紅蓮ゾルゲ回顧録 第2話 ~スコッチでもない、バーボンでもない。ジャックゾルゲ~

序章 《ベイB ジャック》との出会い

 もう、1年以上前の話になる。

 私はその日、(後に【バッシュゾルゲ】が骨を埋めた地として認識される)赤池にいた。
 そこで行われていたのは、伝説が集う大会。
 そう、第2回レジェンドCSが行われていたのだ。

 決勝戦、私はタブレット端末のカメラで写真を撮りながら、Twitterを一心不乱に更新していた。この光景を、いち早く多くのデュエマプレイヤーに伝えたかった。
 目の前で戦うのは、当時調整チームの名門として名を馳せていた2つのチームを代表する男がふたり。
 ひとりは赤いパーカーを身にまとう、Team Heaven's Diceのサイタ選手。
 いまひとりは青いパーカーを身にまとう、Team AQUAWAVEのロマサイ(当時ロマノフsign名義)選手。
 伝説のタイトルと互いの誇りを賭けて、ふたりのプレイヤーが激突していた。

 その両雄の片割れ、ロマサイ選手が操っていたのは、当時まだあまり知られていなかった緑単ゴエモンキーループ。予選の途中から彼の試合を見る機会があったが、鮮やかな手付きでループを成功させていた。
 その時にループの要として使用されていたのが、《ベイB ジャック》だった。

 このカードで場からマナを生成し、《フィーバー・ナッツ》《遺跡類神秘目 レジル=エウル=ブッカ》でコストを軽減。《蛇手の親分ゴエモンキー!》がマナからのクリーチャー召喚を許し、《青銅の面 ナム=ダエッド》がマナを伸ばす。そして《S級原始 サンマッド》が複数体送り込まれることで使えるマナを回復し、ループを維持するパーツを探しながら《雪精 ジャーベル》がデッキボトムを固定する。終いには《龍覇 マリニャン》を繰り返し場に出すことで5枚のドラグハートで構成される《極真龍魂 オール・オーバー・ザ・ワールド》を完成させ、自分の山札を回復しながら《曲芸 メイド・リン・ララバイ》が相手のデッキを全てマナゾーンに送り込む。
 マナ、手札、バトルゾーン、超次元ゾーン、山札をクリーチャーたちが目まぐるしく移動しながら、最終的にライブラリアウトへと持ち込む。緑単のデッキを専門に扱い、なおかつ結果を残してきたロマサイ選手の集大成にして、マスターピースだった。

 実は、この1ヶ月ほど前、私はロマサイ選手と、革命ファイナル日本一決定戦、その中部エリア代表戦の予選ラウンド最終戦で直接対決をしていた。エリア代表戦はブロック構築。こちらが【デアリドギラゴン剣】を使用したのに対し、ロマサイ選手は【黒赤ドルマゲドン】。最終的にドギラゴン剣がトドメを刺したとき、我々のエリア代表戦は終わった。どちらも決勝トーナメントへの進出が絶望的なのがわかっていたからだ。
 対戦が終わり、互いに礼。その瞬間、ロマサイ選手が吼えたあの一言が忘れられない。

「これでやっと緑単に戻れる……!」

 あぁ、ロマサイよ、君はそこまで緑一色のデッキを渇望していたのか。多色カードが中心的存在だった革命ファイナルのブロック構築は、彼にとって苦行だったのだろう。彼がその双眸をギラギラと輝かせながら鬼気迫る表情で《龍覇 サソリス》についての持論を語るのに若干ドン引きしながら付き合う中、私はそんなことを思っていた。

 ”緑単の魔術師”ロマサイ選手が伝説となったまさにその日、彼を栄光に導いたカードのひとつ、《ベイB ジャック》。あの日、私はこのカードの強さをまざまざと見せつけられた。
 それから半年後。
 私はこのカードと正面から相対することとなる。
 【紅蓮ゾルゲ】の新たなる可能性として。

