よるべない日々②
2020年4月7日緊急事態宣言。
店が閉まり、街に人気がなくなりスマホばかり見る日々。
ものすごい勢いで「配信」が始まった。
配信演劇、配信ライブ、配信大道芸、配信ワークショップ。
ツイキャスやインスタライブでパフォーマンスやおしゃべり配信をする人も増え、打ち合わせや稽古、飲み会までもがzoomになった。
無観客開催が普通になって、「有観客」という不思議な言葉が生まれた。
今まで大道芸や舞台やライブハウスで当たり前のように「生」で「有観客」でやってきて、「配信」なんて縁のないものだった。
ツイキャスやインスタライブでラジオみたいに喋るのなんて、きっと向いてない。
でも、やり始めた。
やってみようと思ったのだ。
「今なら何やったって、転けたって恥ずかしくないじゃん」
zoom飲み会で友だちが言った。
喋らない人がキャスを始め、アナログな人がSNSを始め、飲み屋さんはテイクアウトのみならず無観客配信まで始めたりした。
みんなみんな、何とかして人と繋がろうとしていた。
家の中から何とかして表現をしようとしていた。
そんな中で私も、拙いながらもツイキャスやインスタライブを始め、配信フェスにも参加した。
初めての配信フェスはあやちクローデルが企画した「お座敷フェス」。
zoomで打ち合わせからリハーサル、本番配信までを行った。出演者は皆自宅からの配信。
私は自分の店に暗幕を張って舞台とした。
出番が来たらひとりでパソコンに向かって演技を始め、
「果たしてこれは配信されているのか。音楽は聴こえてるのか。私は誰も見てないのにひとりで暗い部屋で人形劇をしているのではないのか」
という不安をずっと抱えたまま物語を演じ、配信を終えた。
お客様からのコメントと司会のあやちの言葉で無事配信されていたことを知り、ひとまずホッとした。
本番前も、本番中も本番後もひとり。
前後の人の作品を観ている間は何となく繋がってる感があるものの、配信が終わってzoomが切れたらぽつんとひとり。
お客さんに挨拶したり、スタッフさんや他の出演者さんとちょっとおしゃべりして、荷物を持って帰路に着く。段々フェードアウトして終わってゆくのが当たり前だった。
配信はカットアウト。ブラックアウト。
不思議な感覚だった。
7月。映像会社で働いているアニーちゃんが
「なんか配信の企画やってみないかって社長に言われたんすけど、村田さん何かやりませんか?」
と声をかけてくれた。
アニーちゃんは元「紫ベビードール」というバーレスク集団のパフォーマー。
以前私が開催していた「よるべナイト」というイベントではずっとMCを務めてもらっていた。
彼女の真っ直ぐな明るさとユーモア溢れるMCはともすれば重くなりがちな私の世界を絶妙に照らしながら観る人へ届ける架け橋のようだった。
「よるべナイトを配信でやる、みたいな感じでどうですかね」
アニーちゃんが言った。
躊躇はあった。
もう随分と長いこと自主イベントは作っていなかったし、両親のジュエリーショップを継いで二足の草鞋を履いてからはなんだか自分が半分引退したような気持ちになってもいた。
でもまあ、やってみるか。
先の見えない混乱した世の中で、閉じこもってうずくまっていても仕方がない。
「ちゃんとやらなきゃ」なんて思わなくたっていい。
こんなカオスの中で私がちょっと転けたって別になんてことない。
そんなふうに「よるべない配信計画」は始まった。