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余白

貴方が大事な曲に付けた
題名は「ひかり」
新しい命や消える存在が
この世に少し留まる時に
ぱちりと放つ光を歌った

スマートウォッチに支配された
健康第一主義のマンションの各階で
馬の首が階段にぶら下がっている
妖怪の名は「さがり」
国語の先生が見たって言ってた
嘘をつかない人だったよ
九州での話だった

禍ツ神を遠ざけるように
頭の中を白く駄目にして
水中から伸びる手を掴む

昔飼っていた猫が今も居る夢
名前を思い出した途端醒めてしまった
私はいつか再び出会うことを信じて
貴方が大事な曲に付けた
その題名を真似た「ひかり」という猫
鍵盤を踏む様な声で鳴く

目の前に居る空気を読み過ぎる
妖の名は「さとり」
複雑な幾何学模様を思い浮かべて
本当の感情を見せないようにする
ただいつも通りにやり過ごす
また机に顔を突っ伏して過ごす
相槌のやり取りを返す刀で斬りつける
私の名前を読み取って捨てて

だからこそ未だに浮かばれない
満足をする事のない心労苦者
一刻この胸が軽くなる貴方の曲を流そう
途中から上がる半音は
果物になる前の花の匂い
曖昧模糊を蹴散らしていく
太陽に近い光

余白を作るから妖が生まれ
余白がないからつまらない
「ひかり」
その間に在るものを一瞬照らす


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