紅蓮ゾルゲ回顧録 第1話 ~バッシュゾルゲ、天啓を下す~
序論:Zolge is still alive.
デュエル・マスターズ。
15年以上もの歴史を誇るこのカードゲームにおいて、さまざまなデッキが綺羅星の如く産まれては消え、輝いては死を迎えを繰り返してきた。
その中には環境で天下を取り、多くのプレイヤーを勝利に導いたデッキもあれば、CS会場でひっそりと息を潜め、熟練の暗殺者の如く油断していた対戦相手を葬り去っていったデッキもあった。
15年という歴史と膨大なカードプールがもたらすものは、ゲームの勝利というたったひとつの目的を果たすための幾億通りもの手段だ。どのカードで、どのような効果を使用して、どのシナジーを活かし、どのようなコンボに繋げ、どのように勝利するか。
5枚の盾による守りを掻い潜って相手へのダイレクトアタックを決める、相手のデッキを削り取る、「ゲームに勝つ」と書かれたカード効果の発動条件を満たす。様々なデッキが、様々な勝ち方を模索した。
問われるのは、環境を読む能力。そして自由な発想力だ。
さて、ここでこの文章を書いている私について自己紹介せねばなるまい。
DMPランキング登録名、バートレット。静岡県は浜松市にて、会社勤めの傍らカードゲームをしている。デュエマ歴は浅く、2015年の革命編から本格的にこの世界に足を踏み入れた。これまで、出不精な性格も祟り、大会における実績は過去に第2回DM藤枝CCでベスト16を記録したのみだ。
そんな私が何故noteにて筆を執ったのか。それは、ここ1年、私はある研究テーマを追い続けているからだ。
「紅蓮ゾルゲ」というデッキのアーキタイプ(類型)をご存知だろうか。《紅蓮の怒 鬼流院 刃》《偽りの名 ゾルゲ》の2枚のカードによるコンボを利用するデッキである。
この2枚のカードが揃ってしまったが最後、相手にもたらされるのはサドン・デス。突然の死というわけだ。
どのように勝利を得るかは次章以降に譲るとして、このデッキは、誕生当時、環境で猛威を振るった。【ネクラ超次元】、【Nエクス】、【ラムダビート】などのデッキと共にしのぎを削り合い、混沌としていたE1環境後期において、大会の会場では「カレーパンはどこじゃぁぁぁ!」の叫び声が木霊する、そんな時代がかつてあった。
が、E2期に移ると共に殿堂発表。鬼流院 刃とゾルゲ、ハンターとアンノウンという呉越同舟、敵味方を超越した友情は、プレミアム殿堂超次元コンビという壁によって引き裂かれた。呉越同舟の組み合わせは、最近ではドギラゴン剣とドキンダムの相性の良さが有名ではあるが、それ以上の結びつき、切っても切れない関係として、彼ら2人は友情を育んでいたのだ。
時は流れ、2016年。プレミアム超次元殿堂コンビからの制限緩和により再び日の目を見た紅蓮ゾルゲだが、環境の高速化やメタカードの存在によって、すでに往年の綺羅星の如き活躍は難しい。
だが、しかし、それでも。
紅蓮ゾルゲは死んではいない。失われた4年半の月日がもたらした環境の高速化はともかくとしても、メタカードの存在は同時に、カードプールがそれだけ増えた証左だ。
ならば、紅蓮ゾルゲに新たなパーツを組み込めば、環境のスピードを超えられこそしないまでも、追うことはできるはずだ。メタカードの存在も、そのメタカードを対策した勝ち方を考えれば良いだけのこと。
求めるのは、新たな形の【紅蓮ゾルゲ】。現在の環境デッキと【紅蓮ゾルゲ】を組み合わせれば、何か化学反応が起きるはずだ。
私の探求は、こうして始まった。
第1章 着想
2017年5月の半ば頃、行きつけの店のショップ大会で、私は当時「環境入りか」と噂されていたデッキと実際に対面した。
【バッシュギヌス】。DMGP4thにて登場したコンボデッキである。