第1章 着想

 デッキを組み上げる私の眼の前に、1つの動画があった。
 第9回静岡CS団体戦決勝、その実況生中継の模様を記録したものだ。
 この日、優勝を果たしたのは、チーム「ルーパールーパー」。その名に偽りは無く、"緑単の魔術師"ロマサイ選手、"緑のルーパーコンピュータ"フルス選手、そして"環境に潜む孤狼"シキボロフ選手という、3人の名だたるループ使いが勢揃いしたチームだ。このとき、Webカメラの前で戦っていたのはシキボロフ選手。使用デッキは【青緑ジャックループ】だった。
 このデッキは至極単純なループで構成されており、《ベイB ジャック》を盤面に投下して場のクリーチャーをマナとして扱いつつ、《アクア忍者 ライヤ》を2体使用して、《アクア忍者 ライヤ》Aをタップして青の1マナを発生させ、《アクア忍者 ライヤ》Bを召喚。そのCip効果でAをバウンスし、同様にBをタップしてAを出す。このように、実質0コストで延々とライヤを召喚し続けるループがこのデッキにおいて肝要となる。
 ここに、クリーチャーの召喚に反応してドローを行う《Dの悪意 ワルスラー研究所》や《ハッスル・キャッスル》を組み合わせると、山札のカードをほぼ全てドローすることができる。これで必要なパーツを集め、今度は手札が9枚以上の時に召喚できる《ルナ・コスモビュー》をG・ゼロで召喚。ノーコストで着地した《ルナ・コスモビュー》をタップして《アクア忍者 ライヤ》を召喚し、《ルナ・コスモビュー》を回収する。これを繰り返すと、最終的に《ルナ・コスモビュー》と《アクア忍者 ライヤ》4体をノーコストで展開できる。ちょうど青の5マナ分を確保できてしまうのだ。
 その結果として、《ハリケーン・クロウラー》を召喚し、マナを全てアンタップ状態のものに入れ替えながら必要なパーツをマナから回収。後はフィニッシャーとして《偽りの名 iFomulaX》を召喚し、これを何らかのカードのコストとしてタップし、10枚以上の手札を抱えた状態でエンドフェイズを迎え《偽りの名 iFomulaX》のエクストラウィンを達成するという流れだ。

 私は心の中でシキボロフ選手に土下座していた。すまんシキ君。君のデッキを今から私は私色に染め上げねばならない。これは使命なんだ。すまん。

 なぜ、《蛇手の親分ゴエモンキー!》を使用したロマサイ選手のデッキではなく、シキボロフ選手の青緑ジャックループに着目したのか? と、疑問に思う読者もいるだろう。
 《ベイB ジャック》を使用した【紅蓮ゾルゲ】を組むに当たり、一番気を使うべきは色基盤だ。《偽りの名 ゾルゲ》は青赤緑の3色を持つクリーチャーで、《ベイB ジャック》がいる状態で場に投下すればこの3色のどれかを発生させることが可能だ。だが、マナゾーンに置くときにタップインしなければならないし、緑単で多色を扱うのは色の無駄が発生する。むしろ、2色以上を扱うデッキに投入してこそ真価を発揮すると言える。シキボロフ選手の使用していた青緑ジャックループは《偽りの名 ゾルゲ》の色とも一致する。序盤にマナに置いてしまっても《ハリケーン・クロウラー》で回収すればいいし、状況に応じて好きな色のマナとして使用できるのは多色の強みだ。

