Blue color job 白亜の悪夢
日本語 連載 その4
2002年 僕は加州で平凡な労働者だった。
DGMCでの日曜日のオンコール業務を終え、ゆうぐれどきのトラビス空軍基地内の周回道路をセキュリティゲートに向かって徐行スピードで進むフォードのフロントガラスを通して、ライトブルースカイに散らばる夕闇に満点の星々が輝き始めている。
仕事を終えた同僚のメキシコ系アメリカ人のピックアップトラックのテールライトを遠目に見ながら追従するように僕はフォードを走らせつつ、昼間の出来事を思い返していた。
日曜日のDGMCは外来がないので極めて静かに時が流れる。そんな時は仕事もゆっくりでき、僕は北側ICUセクションの回廊のフロアクリーン業務に当たりながら、巨大ウインドウから外の光景を眺めるのが好きだった。
トラビス空軍基地から飛び立つ軍用機が旋回しながら飛び立っていく勇姿が素晴らしかった。
今日もそんな光景をぼーっつと楽しんでいるとICUの勢いよく開き、顔見知りのドクターが出てきて、僕の姿を見つけるとピエロのように大袈裟に腕を広げながら近づいてきた。
身長が低くまるで本当のピエロ、腰も低くいつでも愛想がいい。しかし今日は金髪をかきむしり、頭をかかえたりしている。
「見ちゃったよ、俺は今ね。偶然、仮眠室の窓を見ていたら人が落ちていくのを。あーなんてことだ。最悪だ!君さ、下行って様子見てきてくれないか。俺はICU離れられないから行けないんだ。おーなんていう日曜日になったんだ。勘弁してくれよ。」
彼の癖で喋り出したら止まらない。僕は見てくると言って業務用エレベーターで下へ向かった。
1階にいくと転落現場と思われる吹き抜けの中庭には人だかりと、ERユニットが到着しており、静かな混乱が起きていた。
ぼくは現場近くで見物していた同僚のサムに声かけ、なにが起きたのか聞いてみた。
髭面の巨漢のサムは振り返ると、なにやらいやらしげな笑顔を作ると声高らかに言い出した。
「日曜日にしては一番のショウタイムだった。無料で見られるなんて俺はついているよ。若いのが屋上からダイブさ。」と僕の腕をゲンコツで軽く叩きながら 「ランチタイムだから俺はいくよ。」ランチの方が大事だと言わんばかりに離れるサムは、鈍感な男だが、皮肉を言わせたら天才的、なぜか憎めない同僚だった。
白亜の先端医療の要塞で、白昼夢のごときこの出来事は、僕にアメリカの病んだ部分を見せられた。
20代の兵士、イラク帰りか、なぜ飛び降りたのか、最先端医療のそろうメディカルセンターで彼は何に絶望したのだろうか。
思いを巡らせるうち、僕の車はセキュリティゲートを通過し、エアーベースパークウェイに出た。
途中左折しピーボディロードを北上するとカルフォルニア州立刑務所 ソラーノが右手に見えてくる。
そうここはなんでもあり得るパンドーラの国アメリカ、この国にいると1秒1秒ごとに体内に熱い血が巡るのを感じる。
さあ帰ってから愛犬の散歩に近くの公園へ出かけよう、と僕は考えを切り替えた。