具体的提案がちゃんとある山口周の本
『ビジネスの未来 ーエコノミーにヒューマニティを取り戻すー』(山口周、プレジデント社、2020年12月)読了。
未来予測というより提言、提案の本である。300ページちょっとあるが、結局、この本で伝えたいことは第三章と補論とみた。全体として、とても整理され、構築的な構成になっていて読みやすい。突飛なことは少しも言っておらず、だからこそ、腑に落ちること多かった。(聞いたこともない突飛さだと理解できないはず)
前段で、GDPを指標として社会の健康診断をすれば、無限の経済拡大に照準があっている以上、不健康な社会と映るが「実際はそうじゃない」と気づくべきだし、新しい指標が必要だと説いている。
「未来のためにいまを犠牲にする」という手段主義的=インストルメンタルな思考・行動様式から、「永遠に循環する”いま”を豊かに瑞々しく生ききる」という自己充足的=コンサマトリーな思考・行動様式への転換が必要(P22 初出)
と説く。インストルメンタルとかコンサマトリーとか使い慣れていないヨコモジだが、これをよい機会にして自分の思考に組み込もうと思う。
そこから、ではどう実現するか?というパートに移り「社会基盤のアップデートが必要だ」と説いている。ここでも抽象論でなく具体に
イニシアチブ1:真にやりたいコトを見つけ、取り組む
イニシアチブ2:真に応援したいモノ・コトにお金を使う
イニシアチブ3:ユニバーサル・ベーシック・インカムの導入
補論1:社会構想会議の設立
補論2:ソーシャル・バランス・スコアカードの導入
補論3:租税率の見直し
補論4:教育システムの再設計
に落とし込んで説いている。イニシアチブ2は佐久間さんが『Weの市民革命』の中で「消費はアクティビズムになった」や「自分ごとのサステイナビリティ」で同じことを言っていた。補論3の税の問題もハーマン・デイリーさんが『「定常経済」は可能だ!』の政策提言③で同じようなことを言及されている。・・・いろいろ繋がっていくなぁ。
イニシアチブ1をさらに詳しく分け入ると
1:社会的課題の解決(ソーシャルイノベーションの実現)
経済合理性曲線の外側にある未解決の問題を解く
2:文化的価値の創出(カルチュラルクリエーションの実践)
高原社会を「生きるに値する社会」にするモノ・コトを生み出す (P190)
「小さく、近く、美しく」のバリューサイクルへの転換
あと、これが実現すれば、またひとつ社会が面白くなるのでは?と思ったのが
高負担率の税制を寄付による税控除の仕組みと組み合わせることで「贈与の文化」を生み出す(P291)
はじめにと帯裏にあるサマリーをつけている。とても親切である。
1:私たちの社会は、明るく開けた「高原社会」へと軟着陸しつつある
2:高原社会での課題は「エコノミーにヒューマニティを回復させる」こと
3:実現のカギとなるのが「人間性に根ざした衝動」に基づいた労働と消費
4:実現のためには教育・福祉・税制等の社会基盤のアップデートが求められる
目次
はじめに
第一章 私たちはどこにいるのか?
第二章 私たちはどこへ向かうのか?
第三章 私たちは何をするのか?
補論
おわりに