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Criminals~ともだちのうた~前編

『スキ』逆から読めば『キス』。まるで無限のしりとりをするかのように、僕たちは止めどなく唇を重ねた。


気持ちが高まるあまりキスが永過ぎたのか、息苦しそうにする彼女は一旦離れようと体を反らすが、舌を甘噛みして引き寄せた。


腰に左手を回し更に身体を引き寄せ、彼女の頭を優しく撫でるように右手を添えた。



その日、僕たちは別れを決めた。



………………………………………



あれほど激しく求め合ったのが嘘のように、事が終わるとベットと同化したかのように寝転び天井を眺める。


「もう、終わりにしましょう。これはあなたの為よ。」


「そうやな。旦那さんにバレたら幸せな家庭が壊れちゃうからね。僕もタダでは済まないやろうし。」


「皮肉ぽい言い方。」



皮肉ぽく憎まれ口叩かないと本音が溢れ落ちそうで怖かった。


いくら想っても彼女には家庭がある。簡単に言えば、不倫の関係。始まりの瞬間から終わりが見えている関係だから、必ず訪れる、別れ。遅かれ早かれ、こうなるのは分かっていた。



夫婦の貞操義務を知りながら、不貞関係を続けてしまう、僕は罪人だ。それでも日に日に想いが増していく自分がいる。


こういう人だから愛しいのではなく、そこにいてくれることそのものが愛しい。彼女はそういう存在だった。そう想える女性(ひと)だったからこそ、想いが実らなくても、そばに居るだけで幸せに思えた。まるで孵(かえ)ることのない卵を抱き続ける親鳥のように、幸せになれない幸せがあってもいい、そう思える女性(ひと)だった。





床に脱ぎ捨てたシャツを拾い、着ながら彼女に話しかけた。


「もしも、もっと早く出会ってたら僕らの関係も違っ…」


「無い話は止めよう。」


もしもの話になると決まって彼女は背筋を伸ばし肩を張り、表情を内面から支え直すような笑みを浮かべ、僕の話にかぶせるようにいつも同じ言葉で話を止める。


無い話は止めよう、と。



「もしも、一緒に旅行にいけたら」


「もしも、自由に出来る時間があったら」


「もしも、……」




『もしも』の話は夢を見れる反面、歳を重ねるごとにネガティブな言葉が続くことが多くなる。


もしも、病気になったら。


もしも、リストラや会社が潰れたら。


もしも、突然 死んだら…。


もしも、…。 もしも、…。



そんな話の終わりは決まってこう言う。



「そう考えると今幸せだな。」



多くの人は『もしも』を使い、今幸せであることを再確認しているのかもしれない。でも、僕たちは『いま』を再確認したら辛くなるだけ。



言えなかった言葉、言ってはいけない言葉、言って欲しい言葉、聞きたくない言葉が細く繋がり心の中で巡りつづけるから、まるで水溜りを避けて歩く雨上がりの散歩のようにぎこちない会話になる。



相手に踏み込むことなく陽気に、ただ沈黙が訪れないように繋ぐだけの会話をして、お互い傷付け合わない程よい距離を保つ。




それが僕たちの『いま』




僕たちが幸せを再確認する為の『もしも』の選択肢はどんな内容でいくつくらいあるのだろうか。しかし、今となっては明日のない僕たちに幸せの選択肢などあるわけがない。




「そろそろ、出よっか。」にっこり微笑む彼女に微笑みで返事を返した。



ドアを開け部屋を出る。寄り添い歩き、エレベーターに乗り込みドアが閉まると彼女の顔が近づき、チュと軽いキスをされた。


「元気でね。」まるで紙風船を宙に放つような、ふわりとした彼女の微笑みが切なくも愛おしくも感じた僕は自分を抑えられず彼女を抱き寄せた。


『スキ』逆から読めば『キス』。まるで無限のしりとりをするかのように、僕たちは止めどなく唇を重ねた。



気持ちが高まるあまりキスが永過ぎたのか、息苦しそうにする彼女は一旦離れようと体を反らすが、舌を甘噛みして引き寄せた。


腰に左手を回し更に身体を引き寄せ、彼女の頭を優しく撫でるように右手を添えた。


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