《凶鬼34号 バッシュ》を召喚し、《暗黒鎧 ダースシスK》の代替コストで破壊。その効果で、《魔龍バベルギヌス》を蘇生する。《魔龍バベルギヌス》は自身を含むクリーチャーを1体破壊することで、墓地にある進化ではないクリーチャーを場に出す効果を持つ。つまり、《魔龍バベルギヌス》を経由しながら様々なクリーチャーを墓地から蘇生できるという、画期的なコンボを使用している。最終的に、墓地を肥やした状態から《復活の祈祷師ザビ・ミラ》を蘇生させ、場の4体のクリーチャーをコストに《ヴォルグ・サンダー》を4体展開してデッキを削り取るというものだ。
私はそのデッキに完膚なきまでに敗北した。
だが、噂のバッシュギヌスを目の当たりにして、私の中では感嘆と同時に、疑問が生じた。
コンボの締めに《ヴォルグ・サンダー》4体で最低8枚のデッキ破壊、それはいい。だが、言い換えれば、8枚しかデッキを削れないのだ。もしも8枚のデッキ破壊の結果、相手をライブラリアウトに追い込めない場合、それでも確実な勝利ができるのか? 途中の過程は理想的なだけに、何か惜しい。
もちろん、それをケアするために、《超覚醒ラスト・ストームXX》がある。だが、《超覚醒ラスト・ストームXX》を使うには、1ターン《超時空ストームG・XX》を立たせてターンを返さなくてはならない。その1ターンという猶予で、《超時空ストームG・XX》が除去されない保証は、ない。
コンボ始動後、確実に相手を落とせなければならないという、明確な課題が、そこにはあった。個人的な感想で恐縮だが、4枚もの《ヴォルグ・サンダー》に圧迫される超次元も、あまり美しくないと感じた。
その時、手元にあった《偽りの名 ゾルゲ》が目に入る。
ならば、いっそコンボの締めを【紅蓮ゾルゲ】に託すのはどうだろう?
さて、ここで【紅蓮ゾルゲ】のコンボについて、遅まきながら解説せねばなるまい。
【紅蓮ゾルゲ】は、《偽りの名 ゾルゲ》が持つ「場に出たクリーチャーと他のクリーチャーを対象に取り、バトルを行う」効果と、《紅蓮の怒 鬼流院 刃》の「ハンター・クリーチャーがバトルに勝った時にマナゾーンまたは超次元ゾーンから、バトルに勝ったクリーチャーよりもコストの小さいハンター・クリーチャーを無償降臨させる」効果を組み合わせ、ハンター・クリーチャーである《ヴォルグ・サンダー》を延々と出しては破壊、出しては破壊を繰り返すデッキである。
キーとなるのは、《偽りの名 ゾルゲ》《紅蓮の怒 鬼流院 刃》。これに加えてパワー5000以下のクリーチャーが2体。なぜ2体必要かというと、《ヴォルグ・サンダー》を出すギミックにある。
《偽りの名 ゾルゲ》の効果で、《紅蓮の怒 鬼流院 刃》と《ヴォルグ・サンダー》をそのままの状態で直接ぶつけることは出来ない。両者のパワーは7000と同値であり、相打ちとなった場合、《紅蓮の怒 鬼流院 刃》の効果を使用することが出来ないのだ。そのため、《ヴォルグ・サンダー》よりパワーが高く、コスト7以上のハンターにこの役目を託す必要がある。それが、《カレーパン・マスター 切札勝太》である。
《カレーパン・マスター 切札勝太》は、バトルゾーンのコスト6以下のクリーチャーに種族・カレーパンを付与する常在効果、およびバトルゾーンにある種族・カレーパンのクリーチャー1体につきパワーを+1000する常在効果を持っている。《ヴォルグ・サンダー》のコストは6以下のため、《カレーパン・マスター 切札勝太》のパワーは最低でも8000となる。バトルに勝つことが可能なのだ。
さらに、《カレーパン・マスター 切札勝太》の覚醒前、《遊びだよ! 切札一家なう》は、バトルに勝つと即座に覚醒する。加えて、素のパワーは4000と低めではあるが、バトルを行うときにプレイヤーが「カレーパンはどこじゃぁぁぁ!」と叫ぶことでパワーが+2000される。
では、一連のコンボの流れを以下に説明しよう。前提として、《偽りの名 ゾルゲ》により、バトルゾーンに出たクリーチャーは他のクリーチャーとバトルが出来る状態にある。
1.パワー5000以下のクリーチャーAと《紅蓮の怒 鬼流院 刃》をバトルさせる
2.《紅蓮の怒 鬼流院 刃》バトルに勝ったので、
《紅蓮の怒 鬼流院 刃》の効果で《遊びだよ! 切札一家なう》をバトルゾーンに出す