 さらに、このデッキは構築次第で全ての領域を取り扱うことができる。マナと山札と手札、バトルゾーンは言わずもがな、墓地、シールド、それすらもケア可能。デュエル・マスターズというゲームにおいて、コンボデッキを組む時はできる限りコンボに必要なパーツを集めておきたい。そういう意味で、どの領域のカードも扱うことができる構築が望ましいのだ。
 墓地であれば《天真妖精 オチャッピィ》がいる。シールドであれば《逆転のオーロラ》や《成長目 ギョウ》がいる。バトルゾーンをマナとして扱う《ベイB ジャック》、マナのカードを回収する《ハリケーン・クロウラー》。ドローエンジンには《ハッスル・キャッスル》や《Dの悪意 ワルスラー研究所》。これらを有機的に絡めることで、全ての領域を支配下に置くことができる。シールドを扱うパーツで今回採用したのは《逆転のオーロラ》だった。序盤は気兼ねなくマナに置けるし、シールドを触る頃にはゲームの決着がつくときだ。自分がカレーパンをキメるか、相手に轢き殺されるかの二者択一である。無論、《ハッスル・キャッスル》の要塞化が間に合っていたり、シールドから《終末の時計 ザ・クロック》や《Rev.タイマン》がめくれれば、この限りではないが。
 その《終末の時計 ザ・クロック》と《Rev.タイマン》は、すでに原型の構築に組み込まれている。《Rev.タイマン》は革命2の条件下で、全てのクリーチャーに対して相手のプレイヤーに向かうアタックを阻害する。もちろん、シールドが3枚以上の場合でも1体のパンプアップと引き換えにプレイヤーへのアタックはできなくなる。防御札としては心強いだろう。
 材料は揃った。此処より先は調理の時間だ。生地をこね、カレーを煮込み、油で揚げる。味見を繰り返し、スパイシーなカレーパンを仕上げる。そのカレーパンを……相手の顔面に叩きつけるのだ。

第2章 取捨選択

 今回のレシピとしては、シキボロフ選手が構築した原型があった。これを紅蓮ゾルゲにコンバートするに当たり、重要なのは「紅蓮ゾルゲに不要なパーツを紅蓮ゾルゲのコアパーツに変換する」ことだ。
 既存のアーキタイプから紅蓮ゾルゲを構築する上で、どのようなパーツがあるかを考える。

 ① 元のギミックに必要不可欠なパーツ
 ② 元のギミックの補助として有用かつ、
   紅蓮ゾルゲの邪魔をしないパーツ
 ③ 元のギミックの補助として有用だが、
   必ずしも入れる必要が無いパーツ
 ④ 元のギミックの補助として有用だが、紅蓮ゾルゲを阻害するパーツ

 上記の番号は、採用優先度の高い順となる。
 では、ここで元のシキボロフ選手のデッキを見てみよう。

4 x アクア忍者 ライヤ
4 x ベイB ジャック
3 x 未来設計図
3 x Rev.タイマン
4 x 終末の時計 ザ・クロック
1 x ワルスラS
1 x 青銅の鎧
1 x 正々堂々 ホルモン
1 x 雪精 ホルデガンス
2 x 天真妖精オチャッピィ
1 x デュエマ・ボーイ ダイキ
2 x ドンドン吸い込むナウ
3 x ハリケーン・クロウラー
1 x 龍素記号 Xf クローチェ・フオーコ
1 x 逆転のオーロラ
2 x ハッスル・キャッスル
4 x Dの悪意 ワルスラー研究所
1 x 偽りの名 iFormulaX
1 x ルナ・コスモビュー

 このレシピから、【ジャックゾルゲ】に不要なパーツを抜いていく。
 まず、レシピの中のカードを分類してみよう。

4 x アクア忍者 ライヤ ①
4 x ベイB ジャック ①
3 x 未来設計図 ②
3 x Rev.タイマン ③
4 x 終末の時計 ザ・クロック ②
1 x ワルスラS ③
1 x 青銅の鎧 ③
1 x 正々堂々 ホルモン ③
1 x 雪精 ホルデガンス ③
2 x 天真妖精オチャッピィ ②
1 x デュエマ・ボーイ ダイキ ③
2 x ドンドン吸い込むナウ ③
3 x ハリケーン・クロウラー ①
1 x 龍素記号 Xf クローチェ・フオーコ ②
1 x 逆転のオーロラ ①
2 x ハッスル・キャッスル ①
4 x Dの悪意 ワルスラー研究所 ①
1 x 偽りの名 iFormulaX ④
1 x ルナ・コスモビュー ①

