考察:ストレンジリアルの人類史の起源は「アネア大陸」にあった?

まえがき

 エースコンバットシリーズを横断して描かれる世界観「ストレンジリアル」。エースコンバット7ではこれまでの歴史の集大成が描かれると共に、3の存在を正史に組み込むための様々な描写が表に裏に見受けられた。例えばサブリメーションの前段階である「マインドトランスファー」を施されたミハイAI、シンギュラリティの萌芽が見られたAIアシスタントのAlex、そしてNUN(新国連)の前身組織である「IUN(国連)」の存在。さらにはGR社によるアリコーンとトリガーを巡る策謀。それまで黒幕として存在感を示していた「ベルカ」と「グランダー」の明確な落日。エースコンバットZEROより続いた過去を精算し、エースコンバット3という未来の道標を築き上げた、世界観的に非常に重要な一作となったと言えるだろう。

 だが、しかし。歴史とは、時間の広がりとは、もっと広いものではないのか。例えばエースコンバット3から先の未来である「UGSF」という世界観。ギャラクシアン、ギャラガ、スターラスター、ディグダグ、バラデュークなどの往年のナムコ作品や「しんぐんデストロ~イ!」「ミスタードリラー」「みずいろブラッド」などの「えっ?」と思われるタイトルなどが含まれる、ナムコの一大ユニバース。そう、「未来」は無限に広がっている。

 では、過去は?

 エースコンバットZEROより前のストレンジリアル前史は確かに存在する。1905年のオーシア戦争や1100年代のシュティーア城完成など、歴史の断片はいくつか設定で存在している。だがしかし、ストレンジリアルの「人類史」はそんなに浅いものではないはずだ。

 そこで、エースコンバットシリーズの描写の断片を繋ぎ合わせ、どうにか仮説らしきものを組み立てた。その結果、エースコンバットシリーズの「前史」となるゲーム作品が2つ存在することがわかったのだ。これらが将来的にどういう扱いになるのか定かではないが、今後のバンダイナムコのIP展開を予想する上でひとつの仮説が成立する。

 それこそが、「アネア大陸こそがストレンジリアルにおける人類史の起点である」という仮説だ。

第1章 エメリアに存在する「バビロニアンキャッスルサーガ」の痕跡

 エースコンバット6に登場した「エメリア共和国」。モデルは数々の描写からイタリアが最有力とされている。かつて「金色の王様」こと英雄王アウレリウス2世によって王政が敷かれ、民主化によって共和政治に移行した国家であった。この「金色の王様」は英雄王アウレリウス2世が相争う諸侯を鎮圧するための士気高揚策として作らせた像と言われている。しかし、その元になったのが「アネア大陸に伝わる古代神話に登場する戦神」らしいのだ。

 さて、「金色の英雄王」と称される人物について、ナムコのオールドタイトルに明るい読者諸兄は「おや?」と思ったことだろう。そう、その称号が相応しい存在、後に「戦神」と称される英雄的人物が一人存在する。それこそが「英雄王ギルガメス」。かの伝説的タイトル「ドルアーガの塔」の主人公にして、バビロニアンキャッスルサーガの中心人物である。神より授かった金色の鎧を身に纏ったバビリム王国の王子であり、80年後を描いたアニメ「ドルアーガの塔 ~The Aegis of URUK~」ではウルク国の国王の座についていた。

 バビロニアンキャッスルサーガの下敷きとなっているのがメソポタミア神話であることは数々の固有名詞からも疑いようのない事実ではあるものの、女神イシターは原典のイシュタルと比べて遥かに善神寄りであったり、アヌが夏の間だけ力が強まったりなどといった差異が存在する。つまり我々の世界のメソポタミア神話とは微妙に異なるのである。