3.《遊びだよ! 切札一家なう》とパワー5000以下のクリーチャーBをバトルさせる。
このとき、4000以上5000以下のパワーを持っていた場合、
「カレーパンはどこじゃぁぁぁ!」と叫んで《遊びだよ! 切札一家なう》のパワーを上昇させる
4.バトルに勝ったため、《紅蓮の怒 鬼流院 刃》の効果が誘発。
コスト4以下のハンターをバトルゾーンに出す。
同時に、《遊びだよ! 切札一家なう》が覚醒し、《カレーパン・マスター 切札勝太》に覚醒する
5.《カレーパン・マスター 切札勝太》とコスト4以下のハンターをバトルさせる
6.《カレーパン・マスター 切札勝太》が勝つことで、《紅蓮の怒 鬼流院 刃》の効果が誘発、
《ヴォルグ・サンダー》をバトルゾーンに出す
7.《ヴォルグ・サンダー》の効果を解決しつつ、《カレーパン・マスター 切札勝太》とバトルさせる
8.6.に戻る
パワー5000以下のクリーチャーについて、1体は《紅蓮の怒 鬼流院 刃》を出すことが出来る効果を持つ、《激流 アパッチ・リザード》で賄うという選択肢があるため、実質後1体が欲しくなる。
さて、ここで【バッシュギヌス】の始動コンボを見てみよう。《凶鬼34号 バッシュ》はスレイヤーを持っているため、このコンボの的として使用することが出来ない。
だが、これを割ることで登場する《暗黒鎧 ダースシスK》。なんとこのクリーチャー、都合よくパワーが5000である。《紅蓮の怒 鬼流院 刃》からコンボを始動させるために飛び出す《遊びだよ! 切札一家なう》をゾルゲの効果でぶつける際に「カレーパンはどこじゃぁぁぁ!」と絶叫すれば、《暗黒鎧 ダースシスK》は見事、カレーパンとして切札勝太くんの胃袋に収まってしまうのである。
それは、まさに天啓であった。
【紅蓮ゾルゲ】を成立させるための、餌となるクリーチャー2体を容易に揃えられる。さらに、【バッシュギヌス】の課題である《ヴォルグ・サンダー》を耐えられる心配がほぼない。怖いのは《悠久を統べる者 フォーエバー・プリンセス》だけだ。
次の瞬間、私はバッシュギヌスのレシピを大きく書き換えていた。そのカードリストに《紅蓮の怒 鬼流院 刃》と《偽りの名 ゾルゲ》の名が刻まれるのに、そう時間はかからなかった。
第2章 構築
こうして着想を得た【バッシュギヌス】型【紅蓮ゾルゲ】、縮めて【バッシュゾルゲ】だが、実際の構築に当たり、まず考えるべきことがあった。
《紅蓮の怒 鬼流院 刃》及び《偽りの名 ゾルゲ》は、コンボの要となるクリーチャーである。クリーチャーは当然除去されれば盤面から消えてしまうため、相手に除去の隙を与えない、出したその場でコンボを始動させる必要がある。
【紅蓮ゾルゲ】の難しさの一つとして、《偽りの名 ゾルゲ》が8マナと重いことにある。つまり、《偽りの名 ゾルゲ》を出したターンは他のアクションができず、相手にターンを渡さなければいけないのだ。こちらが8マナ貯めている以上、相手のマナゾーンもそれなりに潤沢であることが予想され、次のターンで《デーモン・ハンド》や《テック団の波壊Go!》などで容易に除去されてしまうことは目に見えている。また、ビートダウンであれば、こちらにターンが返ってくる前に勝負を決めにかけてくる公算も高い。
そのため、《偽りの名 ゾルゲ》は可能な限り、《紅蓮の怒 鬼流院 刃》、ひいては《激流 アパッチ・リザード》と可能な限り同一ターンに出す必要がある。よしんば別のターンになったとしても、相手にろくなアクションを与えない対策を施すのが望ましい。
そこで、【バッシュギヌス】のギミックの出番である。今回採用したのは《ミケニャンコ》を利用したターンスキップ。《ミケニャンコ》を出し、効果で《凶鬼34号 バッシュ》を蘇生。相手のターン開始時に、《ミケニャンコ》の効果によって蘇生された《凶鬼34号 バッシュ》は自壊する。そこで《魔龍バベルギヌス》を経由して《終末の時計 クロック》を出してしまうと、相手はマナのアンタップとターン開始時に発生する効果を行うだけで、ドローすらできずにこちらにターンが返ってくるのだ。
