白がるバスキュールのマインドや、データにクリエイティブに向き合う態度を表現する言葉でもあります。

バスキュールは、2000年の創業以来、コミュニケーション技術の進化と並走しながら、さまざまな領域でインタラクティブな体験づくり( ≒ インタラクティブ・クリエイティブ)に取り組んできました。
そして、こうした取り組みの背景に一貫してあるのは、データにこそ価値の源泉があるという考え方です。
「データテインメント」は、この「インタラクティブ・クリエイティブ」をアップデートした概念であり、「メテオブロードキャスター」をはじめとする自社プロジェクトや、企業との協業・共創プロジェクトの中でその実践を続けています。

「インタラクティブ・クリエイティブ」とは何だったのか?

データテインメントを詳しく解説していく前に、先に出した「インタラクティブ・クリエイティブ」という言葉について簡単に説明したいと思います。

「インタラクティブ」という言葉が、「相互作用」「双方向」といった意味を持つように、「インタラクティブ・クリエイティブ」はコンテンツとユーザーが相互に関与し合うことで生み出されるコンテンツや体験を指し、主に広告業界で使われてきた言葉だと思います。

企業から消費者への一方的な伝達だった従来の広告を、消費者が能動的に関与するコミュニケーションに変化させることで、よりエモーショナルなブランド体験やより深いユーザーとのエンゲージメントを生み出すことが「インタラクティブ・クリエイティブ」のコンセプトです。

バスキュールが創業された2000年前後は、Flash等の技術を駆使して、PC上に表示されるリッチコンテンツを制作することがインタラクティブ・クリエイティブの主戦場でした。
事例として、2008年に衛星放送のWOWOWと取り組んだ「WOWOW 12CAMS」を取り上げたいと思います。
放送用のライブ映像は、複数のカメラで撮影された素材が番組ディレクターによって編集され、パッケージされたコンテンツとしてユーザーに届けられます。言い換えると、放送用コンテンツでは使用されない映像素材がたくさんあるということです。
そこに着目した「WOWOW 12CAMS」は、ライブ映像を12台のカメラから自由に閲覧でき、ユーザー自身のスイッチングでオリジナルのライブ映像をつなぎ合わせられることに加え、編集した映像を他のユーザーにも共有できるというインタラクティブコンテンツでした。

このように、ユーザーが完パケされたコンテンツを受け取るだけでなく、つくり手・送り手の一人としてコンテンツに関与できるのが、インタラクティブ・クリエイティブの大きな特徴です。

WOWOW 12CAMS

インタラクティブ・クリエイティブからデータテインメントへ

インタラクティブな体験は、「入力(されるデータ)」と、「出力(される体験)」の組み合わせによってデザインされます。「WOWOW 12CAMS」においては、ユーザーのスイッチング操作が「入力」であり、個別に生成される映像コンテンツが「出力」にあたります。

2000年代以降しばらくは、インタラクティブ・クリエイティブの基本的な「入力」はユーザーの明示的な操作から生まれるデータであり、「出力」はFlashなどの技術を駆使したWebサイト上で提供される体験でした。
2010年代に入り、「入力」側と「出力」側それぞれで技術革新が進んだことによって、インタラクティブな体験づくりの可能性が大きく広がったというのが我々の認識です。

スマートフォン、小型センサー、IoTプロダクトなどが普及したことで、従来のユーザーによる入力に加えて、インタラクティブ・クリエイティブの入力ソースとして扱えるデータは爆発的に増えました。
ビッグデータという概念が注目されるようになり、データが新たな産業を生み出し、既存の枠組みを覆すような現象まで起こり始めています。
かたや、スマートフォンやXRデバイス、IoTデバイスを体験装置として用いることで、ディスプレイの中にとどまらず、実空間にまで出力先を広げることができるようになりました。

つまり、「入出力」と「出入力」の組み合わせが爆発的に広がっている現在における「インタラクティブ・クリエイティブ」のアップデート版が、「データテインメント」なのです。

技術環境の変化によって、インタラクティブ・クリエイティブはよりインパクトのある体験を生み出せるようになり、それと歩を合わせるように、バスキュールのクリエイティブ領域も広告、メディア、プロダクト、教育、スポーツ、モビリティ、都市、宇宙などに拡がってきました。

IoTやビッグデータなどのテクノロジーによって、ネットの力でリアルの世界に革命を起こせる時代になったと言われるようになりましたが、バスキュールもまた、インタラクティブな体験づくりを通じて培ってきたスキルを活かし、社会により大きなインパクトをもたらすクリエイティブにトライしたいと考えているのです。

この世界の新しい「面白がり方」を見つけたい

データテインメントのミッションは、身の回りにあるさまざまなデータに内包されているリアリティやストーリーを抽出し、エモーショナルな体験へと変換することで、人々がまだ気づけていない世界の面白さやワクワクを届けることです。
データにあふれる時代だからこそ、世界にポジティブな認識や行動を促すデータのデザインに取り組むことに大きな価値があると考えているのです。

