父記録 2023/7/16【もう一度、】
母はお休み。
7/13、私がお休みでひとりで面会に行った母から
「お父さん、『もう一度…』って言うのよ。もう一度、もう一度、なにしたいの?
あたしはもう一度、大学通りを犬、一匹でいいから連れてさ二人で散歩したいな。
もう一度、お店に行きたい?家に帰りたい?
ってお母さん色々訊いたんだけどお父さん、『もう一度…もう一度、』って。なんだか分からなかった。」
と電話があった。
私からも、訊いてみる。
「お父さーん。ね、もう一度、もう一度、何したい?」
「大学通り歩きたい?犬散歩したい?店で仕事したい?…うちに帰りたい?」
「もういちど」
「もう一度?…何か、たべたい?」
こくり
「…お…おいし…い」
「おいしいもの、食べたい?」
こくり
「そうだよね、食べたいね。少しゴロゴロが良くなったらさ、おいしいジュースとか、おつゆとか…お汁粉とか!舐めようね」
父はこの頃、目をすごくじっと見てくる。
澄んだ目で、まっすぐに見てくる。
「お父さんの目は朋未ちゃんの目とおんなじだね。まっすぐじっと見てくる。」
昔、演出家の羊屋さんに言われたことを思い出した。
父が何か呟いている。
「し…あわ…(せ?)」
「ありが…(と?)」
分からない。自分の都合のいいように解釈しているのかもしれない。
帰り際、看護師さんが声をかけてくださった。
「今日はね、『おはよう』って言ってくださいました。『苦しくないですかー?』って訊いたら『苦しくないよ』って」
「そうですか、ありがとうございます。
あの、父がこないだから『もう一度、もう一度、』って言うんです。」
「もう一度」
「はい。もう一度なんだろう、と思って今日何度も訊いてみたんですが、どうも『もう一度おいしいもの食べたい』みたいです。」
「そうなんですね、じゃあ、また何か舐めたり出来るように先生にも相談してみましょうね」
ありがとうございます、と病院を出る。
猛暑だ。
もう一度、もう一度、