 今回、素材を活かすために必要なのはまず間違いなくライヤループからの無限ドロー、そして《ハリケーン・クロウラー》でのマナ回収ギミックだ。その意味では、これらのギミックパーツは残す必要がある。
 逆に、今回の勝ち筋は間違いなく紅蓮ゾルゲになるため、《偽りの名 iFomulaX》は真っ先にデッキから抜けていく。
 だが、こうして見るとどうも紅蓮ゾルゲを無理矢理、もとい違和感なく組み込むためには必要なパーツが多い。そこで考えた。
 安定性をトレードオフにして、速度で紅蓮ゾルゲを狙うのはどうだろう?
 思い返せば、バッシュゾルゲは最速4ターンで無限ターンを得ていた。これはつまり、4ターンで事実上紅蓮ゾルゲが成立していたということになる。
 そう考えると、「遅い」パーツをごっそり抜いて、速度を狙った構築に切り替えれば良いのではないか。最速4ターンで完成する紅蓮ゾルゲ。筆者が敬愛する、元「晴れる屋」所属のライター・まつがん氏は、コンボデッキを作成するに当たり、かのクーガー兄貴の言葉を引用しながら「速さ」を追求していた。
 では考えてみよう。「遅い」パーツはこの中にあるのか?
 例えば、《ドンドン吸い込むナウ》。
 パーツを揃える上では非常に有用なカードだ。しかし、4マナ。
 3ターン目に悠長にパーツを探しに行くくらいなら、とっととマナブーストしていつでも無限ドローができる体勢を作ったほうが良いのでは?
 《未来設計図》も同様だ。2ターン目というタイミングでは、むしろマナを伸ばしてしまったほうがいい。
 そこで、これらのパーツをごっそりと抜いた。ついでに《デュエマ・ボーイ ダイキ》も抜けていった。《偽りの名 ゾルゲ》と《ボルバルザーク・エクス》がいる以上、あまり多色を入れたくないのが心情だ。
 《龍素記号 Xf クローチェ・フオーコ》も抜いた。これを投入して時間を稼ぐくらいなら、それを別のパーツに回したい。
 そして、代わりに投入するのが《桜花妖精 ステップル》だ。
 ステップルは、破壊されるとマナゾーンのカードを1枚墓地に置くデメリットこそあるが、2マナで1ブーストが可能かつ、同様の仕事ができる《霞み妖精 ジャスミン》と違い場に残るため《ベイB ジャック》のギミックを活かせるカードとなる。また、コンボを始動する最初の《アクア忍者 ライヤ》で戻すべきカードにもなりうるのだ。
 加えて、《ハッスル・キャッスル》や《Dの悪意 ワルスラー研究所》が場にあれば、1ブーストしながら1ドローできる。何より、マナが最速3ターン目で5マナに届き、4ターン目にはコンボを開始できる。理論上最速値4ターンでの紅蓮ゾルゲ成立も可能となるのだ。
 最速4ターンの紅蓮ゾルゲ。なんと蠱惑的な響きだろうか。マナを伸ばすのが常識と思われていた旧来の紅蓮ゾルゲを裏切る圧倒的速度。高速化する現代デュエルマスターズにおいて、紅蓮ゾルゲもまた速度を手にした。
 「我が眠りについている間に、かの紅蓮ゾルゲが斯様な猛き力を手にしていたか……!」と、古代デュエルマスターズのオーソリティ不亜ザキラ氏も思わず唸ること間違いなしだ。ザキラさんそもそも紅蓮ゾルゲいた頃すでに寝てたとか言う不届き者は鬼流院カレー工房によって速やかにカレーになるだろう。
 こうして、紅蓮ゾルゲの新形態、理論上最速値4ターンのジャックゾルゲが爆誕した。