前回ご紹介した「メテオブロードキャスター」も、まさに新しい「世界の面白がり方」を届けるプロジェクトだと言えます。「メテオブロードキャスター」では、流星観測システムを通じて、日本上空に流星が流れたという「気付き」や「ときめき」がリアルタイムで得られます。
そこに「願い事をする」という体験を重ねることで自然現象への新たな関わり方が生まれ、さらに流星群の日にはみんなが願い事をするという新たな「年中行事」へと発展していく。
こうした体験を通じて、流星群は地球の公転運動によって毎年同じ時期にやってくる現象だという事実を認識できると、実は地球は太陽を中心に移動している“乗り物”であり、我々は毎年同じ時期に流星群という“観光スポット”に旅に出ているといった新たな視点や世界の認識が得られるのです。

「データ活用」視点で考える「データテインメント」

バスキュールはデータテインメントの手法を用いて、さまざまな企業や組織との協業・共創にも取り組んでいます。

「Data is the new oil.(データは新しい石油だ)という言葉が示すように、データは現代における価値の源泉です。バスキュールでは、企業や組織が持っているデータをいかに新しい価値に変えるのか、あるいは、新たなデータを生み出すためにどんなユーザー体験をデザインするのかといった観点からさまざまなサービスを開発しています。
こうした取り組みは、一般的な「データ活用」という言葉から想起されるものとはアプローチや生み出している価値が大きく異なります。

UXデザインの世界でよく知られている「UXピラミッド」というフレームワークがあります。これは、サービス体験を通じてユーザーが得られる価値を6段階で示したものです。

UXピラミッド

エンドユーザー向けのデジタルサービスにおいて、多くの企業が重視しているのは利便性や機能価値であるように思います。これは、UXピラミッドのLevel4(便利)に該当します。
この背景にあるのは、ユーザーにとって便利なものこそが価値であるという考え方です。

一方で、バスキュールが「データテインメント」によって目指すのは、Level5(嬉しい・楽しい)、Level6(意味がある)です。
ユーザーの琴線に触れ、どれだけ心を動せたのか、思い出や記憶に残る体験になったのか、さらにはその人にとってなくてはならない意味があるものになっているのかということを重視しています。

飲料メーカーのサントリーとともに取り組んだ「TOUCH-AND-GO COFFEE」は、新しいコーヒー体験やビジネスを生み出すためのプロジェクトで、「モバイルオーダーシステム」に新たな体験価値を持ち込むことを目指したものです。
ユーザーはスマートフォンアプリを通じて好きなフレーバーやパッケージの色、記載される名前などの項目を入力し、指定の時間に店舗に行くと自分好みにカスタマイズされた商品を受け取ることができます。
店舗のサイネージでは、ユーザーがオーダーした商品をフィーチャーする演出も行うなど、「モバイルオーダー」という「便利」なサービスを下敷きとしながら、コーヒーを購入するまでの一連のプロセスをエンターテイメント性を帯びたブランド体験としてデザインしました。
その結果、好きなアーティストやキャラクターの名前を入れた「推しボトル」をつくってシェアするというクリエイティブな楽しみ方を、ユーザーが自発的に生み出すという現象が起こりました。
これはまさに「モバイルオーダー=便利」にとどまらない新たな「意味」を生み出すことができた証であり、ブランド独自の体験価値を創出できたプロジェクトになりました。

TOUCH-AND-GO COFFEE Produced by BOSS

ここでもう一度UXピラミッドに戻ると、Level4(便利)はユーザーのニーズが起点となっており、既存のモノサシで測れる価値を向上させるものだと言えます。
これらは合理的にソリューションを導いていくためにアウトプットが同質化しやすく、競争優位性を生み出しにくいばかりか、日本のような先進国においては、不便を解消して価値をつくることはますます難しくなっています。
さらには、フリーミアムモデルで圧倒的な利便性を提供するデータプラットフォーマーと競合してしまう可能性もあります。

一方のLevel5や6は、つくり手自身が新たな「意味」や「モノサシ」をつくるためのクリエイティブな見立てや発想、そして何よりもヴィジョンが求められるアプローチです。
このようなヴィジョンドリブンなデータ活用のアプローチは、企業やプロダクト、地域などブランド力を持つプレイヤーが、その独自性を増幅・拡張する上で非常に有効だと考えています。

もっと「データテインメント」を語ろう

ここまで紹介してきた「インタラクティブ・クリエイティブ」と「データ活用」の交差点で新たな価値を生み出そうとするプレイヤーは決して多くはありません。
しかし、クリエイターならではの発想で、データから新たな価値や意味を創り出していくアプローチは、データにあふれる現代にこそ求められているのではないでしょうか。

今後「バスキュールのポッドキャスト」では、バスキュールが手がけてきた事例をもとに、「データテインメント」をさまざまな切り口で紐解いていく予定です。
各回のテーマに合わせて、プロジェクトメンバーやパートナー企業、外部の有識者などをゲストとしてお呼びしながら、さまざまな視点から「データテインメント」の可能性について話し合っていく予定ですので、今後の「バスキュールのポッドキャスト」にもぜひご期待ください。

[編集協力]原田優輝(Qonversations)


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