 さて、ここでストレンジリアルに視点を戻そう。エースコンバット6には、もうひとつバビロニアンキャッスルサーガとの繋がりを見出すことができる。それがエメリア陸軍の「クオックス隊」だ。「ドルアーガの塔」では敵として登場したが、本来バビロニアンキャッスルサーガの世界観では善良なドラゴンであり、エメリアの護りを固める機甲大隊の名前として採用されたのも頷ける。一応、エースコンバット6のエメリア軍に登場する部隊は「ドラゴンバスターズ隊」や「スカイキッド隊」、「スティールガンナーズ隊」など、ナムコのオールドタイトルにちなんだ名前が並んでいる。ただ、クオックス隊がこれらと一線を画すのは他の隊名が「ナムコゲームのタイトル」なのに対して、クオックス隊だけ「バビロニアンキャッスルサーガに登場する固有名詞」なのである。そう、ここだけ強烈な違和感を覚えたポイントであった。

 他の隊名を見てみると、「ワーロック隊」「バラクーダ隊」「グリズリー隊」「ウインドホバー隊」などなど、動物やファンタジーの存在などの名前が充てられている。もしかすると、クオックスはこちらのカテゴリーに属するのではないかと考えた。そう、バビリム王国の神話に伝わる善竜クオックスの名が、ストレンジリアルに伝わっていたとするとどうだろうか。

 「金色の王」の伝説と「善竜クオックス」の名が残っていること、この2つの事実をつなぎ合わせることで、バビロニアンキャッスルサーガの舞台は太古のアネア大陸だったのではないか、という仮説が浮上する。つまり、アネア大陸のどこかに、かつて「塔」が存在していたのだ。おそらく紀元前であったことから、現存していない可能性が高いと考えられるが……。

第2章 「ラーズグリーズ」と戦乙女の関係性

 もうひとつ、アネア大陸には伝承が存在する。それが「ラーズグリーズの悪魔」だ。童話「姫君と青い鳩」に登場する悪魔で、「歴史が大きく変わる時、漆黒の悪魔として現れ、しばしの眠りの後英雄として再び現れる」という伝承が伝わっている。このラーズグリーズの悪魔にちなんだ地名が、エメリアとエストバキアの国境上に位置する「ラーズグリーズ海峡」だ。「エースコンバット5」ではここにユークトバニア連邦共和国の大型潜水艦「リムファクシ」が潜み、主人公部隊「ウォードッグ隊」との激戦が繰り広げられ、「ラーズグリーズの悪魔」の異名がリムファクシからウォードッグへと継承されていった。

 このラーズグリーズ、後にウォードッグがラーズグリーズ隊と改称するにあたってエンブレムに描かれるようになるのだが、その意匠は「羽の生えた兜を被った戦乙女の横顔」である。もともとラーズグリーズとは北欧神話に登場する戦乙女「ワルキューレ」の一人であり、「計画を壊すもの」という意味を持つ。

 ナムコにおいて「ワルキューレ」と言えば、「ワルキューレの冒険」や「ワルキューレの伝説」の主人公である。このワルキューレも翼の生えた兜を被った戦乙女であった。マーベルランドを救うために降り立ったワルキューレは、「ワルキューレの冒険」では魔王ゾウナの野望を打ち砕き、「ワルキューレの伝説」では欲望に支配されたカムーズから黄金の種を奪還した。悪の野望をことごとく打倒したワルキューレの働きは、まさに「ラーズグリーズ」の異名に相応しいと言える。

 さて、このワルキューレの世界観だが、「ラグナロクが起こった後の世界」とされている。つまり一度世界がラグナロクで滅び、その後新生した世界であるとされており、本来の北欧神話における「ワルキューレ」も存在する。「ワルキューレの冒険」の主人公であるワルキューレは、あくまで旧世界の戦乙女にちなんで「ワルキューレ」と名乗っているに過ぎず、本名は別に存在するらしいのだ。

 さらに、このワルキューレに対して世界を救えと命じるのが「大女神」と呼ばれる存在であるが、実はこの大女神、どうも「本来のワルキューレ」の一人だったようなのだ。ここから考えるに、2つの説が考えられる。

 1.大女神がラーズグリーズだった
 2.主役たるワルキューレがラーズグリーズだった

 1.の仮説は、旧世界の生き残りである大女神がワルキューレの一人ラーズグリーズであり、ゾウナやカムーズの野望を自らの名に従い打ち砕くために主役たるワルキューレを遣わした、というものだ。

