どこかで誰かが暮らしてる

その街は、世界のどこかにある知らない誰かの街だった。

街に暮らしていると、少しずつ景色がはっきりしてくる。身体が街に馴染んでいく。街の構成要素のひとつになり、街に流れる時間のひとつになる。知らない誰かのひとりになる。

特別が普通になって、日常が早回しで過ぎてゆく。

いまでもまだ街は当たり前にそこにあるのに、日常は非日常に、現実は夢みたいになって、僕はすっかりよそ者になった。

よそ者の気後れを感じながら、いつもその街のことを考える。

そこには何もなかったけれど、必要なすべてがあった。あんなに嫌いだった街がいまでは恋しくてたまらない。

結局はいまだから思うこと。

ひととき僕の街だった街に、いまも誰かが暮らしてる。

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