父記録 2023/7/17【なちゅやしゅみアルバム】
「わーわーわー!うるさい?うるさいでしょ、うるさいあたしがうるさくしに来たわよーとっちゃえとっちゃえー」
母が元気よく声をかけたかと思うとおもむろに父のアームカバーを外し始めた。
返す刀で蒸しタオル。父の頭ぐいぐいと拭く。
「乱暴でしょ?乱暴で鳴らした由美子さんだからね!」
父はされるがままになっている。由美子さんの夫歴半世紀超だからな。
ガンバお父さん、私は足を拭くよ。
「『乱暴だなあお前は。朋ちゃんみたいに優しく出来ないのか〜?』って思ってるでしょ。出来ないのよ〜」
父の足指や甲や足首を骨と皮の隙間を空けるように軽く揺する。リンパの流れが良くなるんだそうだ。ヨガの先生に教わった。
「孝行娘だなあー!」
母が笑った。
「アルバムを持って来たんだよ。お母さんに選んでもらおうと思って。」
大きなバッグから分厚くてぼろぼろのアルバムを二冊、取り出して母の前に広げた。
私の子どもの頃の写真だ。
そこには真っ黒に日焼けした私たちがいた。
「ほらこれ、小笠原だよ。ジョンもいるよ。」
「あら、どれどれ見せて」
母が老眼鏡をかけて覗き込んだ。
ジョン。
小学一年生の時、初めての長期家族旅行に行った小笠原で泊まった民宿の犬。
私たちに懐いて、1か月の滞在の間毎日のようについて来て一緒に夏休みを過ごした。
海遊びからの帰り道、スコールに打たれながら歩いてたら通りがかった車がジョン共々乗せてくれて、「ああ、ジョンがいるからあそこの民宿だね」って送って行ってくれたりした。私は「ジョンがいるから乗せてくれたんだ、ジョンすごいなあ」って思った。
「自分の店持って、初めての夏休みで。休んだら休んだだけ、稼ぎなくなるけどそれでも好きなように休めるのが嬉しくてね。ずーっと忙しく働いてたから。」
はじめての、長い長いなちゅやしゅみ。
「これは遊園地。ほら、お父さんゴーカートでサングラスかけてパイプくわえてるよー」
「お父さんはカッコつけだったからねー」
父の頭を揉む。
「これは、八丈島。小学三年のとき。」
「あら、三年だった?八丈島はイマイチだったわねえ。」
「この時、初めて腕時計買ってもらって嬉しくて、ほら一生懸命時計見せてるでしょ」
父と母の写真は私が撮った。二人ともシュッとしている。
「わあ、お母さんかっこいいね」
と言うと母が
「そうよお母さんかっこよかったの」
と真顔で答えた。
私が撮った二人の写真。キスしてるのもあったけど、母は見ないふりをした。ような気がした。
小舟の時間。
思い出のクルーズ。
「賑やかだったでしょう〜?また賑やかにしに来るからね〜休んでおくのよ〜」
「おとさん、またね〜」
また明日。また明日も小舟のクルーズ。
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