 2.の仮説は、実際に大女神の命を受けてマーベルランドに降り立った主役たるワルキューレの本名こそが「ラーズグリーズ」であったというものである。後年に本名を名乗ったことで「ラーズグリーズ」の名が広まった、というものだ。

 とは言え、大女神がラーズグリーズだった場合、大女神の名が何故後世に残ったのかが疑問となる。主役たるワルキューレがラーズグリーズだった場合、旧世界にはラーズグリーズはいなかったのか、という疑問が生じる。どちらも説得力に欠けるのだ。

 そこでこの2つの説が、実は両方正しいとしたらどうだろうか。そう、ラーズグリーズは2人いた。大女神と主役たるワルキューレの両方がラーズグリーズとして後世のストレンジリアルのおとぎ話となったのだ。こうすると、ひとつ腑に落ちることがある。

 ラーズグリーズはラグナロクの前、戦士の魂をヴァルハラに連れて行くという役目があった。これが、大地に死をもたらす「悪魔」と人々には映ったのである。そして「ラグナロク」という「歴史が大きく変わる時」を迎え、世界は一度滅びる。この時、「ラーズグリーズは死んだ」のだ。だがその後大女神となって復活し、英雄として讃えられる「主役たるワルキューレ」が遣わされた。この時、ラーズグリーズの名は大女神から主役たるワルキューレへと受け継がれたのだ。人々はラーズグリーズが「英雄として蘇った」と感じたに違いない。そう、これこそが「ラーズグリーズのおとぎ話」の正体である。

 そしてこのおとぎ話の舞台こそ、有史以前に「マーベルランド」と呼ばれたアネア大陸だったのではないだろうか。そう、バビロニアンキャッスルサーガよりも前の時代、神々と人々の距離が近かった時代こそがワルキューレ──ラーズグリーズのいた時代だった。そして、しばしの時を経た後、バビロニアンキャッスルサーガの時代を迎える。この時、ギルとカイが天界にブルークリスタルロッドを返還したことをきっかけに、人の世が本格的に幕を開けた。それから何千年もの時を経て、アネア大陸にはワルキューレの伝説とバビロニアンキャッスルサーガの物語が伝承として語り継がれるようになり、「ラーズグリーズ海峡」「金色の王の伝承」「善竜クオックス」などの名が残ったのである。

第3章 UGSFは、ストレンジリアルは、「過去の世界」にも広がる?

 さて、ナムコはすでにUGSFという巨大な世界観を有している。最近では「電音部」にUGSFとの関連性がいくつも発生しており、コンテンツを追う過程でUGSFの世界観に触れる機会も増えてきた。

 そう、新規IPを使ったUGSFの展開は電音部を中心に発生しようとしている。その一方で、UGSFはギャラクシアンやスターラスターなどのオールドIPも包含する世界観だ。これをさらに拡張する場合、電音部を含めた新規IPを登場させて世界観を広げる方法以外に、「オールドIPをUGSF世界観に含める」という方法がある。その嚆矢として考えられるのが、「バビロニアンキャッスルサーガ」と「ワルキューレシリーズ」を「ストレンジリアルの前史」として語るというものだ。そのためのフックとなるのはおそらく今回述べた仮説となるだろう。

 ちなみにもう一つのフックとして考えられるのが「スカイキッド」が「オーシア戦争」を描いていたという仮説だが、これに関してはまだきちんと練れていないため一旦は置いておく。

 トンデモ説と切って捨てるならばそれでも結構。しかし、ストレンジリアルからUGSF世界へと連綿と続く世界の「過去」に、バビロニアンキャッスルサーガとワルキューレシリーズが含まれていたとしたら、世界はより広がりと深みを増していくのではないだろうか。

 ゆくゆくは様々なナムコタイトルがUGSFの名のもとに集結していくことだろう。それがどのような姿になるのかは、今はまだわからない。アメコミやウルトラマンのような多元宇宙、ガンダムの黒歴史のように文明崩壊と反映を繰り返してきた世界観など、様々な方法が考えられる。だが、今後ナムコゲームの世界観が、どこかのタイミングで、何らかの形で大同団結する可能性は否定出来ないのだ。今はその時をただ静かに待とうと思う。

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