第3章 レシピ完成

 では、この完成したジャックゾルゲ、レシピをご覧いただこう。

4 x アクア忍者 ライヤ
4 x ベイB ジャック
2 x 偽りの名 ゾルゲ
3 x Rev.タイマン
4 x 終末の時計 ザ・クロック
2 x 天真妖精オチャッピィ
4 x 桜花妖精ステップル
1 x 青銅の鎧
1 x 雪精 ホルデガンス
1 x ボルバルザーク・エクス
1 x 逆転のオーロラ
2 x ハリケーン・クロウラー
3 x ハッスル・キャッスル
4 x Dの悪意 ワルスラー研究所
2 x ルナ・コスモビュー
2 x 超次元ムシャ・ホール

1 x 紅蓮の怒 鬼流院 刃
1 x 遊びだよ!切札一家なう!
1 x 勝利のガイアール・カイザー
1 x 勝利のリュウセイ・カイザー
1 x 勝利のプリンプリン
1 x ヴォルグ・サンダー
1 x ウコン・ピッピー
1 x 時空の司令 コンボイ・トレーラー

 ここまで作ってはたと気がついた。
 これ、最速目指すためにはどういう手札を作ればいいんだ?

1. 初手にステップルが2枚、ジャックが1枚ある、マナにゾルゲかムシャホールを置ける
2. 3ターン目までにワルスラー研究所かハッスル・キャッスルを設置できる
3. 4ターン目までにジャックとライヤを抱え込み、なおかつ青マナを出せる

 えぇと、つまり……。
 理想の初手、めっちゃハードル高くね?

 ……………まぁ、り、理想だから(震え声)
 現実そんなに甘くないって知ってるから(涙声)
 相手が走ってきてもクロックと《Rev.タイマン》でお茶濁せるもん!!!バーカ!!!(慟哭)

 取り乱した。冷静になろう。
 このデッキでは、《超次元ムシャ・ホール》を採用している。
 前回採用していた《激流アパッチ・リザード》はどうしたんだ、という声もあるだろう。それは、ひとえにマナに不安があったからだ。
 このデッキは場も含めた8マナでまず《偽りの名 ゾルゲ》を立てた上で、残ったマナを使用して《紅蓮の怒 鬼流院 刃》を出さなければならない。《激流アパッチ・リザード》を使うならば、アンタップしているカードは14枚、場とマナゾーンに要求される。《超次元ムシャ・ホール》ならば12枚だ。これを担保するための《ボルバルザーク・エクス》や《ハリケーン・クロウラー》であるが、それでもやはり不安だった。大仕掛けである以上、細かいところでは省力化を図りたい。
 《超次元ムシャ・ホール》ならば、4コスト以下のクリーチャーを問答無用で焼き殺しながら《紅蓮の怒 鬼流院 刃》に届かせることができる。例えば《洗脳センノー》や《早撃人形マグナム》、《デスマッチ・ビートル》などを吹き飛ばせるのだ。
 もちろん同様のことは《偽りの名 ゾルゲ》下における《激流 アパッチ・リザード》も可能だ。しかし、《超次元ムシャ・ホール》にできて《激流アパッチ・リザード》にはできない仕事が一つある。そう、先述の踏み倒しメタ軍団の一角、《デスマッチ・ビートル》を、《激流アパッチ・リザード》が倒すことはできない。スタッツが大きすぎるのだ。
 《超次元ムシャ・ホール》ならば、参照するのはコストだ。これならば、《デスマッチ・ビートル》を始末できる。当時は踏み倒しメタとして《デスマッチ・ビートル》が流行しており、万全を期す必要があった。何度かこのデッキを1人回ししたところ、一度誘発効果の連鎖を止める動きも視野に入ってくるのだ。例えば《悠久を統べる者 フォーエバー・プリンセス》が出てきたときなどは、殴り倒すプランへの移行も考えなければならない。そんなとき、こちらの誘発を全て解決すると、《デスマッチ・ビートル》が牙を剥き始める。そうなると、せっかく覚醒して殴り手になった《カレーパン・マスター 切札勝太》が吹き飛ぶし、盾から出てきたクリーチャーを《唯我独尊ガイアール・オレドラゴン》で殴り倒し、そこへ《紅蓮の怒 鬼流院 刃》の効果でクリーチャーを追加するといった動きも不可能になる。リスクは可能な限り減らすべきなのだ。
 とはいえ、一番の理由は「《偽りの名 ゾルゲ》以外のマナコストをできる限り削りたい」の一点に尽きる。《偽りの名 ゾルゲ》が8マナとかなりの大型である以上、他をケチるしか無い。
 そこで、《激流アパッチ・リザード》は今回不採用と相成った。やや呪文メタに対してきつくはなったが、もともと呪文メタがあまり刺さらないデッキなので、これくらいは誤差と見るべきだ。当時の筆者はそう判断した。
 さぁ、後は実践あるのみだ。当時の環境で飛ぶ鳥を落とす勢いの《ベイB ジャック》に、かつてのプレミアム超次元殿堂コンビという悪夢のコラボレーション。その流れるような芸術に酔いしれるのだ。