さらに、このコンボを延々と行い続けるために、《極・龍覇 ヘルボロフ》と《極魔王殿 ウェルカム・ヘル》が採用される。《極魔王殿 ウェルカム・ヘル》は自分のターン終了時に4体のクリーチャーを破壊することで《極・魔壊王 デスゴロス》に龍解。このとき、破壊に《凶鬼34号 バッシュ》を巻き込むことで、《魔龍バベルギヌス》を経由して、予め墓地に落としていた《ミケニャンコ》を出す。そこからさらに《凶鬼34号 バッシュ》を出して、前述のターンスキップを発動。次のターンで、《極・魔壊王 デスゴロス》のアタックトリガーで《魔龍バベルギヌス》を蘇生、《魔龍バベルギヌス》の破壊効果をアタック中の《極・魔壊王 デスゴロス》に適用。《極・魔壊王 デスゴロス》は龍回避によって《極魔王殿 ウェルカム・ヘル》に戻る。蘇生対象として《凶鬼34号 バッシュ》を出すと、前のターンに出した《ミケニャンコ》《終末の時計 クロック》と、《魔龍バベルギヌス》《凶鬼34号 バッシュ》の4体が揃い、再び《極・魔壊王 デスゴロス》へ龍解させつつ《ミケニャンコ》と《凶鬼34号 バッシュ》を出すことが可能となるのだ。
このコンボを行うことで、こちらは安全に自分の即死コンボを準備することが出来る。当然、2枚目以降の《凶鬼34号 バッシュ》を出して、そこから予め墓地に落とした《偽りの名 ゾルゲ》を蘇生することもできる。《偽りの名 ゾルゲ》が登場すれば、今度は《極・魔壊王 デスゴロス》のアタックトリガーで、蘇生対象として《凶鬼34号 バッシュ》を選択すれば、すでに着地している《凶鬼34号 バッシュ》2体をバトルさせることで、両者を破壊しつつ2体分の効果誘発により、2回目の《魔龍バベルギヌス》から別のクリーチャーを持ってくることも可能だ。自分のターン中に場のクリーチャーの頭数を増やしつつ、《激流 アパッチ・リザード》まで出すことができれば、後は自分のクリーチャーだけでコンボが起爆する。
もちろん、《悠久を統べる者 フォーエバー・プリンセス》の対策も考える必要がある。コンボ中に《悠久を統べる者 フォーエバー・プリンセス》が山札から落ちてしまった場合、《ヴォルグ・サンダー》によるライブラリアウトでの勝利は不可能だ。
このデッキを作成した当時、まだ「ループの終了に不確定要素が絡む場合、自分が望む結果となるまでループを省略することができる」というルールは存在せず、不確定回数のループの省略は一律に認められなかった。
しかしそれを差し引いても、【紅蓮ゾルゲ】には、あまり知られていないがもうひとつの勝ち筋がある。《勝利のガイアール・カイザー》《勝利のリュウセイ・カイザー》《勝利のプリンプリン》の3体を揃えることで降臨する、《唯我独尊ガイアール・オレドラゴン》。攻撃力4000以下のクリーチャーをさらに用意できれば、あるいはバトルゾーンに《偽りの名 ゾルゲ》がもう1体いれば、この3体は容易に揃う。その瞬間、バトル対象を《カレーパン・マスター 切札勝太》から《唯我独尊ガイアール・オレドラゴン》に変えるだけで、アタック前に相手のシールドを全てブレイクし、そのままダイレクトアタックに持ち込むことが可能となるのだ。
こうして、既存の【バッシュギヌス】に【紅蓮ゾルゲ】を組み込み、調整を重ねていく。当初のレシピは以下の通りだ。
メインデッキ:
《凶鬼34号 バッシュ》x4
《魔龍バベルギヌス》x4
《暗黒鎧 ダースシスK》x4
《サイバー・チューン》x4
《エマージェンシー・タイフーン》x4
《戦略のD・H アツト》x2
《極・龍覇 ヘルボロフ》x3
《偽りの名 ゾルゲ》x3
《激流 アパッチ・リザード》x3
《ミケニャンコ》x3
《終末の時計 クロック》x4
《斬隠蒼頭龍バイケン》x2
超次元ゾーン
《勝利のガイアール・カイザー》
《勝利のリュウセイ・カイザー》
《勝利のプリンプリン》
《紅蓮の怒 鬼流院 刃》
《ヴォルグ・サンダー》
