![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/50339089/rectangle_large_type_2_4df0e7a332a3047548dcfb2100499f5f.jpg?width=1200)
シン・エヴァンゲリオンを観て思い出したこと。
シン・エヴァンゲリオンを観て、ある友だちを思いだした。
仮にA君としておく。
A君とは、大学時代バイトをしていたファミリーレストランで知り合った。
90年代の半ばだから、もう25年くらい前になる。
そうだ、エヴァンゲリオンのテレビ版が始まったころのことだ。
A君も僕も、大学の4回生だった。
同じく厨房配属で、大学こそ違うが同回生ということもあって、暑い厨房の中、共に汗流しながら、安い時給に愚痴たらしながら、それでも楽しく働いていた。
バイト以外で会うことはなかったが、バイト中に軽口を叩き合うくらいには、打ち解けていた友人だった。
所詮、大学生のバイト。
大学の課題が忙しかったり、クラブの遠征が入ったりで、僕自身、何週間もバイトに行かない期間があり、だから、あまり気にもとめていなかったのだけど、A君はずーっとバイトを休んでいたようだ。
ある日、約一月ぶりにバイトに復帰したというA君と出会い、久しぶりー!っと声をかけたのだった。
「やっぱ、君も覚えてないんだ」
まず、返ってきた言葉はコレでした。
え?!
「一緒に戦ったこと…やっぱ、覚えてないんだ…」
はい?!
それから、ハンバーグを焼きながら、テンプラを揚げながら、A君は朗々と話し続けた。
A君の話はこうだ。
ある日、宇宙から飛来した、邪悪な存在との戦いが始まった。
強大な力を持つ邪悪の軍団。
なすすべもなく倒れていく人類。
しかし、A君を中心に、立ち上がった英雄たちがいた。
それがA君とともに働いていた、このファミリーレストランのバイトメンバーたちだったのだ。
そう、我らファミレス・バイターは、選ばれた人類であったのだ。
熾烈を極める邪悪な存在との戦い。
その中で、一人、また一人と倒れていくバイターたち。
最後に残ったのは、A君一人であった。
世界が暗黒に覆われようとした、その時、A君に異変が起こった。
覚醒である。
戦いで傷ついたA君の身体。
その内側から溢れ出るエナジー。
ぼろぼろの身体を突き破る目も眩まんばかりの光。
羽化する蝶のように。
孵化する小鳥のように。
人類を超越する存在へと、彼は進化した。
戦いは一瞬にしてクライマックスを迎える。
A君は、身につけた膨大なエナジーを放出させ、邪悪な存在を葬り去った。
後に残されたのは、傷ついた大地と、A君ただ一人だった。
そして、A君は戦いの中で身につけたエナジーを使って、もう一度、我々の住むこの世界を作り上げたのだった。
「…というわけで、この世界は、僕が作ったんだ。」
じょわー。
じょわー。
はっと気がつくと、ハンバーグが焦げている。
A君の話に気を取られていたのだ。
「あの戦い、やっぱ覚えてない?
ま、僕も、あんまり過酷な戦いだったこともあって
記憶を封印しててさぁ。
思いだしたのは、こないだなんだけどね。」
エビとホタテのドリアをオーブンに入れながら、A君は言う。
「君も、すんごく、がんばってたんだけどなぁ。」
チキンの竜田揚げを作りながら、はぁ、と答えた。
宇宙規模の邪悪な存在。
立ち向かうファミレスの店員(時給650円当時)。
両者のコントラストが鮮やかすぎて、くらくらしながら料理したことを覚えている。
そして、その後、A君はバイトを去る。
A君がバイトに現れなくなってから、下宿先と連絡がとれなくなったA君の親から、何度か店に連絡があったそうだ。
「就職氷河期」という言葉が、流行語大賞を取ったのが1994年だ。
僕ら、就職氷河期世代のメインストリームになっちゃったのだ。
全く望んでもいないのにね。
A君、就職活動がうまくいかなかったのかなぁ。
今は、どうしてるかなぁ。
元気でいることを祈ってる。
ともに戦った者の一人として。