第3章 実戦

 ではここで、いくつかの試合をピックアップしてみよう。
――Case1 vsトリーヴァゼニス
 
序盤、こちらが《桜風妖精ステップル》でマナを伸ばすと、相手は《ラブ・エルフィン》を召喚。呪文のコストを1少なくするカードだ。あれを放置しておくとろくな事にならないのは目に見えている。5マナのタイミングで《超次元ムシャ・ホール》で始末しておく。ついでに《勝利のリュウセイ・カイザー》を着地させて次のマナをタップインさせる。これはかなり痛いはずだ。
 相手は案の定アクションを起こさなかった。ここぞとばかりにD2フィールド《Dの悪意 ワルスラー研究所》を配置し、《ベイB ジャック》を投下する。
 しかし、次のターン、現れたのは《超次元フェアリー・ホール》からの《勝利のガイアール・カイザー》、殴りかかると同時に革命チェンジにより《百族の長 プチョヘンザ》が降臨する
 非常にマズイことになった。奴が来てしまうと使用マナこそ大幅に増えるが、《アクア忍者 ライヤ》をアンタップ状態で召喚することができないため、コンボが崩壊する
 やむをえず、こちらはマナと手札を伸ばすことに注力する。《天真妖精オチャッピィ》を使用してマナを、青マナをすべて使い切って《アクア忍者 ライヤ》で手札を一気に増やす。ハンデス系統は黒マナが見当たらないことから、警戒は不要。大量に手札を抱え込みながら、マナを9マナまで伸ばす。さらに、相手のマナが7だったことから、抱え込んだ《ベイB ジャック》を再投入しつつ、《ルナ・コスモビュー》をアンタップ状態で召喚させる。少なくとも、《アクア忍者 ライヤ》を横展開させることだけは可能だ。
 2枚の《ルナ・コスモビュー》、4枚の《アクア忍者 ライヤ》が並び、さらにおまけとばかりに《桜風妖精ステップル》や《天真妖精オチャッピィ》が並ぶ。これだけのクリーチャーがいれば、次のターンマナに吹き飛ばされても問題はないし、相手がそのまま盾に殴りかかってくれば《ベイB ジャック》で一気にコンボを回せる。1体除去されようとも十分コンボは始動する。
 この段階で、相手にマナ送り以外の全体除去手段がない場合、詰みの状況まで持っていった。それを知らずしてか、相手は1体の除去にのみ留める。対象は《ベイB ジャック》だ。
 もちろん、替えの《ベイB ジャック》は手札にある。次のターン、ようやくアンタップを許された自分のクリーチャー達は、新たに投下された3枚目の《ベイB ジャック》の力によって、《偽りの名 ゾルゲ》と《紅蓮の怒 鬼流院 刃》を着地させるためのマナコストとなり、相手のデッキは《ヴォルグ・サンダー》によって全て刈り取られたのであった。

