ヤツがやってきた

　もともと代謝が良くて暑がりで汗かき。特に恥ずかしいくらい顔から汗が流れる体質。昔から夏場はメイクをしてもすぐ汗で流れてしまうのがとても嫌だった。だからといって夏が嫌いなわけではなかったけど、丁寧に塗ったマスカラもアイシャドウもすぐに汗でパンダの目元になるから、しょっちゅう鏡をみて目元をハンカチでそっと拭う。やっぱり夏は嫌いかも。こんな体質じゃ女優になれないと、汗止め方法をネット検索したり、美容整形外科のサイトを真剣に眺めて、もしドラマの出演が決まったら何を買うか、どこに行くかを真剣に考えていた。まぁドラマの出演なんてないんだけど。

　クソ暑い昼下がり、ようやくやってきた電車に乗り込み、空いてる席をすばやく見つけて良く効いたエアコンの車輛で一息つく。顔中に流れた汗を拭きとると、タオルハンカチにはアイシャドウやファンデーションの色がべっとりとついてて毎回げんなりする。ふと横を見ると、アイラインが美しい韓国風のメイクを施した若い女性が涼し気に座っている。
　汗腺はどうなってるのかしら？
私は不思議さと羨ましさが混ざりあった気持ちで、その美しい肌をうっとりと眺めてしまう。
　毎年夏はそんなふう。

　コロナ禍になってからほとんどメイクをしなくなった。マスクをしている息苦しさは辛いけど、汗が流れてもマスクでとりあえず隠れるから、まぁプラマイゼロか。アイシャドウもアイラインも入れないから目の下がパンダになることもないし、ぬぐったタオルハンカチにファンデーションがべっとりということもなくなった。これもまたヨシとしておこう。ただもうマスクを外して人前に顔をさらけ出すことはできないけど。

　けれどそれも今年から様子が変わってきた。

　介護で実家にいる時、私は居候なので室温は家族に合わせている。基本年寄りは暑さに鈍いので、自宅より室温高めで設定している。暑がりを知っている母が私に気を使い、温度を下げてくれた時は明らかに寒そうにするのでこちらとしても気が引けるし、風邪をひかれてもやっかいだ。扇風機を抱きかかえるように独り占めして涼をとる。

　そうこうしているうちに真夏の暑い時期が過ぎて、過ごしやすい時期になってきた。私だって涼しいんだ。エアコンもいらないし、扇風機の風にずっとさらされていると冷えてくる。それなのに、ふとした時にふわっと暑くなり、顔から一筋の汗が流れるんだ。

　ムムム。もしや、もしや、これはヤツの仕業か？
とうとう私にもヤツがやってきたのか？ネットで「更年期障害の症状」を調べてみるとまさしくその通りだった。

　「更年期障害、ようやく抜けてきたよ」という先輩に症状を伝えると、
「あら、かなちゃんにもとうとうやってきたのね~。これ不快よね~」
と体験談を交えながら、いろいろと教えてもらう。
あ~、これから5年はお付き合いしていかないといけないのか。
未知の世界、まだまだあるんだな。ふー。（溜息）