エマニュエル・トッドの作られ方
『エマニュエル・トッドの思考地図』(エマニュエル・トッド、筑摩書房、2020年12月)読了。
自分の中では、生きている知識人としてその意見、考えに常に注目し続けている人である。(この傾向は本国フランス以上に日本の方が強い気がする。)そのトッドの日本だけで発売される口述筆記による本人によるこれまでの軌跡を振り返り、自身の思考のベース部分をたどっていく本である。舞台裏を明かすような、珍しいというかほぼなかったパターンである。安易っちゃ、安易な本であるが、そこはトッドだけに語りは深い。
トッド語録として興味深かった部分
機能不全に注目する(P35〜)
社会を考えるためには、機能不全や一見関係のないもののつながりに気づくことが何よりも大切です。
洞察力に求められることは、正常でないことを認めることです。(P98)
真にオリジナルなアイディアというのは、人々に衝撃を与え、社会を揺さぶるようなものでなかればなりません。そしてじつは、社会自体も斬新なアイディアに揺さぶられることによって活性化していくのです。それがなければ、社会はやせ衰えていく一方でしょう。(P102)
ポスト・コロナの世界というのは、それ以前にすでに存在していた傾向が再確認され、それが加速していくことになるでしょう。(中略) 私の仮説というのは、何も変わらないだろうということです。もっと言えば、いろいろなことがより明確になり、強まるだろうというだけです。(P223)
不平等の広がりという傾向もすでに始まっているものです。もちろんこれらのさまざまな現象の深刻化を「変化」として捉えることにも正当性はあると思います。具体例を出してみましょう。革命のプロセスを見てみます。ロシア革命を例に挙げてみると、まず社会的な緊迫感が強まり、革命派たちが台頭してきます。そして、第一次世界大戦の敗北があり、この敗北がそのころのロシアの支配者層の正統性を破壊するのです。つまり、第一次世界大戦の敗北なしにロシア革命はありえないということが見えてきます。ポスト・コロナでも、もしかしたらこのような敗北が訪れるかもしれないのです。
フランスのような国は、このコロナ危機で公衆衛生の分野では敗北したのです。ですから、フランスの支配階級は本当に馬鹿げた状態に陥っています。フランスはいまや、後進国に医療機器を物乞いするかたちになり、完全に屈辱的な状態に陥っているのです。ですから支配階級は名誉を失った状態です。そういう意味では、すでに始まっている階級闘争という現象がさらに強まり、次のフェーズ、つまり内戦と呼べる状況へと移行する可能性すらあります。これは新しい現象と見ることもできますが、ある意味で、いま見られる傾向が最も先鋭化したかたちでもあるのです。これまでの傾向の強化というわけですが、質的な飛躍が起きるわけです。エリート層に対する復讐心が、これまで見たこともない強さでフランス全土に広がるわけです。(P225〜)
目次
序章 思考の出発点
1:入力 脳をデータバンク化せよ
2:対象 社会とは人間である
3:創造 着想は事実から生まれる
4:視点 ルーティンの外に出る
5:分析 現実をどう切り取るか
6:出力 書くことと話すこと
7:倫理 批判にどう対峙するか
8:未来 予測とは芸術的な行為である