――Case2 vs黒単ドラグナー(デュエにゃん皇帝型)
 対戦相手の次元を確認して、思わず「ヒエッ」という声が漏れた
 《龍芭扇 ファンパイ》に《滅殺刃 ゴー・トゥ・ヘル》。この2枚の並びを見るだけで、このデッキが8割方《デュエにゃん皇帝》を使用した無限ループデッキというのは明々白々。
 やることは唯一つ。相手より先にぶん回すしか無い。
 序盤から《ベイB ジャック》を投下する強気のプレイング。対する相手もこちらがジャックループと気付いたか、最初に投下した《強襲のボンスラー》を即座に《デュエにゃん皇帝》に侵略させ、相討ちによる除去を行う。
 だが、一見相討ちでもボードアドバンテージはあちら側にある。《デュエにゃん皇帝》は破壊されたとき、下に置かれていたファンキー・ナイトメアを蘇生できるのだ。再び召喚される《強襲のボンスラー》。こちらがコンボを起爆するのは最速2ターン後と踏んだ相手は勝負に出た。《ボーンおどり・チャージャー》を打ち込んだかと思うと、ループをかなぐり捨て、《強襲のボンスラー》を再度侵略。ダブルブレイクを噛ませながら、《強襲のボンスラー》と《デュエにゃん皇帝》の登場時効果で下に仕込んだ《オタカラ・アッタカラ》を場に並べる。一気に盾を2枚削られ、後がない。しかも、こちらは早期に着地させた《ベイB ジャック》以降、2枚目以降の《ベイB ジャック》を引けていない。《デュエにゃん皇帝》を除去に使用した上、そのままビートダウンに走ってくるのは想定外だった。見積もりが非常に甘かったと言わざるを得ない。
 できることはやろう、ということで、投下していた《Dの悪意 ワルスラー研究所》を使用し、《桜風妖精ステップル》や《アクア忍者 ライヤ》を駆使してデッキを掘っていく。
 次のターン、相手はついに致死打点を揃えた。《盗掘人形モールス》がG・ゼロを行使して投下され、《デュエにゃん皇帝》が回収される。そのまま通常通りのマナを支払い進化。合計4打点、このままではトドメを刺される。 
 《デュエにゃん皇帝》が、《強襲のボンスラー》が、《オタカラ・アッタカラ》が、こちらを亡きものにせんと襲いかかろうとする、が……。

 残り3枚のシールドから登場したのは《終末の時計 ザ・クロック》。さらに、付随してブレイクされたシールドの中に、《ベイB ジャック》が眠っていた。突如舞い込んできた勝利への福音。《終末の時計 ザ・クロック》の前では、殺意に満ちたファンキー・ナイトメアたちも、足を止めざるを得なかった。
 次のターン、バトルゾーンに《ベイB ジャック》を投入。これを皮切りにコンボが動き出し、《アクア忍者 ライヤ》の力で《Dの悪意 ワルスラー研究所》がドローエンジンと化す。みるみるうちに手札は増え、《偽りの名 ゾルゲ》が、《超次元ムシャ・ホール》が、《ボルバルザーク・エクス》が手札に舞い込む。
 そして、決壊のときが訪れた。《ハリケーン・クロウラー》によって一度タップされたマナがロンダリングされ、息を吹き返す。そこへ現れる《偽りの名 ゾルゲ》。《ボルバルザーク・エクス》が再びマナを叩き起こし、手札から《超次元ムシャ・ホール》が射出される。
 相手はその瞬間、このあと起こることをすべて悟った。デッキトップに手を置き、投了を宣言した。