《ウコン・ピッピー》
《遊びだよ! 切札一家なう / カレーパン・マスター 切札勝太》
《極魔王殿 ウェルカム・ヘル / 極・魔壊王 デスゴロス》
お気づきの方も多いと思うが、この状態では受けをほぼ《終末の時計 クロック》と《斬隠蒼頭龍バイケン》に頼っている。この状態で調整したところ、ある程度速度の乗ったミッドレンジのビートダウン、【モルトNEXT】や【ドギラゴン剣】にはやや厳しいことがわかった。4ターン目に《凶鬼34号 バッシュ》を用意できても、《魔龍バベルギヌス》が墓地に落ちない場合や、《暗黒鎧 ダースシスK》が手札にない状況も考慮する必要がある。
そこで、《ミケニャンコ》とも相性の良い《白骨の守護者ホネンビー》を採用することにした。シールドから《ミケニャンコ》が出てきたとき、ブロッカーとして《白骨の守護者ホネンビー》を立てておくことで、墓地肥やし・墓地回収をして次のターンの準備をすると同時に、チャンプブロックで相手の攻撃をしのぐことも出来る。《凶鬼34号 バッシュ》が無いときに代わりに出して、次のターンに備えるのもいい。
《白骨の守護者ホネンビー》の枚数は、調整しながら決めていった。そして、5月末頃。ついに実戦デビューの日が訪れる。
第3章 実戦
当時、私にはいくつか行きつけのカードショップがあった。そのうちの1軒が特徴的で、よく集まる子どもたちが揃いも揃って曲者だったのだ。
ゴシック・ヘレンループを振り回し、ランデスを容赦なく叩き込み、果てはサソリスループすらも理解し、自在に操る。そのショップで子供の相手をするときは、気を抜くと殺られる。それが大人プレイヤーたちの共通認識だった。
というのも、そこにちょくちょく立ち寄る父親プレイヤーが、息子を含めた子どもたちにデュエマのプレイングを教育しているためで、そのショップに通う子供がCSで結果を残したり、公式大会で好成績を収めたりしていることもザラだ。
5月の末、私は問題のショップにいた。そこで行われたデュエマフェス1回戦。私の相手は、そんな一筋縄でいかない子供の1人だった。彼は傍らにドギラゴン剣のガチャを置く。今日は何を持ち出すかと思えばガチャか。「出撃」の目を出し、高コストのフィニッシャーを一気に踏み倒す魂胆と見た。デッキ以外の物品を必要とすることから、大半のCSのレギュレーションでは禁止としているものの、非常に厄介なデッキだ。一方、向こうは次元を確認し、【紅蓮ゾルゲ】であることを見抜く。
店員が試合開始を告げた。
こちらの2ターン目、《戦略のD・H アツト》を召喚した段階で、相手は異変に気づいた。
「え、【紅蓮ゾルゲ】じゃない?」
「まぁ見てな」
混乱する少年にただ一言返すと、3ターン目に《サイバー・チューン》、4ターン目に《凶鬼34号 バッシュ》と流れるように【バッシュギヌス】の定石をなぞっていく。そのまま《暗黒鎧 ダースシスK》をプレイ。《魔龍バベルギヌス》を経由して、《極・龍覇 ヘルボロフ》を蘇生する。
相手はマナブーストを引けず、動きが鈍い。対してこちらは《暗黒鎧 ダースシスK》が予め墓地に落ちていたこともあり、2体の《暗黒鎧 ダースシスK》、《極・龍覇 ヘルボロフ》、そして《戦略のD・H アツト》が場に存在する。この段階で《極魔王殿 ウェルカム・ヘル》の効果を使用し、《凶鬼34号 バッシュ》を蘇生。《戦略のD・H アツト》、《暗黒鎧 ダースシスK》2体と《凶鬼34号 バッシュ》を生贄に、《極・魔壊王 デスゴロス》が龍解する。《戦略のD・H アツト》によって、墓地に《終末の時計 クロック》と《ミケニャンコ》を落としていたため、この時点で眼前の少年の運命は半分決まっていた。だが、一方で《偽りの名 ゾルゲ》及び《激流 アパッチ・リザード》は1枚も見えていない。
「【バッシュギヌス】か……!」
少年はこの時点で全てを理解した。自分に来るはずのターンが、ドローフェイズすら許さず無残にスキップされる。
しかし、呻きながらも少年は首を傾げていた。では、この次元はブラフなのか?
