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「スターゲート」計画、大きな野心と乏しい具体性Stargate AI: Big on Ambition, Light on Details最大の疑問は資金源にある

4年間に5000億ドルの投資を計画


テクノロジー業界のリーダーらが先週、ホワイトハウスに集まり、米国内に新たな人工知能(AI)データセンターを建設することを目指す野心的な共同事業「スターゲート・プロジェクト」を発表した。同プロジェクトは初年度に1000億ドル、4年間で5000億ドルの投資を計画している。

しかし、その詳細は依然として不透明なままだ。

ソフトバンクグループ<9984><SFTBY>の孫正義会長兼社長が資金調達を担当、オープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)がAI全般の専門知識を提供、企業向けソフトウエア大手のオラクル<ORCL>のラリー・エリソン会長が建設計画を指揮する。3人は、1月21日に行われたスターゲート発表会で、トランプ大統領と共に登壇した。

アラブ首長国連邦(UAE)政府とつながりのある新興AI投資会社MGXも、資金面のパートナーとして参加する。さらに、マイクロソフト<MSFT>や米半導体大手エヌビディア<NVDA>、ソフトバンク傘下で英半導体設計大手のアーム・ホールディングス<ARM>が技術パートナーとして名を連ねている。

しかし、プロジェクトについては多くの疑問が残されているが、最大の疑問は資金がどこから調達されるかだ。ソフトバンクは約380億ドルの現金と短期投資を帳簿に計上しているが、長期債務は800億ドルに上る。一方、ソフトバンクが保有するアーム株の評価額は1月22日時点で1400億ドルを超えており、スターゲートに資金を提供するために株式を売却する可能性もある。

本誌の取材に対し、ソフトバンクはスターゲートの資金源についてコメントを控えた。エヌビディアとアームはプロジェクトに通常の支援をすると答えたが、パートナーシップにおけるそれぞれの役割の詳細は明かしていない。オープンAIが発表したプレスリリースも資金調達の詳細には触れていない。

一方、実業家のイーロン・マスク氏は同プロジェクトに早速、疑問を投げかけた。トランプ大統領の盟友であるマスク氏はX(旧ツイッター)に、「彼らには実際に資金がない。ソフトバンクが確保している資金は100億ドルにも満たない、と確かな筋から聞いている」と投稿した。

オープンAIのアルトマンCEOはXでマスク氏に対し、「あなたも当然知っている通り、それは間違いだ。これは国のためになることだ。国にとって素晴らしいものがあなたの会社にとって常に好ましい訳ではない」と反論した。


Andrew Harnik/Getty Images

マイクロソフトの年間設備投資額を超える資金

アームのCEOであるレネ・ハース氏は1月22日、資金調達の詳細については言及しなかったが、CNBCの取材に対して「昨日見たメンバーや大統領が、このような発表を共に行ったということは、財政的な裏付けが相当あるのだろう」と述べた。

資金調達に関する議論と疑問は、支出の重要性やAIモデルの構築と展開の複雑さ、そしてそれを支えるインフラの必要性を浮き彫りにしている。

スターゲートが提案する規模感を理解するには、マイクロソフトが格好の比較対象となる。マイクロソフトは2025年6月期に、800億ドルの設備投資を計画している。2024年度比で80%増(2024年度は2023年度比で58%増)だ。一方、スターゲートはゼロから始めて初年度に1000億ドルを目指している。この額はマイクロソフトが予定する設備投資額を25%上回る。それも1年間で。マイクロソフトが年間730億ドルのフリーキャッシュフローを創出しているのに対し、スターゲートには現在収益源がないことを考えると、非常に大きな目標と言える。

マイクロソフト、エヌビディア、アームは運営資金に関する議論から外れており、3社が財務面で寄与することはなさそうだ。マイクロソフトはこれまでオープンAIの最大の投資家であり、クラウドコンピューティングプラットフォームのAzure(アジュール)はオープンAIの象徴的サービス「チャットGPT」の基盤となっている。今回の新たな動きからは、マイクロソフトとオープンAIのAI分野での野心がさらに大きくなっていることがうかがえる。

オープンAIとマイクロソフトの関係に亀裂か

UBSのアナリスト、カール・ケアステッド氏は顧客向けのメモで、「スターゲートに関するニュースはマイクロソフト1社に押し付けられたものではなく、むしろマイクロソフト自体が、オープンAIの資金調達を独占的に担うことは、リスクと資本配分の観点で合理的ではないと判断した可能性がある。言い換えれば、オープンAIの余りに大胆な野心と、それを単独で支えようとするマイクロソフトの願望とが衝突している可能性がある」と記した。

マイクロソフトは1月21日のブログ投稿でスターゲートに簡単に触れた後、オープンAIとの緊密な関係を再定義した。2030年までの契約の大部分は維持されるものの、新たなオープンAIコンピューティング需要に対するAzureの独占権は失われる。ただし、新たなクラウド事業に関する優先交渉権は引き続き保持している。

両社のパートナーシップは続いているものの、その関係には亀裂が生じている。そして、その影響はテクノロジー業界全体に広がる可能性がある。

原文 By Adam Levine
(Source: Dow Jones)
翻訳 エグゼトラスト株式会社

この記事は「バロンズ・ダイジェスト」で公開されている無料記事を転載したものです。