──Case3 vs青黒ハンデス
 初動から実に不利な展開となったこの対面。2ターン目から《桜風妖精ステップル》でマナを伸ばそうとするが、そこに合わせるように《特攻人形ジェニー》、《ブレイン・タッチ》が手札をもぎ取っていく。見る見るうちに墓地へと叩き込まれる《アクア忍者 ライヤ》、《ベイB ジャック》。
 ならば相手に落とされる前に、と引いてきた2枚目の《ベイB ジャック》を投下する。パーツさえデッキから持ってくればいつでもコンボを起爆できる状態だ。しかし、《ベイB ジャック》はタップして出るため、5マナ溜まったタイミングで《超次元ミカド・ホール》から飛び出してきた《時空の凶兵ブラック・ガンヴィート》の登場時効果によって葬り去られてしまう。
 ……ん? 今《超次元ミカド・ホール》出したなこの対戦相手?
 するとパワーマイナス2000を投げつけられたのは……?

 当然《桜風妖精ステップル》である。せっかくのマナも吹き飛ばされた。

 というか、このアーキタイプに対してだけは最速すら目指させてもらえない。ただでさえ手札の質が求められるのに、それを軽量ハンデスの連打で容赦なく刈り取られ、《桜風妖精ステップル》でマナを伸ばそうにも、先述の《超次元ミカド・ホール》や《デモンズ・ライト》が台無しにしてくる。
 しかも超次元ゾーンから飛び出してくるのは、こちらの《桜風妖精ステップル》を吹き飛ばす《勝利のガイアール・カイザー》や《サンダー・ティーガー》、マナをタップインさせてコンボを阻害する《勝利のリュウセイ・カイザー》、先述の通りタップしている《ベイB ジャック》を葬る《時空の凶兵ブラック・ガンヴィート》……。
 そう、相手の足を引っ張るどころか、投入されているカードのほぼ全てが何かしらこちらの戦術に致命的な影響を与えてくる
 はっきり言ってアーキタイプ自体が鬼門。「ぶっ刺さっている」のだ。
 つまり……私の取るべき手段は唯一つだ。
 数ターン、諦めずにプレイを続けたが、4枚目の《アクア忍者 ライヤ》が墓地に埋葬された段階で──。

「もう勘弁してつかぁさい」

 両掌を卓上に広げて置き、額をその中央につける所作。
 困った時の最強の戦術
 DOGEZAである。

第4章 Dies Irae

 2018年現在、この構築の完全再現は不可能である。
 コアパーツである《ベイB ジャック》が2018年3月を以てプレミアム殿堂指定。緑単ゴエモンキーやジャックライヤループ、白緑メタリカ、ズンドコピエロなど数多くのコンボデッキの中核を担っていたこのカードは、ソリティアを助長するとしてついに堕胎を告知された
 巷では忌み子とまで言われたこのカード。だが、思い出して欲しい。かつて、史上初のプレミアム殿堂に指定された、メタゲームにピリオドを打った1体の竜がいたことを。このデッキにはその末裔が投入されている。
 そして、背景ストーリーの敵味方を超越した絆によって天下を取った両雄、彼らもまた、一時はその絆をプレミアム超次元殿堂コンビの名のもとに引き裂かれていた。このデッキにはその両雄が並び立っている。
 《ボルバルザーク・エクス》、《偽りの名 ゾルゲ》、《紅蓮の怒 鬼流院 刃》。3体の英雄は、このデッキにおいてしっかりと見届けていたのだ。
 忌み子《ベイB ジャック》、その短すぎた生涯の中で刻まれた鮮烈過ぎる生き様を。少なくとも彼らにとっては、祝福されし子だったのである。
 最後に、先日雑誌付録によって再録されたプロモーションカード版の《ベイB ジャック》のフレーバーテキストを掲載することで、本文の結びとしたい。

 「私達にとっては、この子がプレミアム」

──To Be Continued...

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