答えは数ターンのスキップの後、ふいに訪れた。
《極・魔壊王 デスゴロス》のアタック時効果を使用した時、デッキから《偽りの名 ゾルゲ》が落ちたのだ。少年が再び目を剥いた。
「入ってた!? ゾルゲ入ってた!?」
「そりゃ入ってるよこの次元だもん」
次のターン、手札から2体目の《凶鬼34号 バッシュ》を出し、《極魔王殿 ウェルカム・ヘル》の龍解に巻き込んで《偽りの名 ゾルゲ》を蘇生する。さらに次のターン、《エマージェンシー・タイフーン》で《激流 アパッチ・リザード》を落とした。《魔龍バベルギヌス》経由で《激流 アパッチ・リザード》が蘇生され、《紅蓮の怒 鬼流院 刃》が登場する。
《ヴォルグ・サンダー》が連射され、デッキを全て墓地に送りながら、少年といつの間にか集まっていたギャラリーは口を揃えて叫んでいた。
「やっぱり【紅蓮ゾルゲ】じゃねーか!!」
その後、6月初頭に行われた藤枝CCと、その次の週に行われたブルーホースCSで、【バッシュゾルゲ】は数々のプレイヤーを大混乱の渦に叩き込んだ。ブルーホースCSにて青黒ハンデスを使用し、ハンデスを繰り返すも運悪く《斬隠蒼頭龍バイケン》や墓地落ち必須のパーツを撃ち抜き続けてしまったあるプレイヤーは、CS後にこう語る。
「もうハンデス握らねーわ……」
「いやー……バッシュギヌスから紅蓮ゾルゲってなんなんだよ……」
ブルーホースCSでは結果が振るわなかったが、藤枝CCでは当時の環境デッキである【ロージアダンテ】や【モルトNEXT】を葬り、4勝2敗と勝ち越し。新時代の【紅蓮ゾルゲ】を開発してしまったか、とウキウキ気分だったが、そうは問屋が卸さなかった。
6月下旬。殿堂レギュレーションの改訂が発表され、2017年7月8日付けで新たに以下のカードが殿堂入りとなった。
《S級原始 サンマッド》
《アラゴト・ムスビ》
《スクランブル・チェンジ》
《大勇者「鎖風車」》
《目的不明の作戦》
《魔龍バベルギヌス》
当時の断末魔と共に、末期のレシピをご紹介しよう。
https://twitter.com/JackBartlettP/status/878443739231928320
うわあああああああ
俺のバッシュゾルゲがああああああああああああ!!!
この2週間後、私は何をトチ狂ったか愛知県に飛び、【バッシュギヌス】の生みの親であるパタ@いっせー氏に【バッシュゾルゲ】で挑み……見事、【バッシュゾルゲ】は星になったのであった。
パタ氏は大爆笑しながら、「噂には聞いてました」と前置いた上で私を静かにこう諭したのである。
「強いデッキに強いデッキ組み合わせても、さらに強くなるとは限らないんですよ……」
仰る通りです、はい。
だが、しかし。
その直後にその場にいたWINNERS勢たちとの冗談混じりの会話が、私に新たな天啓を齎したのである。
「いやー、でもアレっすね。今後別の【紅蓮ゾルゲ】組むならやっぱ強いカードと組み合わせたいですね」
「《ベイB ジャック》とか?」
「あ、なんか行けそうで怖いな。序盤にステップルとか青銅の鎧立ててジャック出してマリニャンでプッカ立てて……あれwww自然入ってるからゾルゲ軽減効くwww」
《ベイB ジャック》?
そうかそうか、その手があったか。
自宅に帰ると、私はストレージから《ベイB ジャック》を引っ張り出していた。パタ氏の忠告はどっかに吹っ飛んでいった。おそらく【バッシュゾルゲ】と一緒に星になったのだろう。
【バッシュゾルゲ】に次ぐ第2のゾルゲ、【ジャックゾルゲ】の産声が、このとき確かに聞こえたのだ。
To Be Continued...