【エッセイ】 また夏が終わる
今年も夏が終わる。
今の会社ではまだ有給も取れず、旅行も行けなかったし、夏らしいことをひとつも出来ぬまま夏が終わろうとしている。
そんな八月の終わりに金曜ロードショーで『天空の城ラピュタ』を観た。普段からテレビはあまり見ないが、金曜ロードショーで映画を観るなんて何年ぶりだろう。
1986年、今から38年前のアニメ映画。
少年時代に観て心が躍った記憶があるが、今観ても完璧な映画だった。
少女が空から降ってくるというオープニングからすでに心を掴まれる。少年(パズー)と少女(シータ)の冒険劇。そこに海賊、軍隊、飛行石、巨神兵、天空の城というファクターが加わればワクワクは止まらない。
舞台のモデルがイギリス、ウェールズ地方だということは後から知ったのだが、少年時代ラピュタを観て、世界のどこかにはこんな街並みがあるかもしれないと思いを馳せたものだった。
自分の国はおろか、自分が住む街からもほとんど出なかった少年時代の私にとって、ジブリ作品やハリウッド映画は広い世界を覗く望遠鏡であり、過去や未来を飛び回るタイムマシンでもあった。
年を取るのは素晴らしいことだと思っているが、寂しさを感じることもある。単純に身体の衰えを感じるのは寂しいものだし、感情ですら鈍感になっていく気がする。笑ったりワクワクするようなことが大人になると圧倒的に少なくなった。出来なかったことが出来るようになる喜び、それを感じるための挑戦や冒険よりも出来ていたことが出来なくなる悲しみが増えてゆく。
それでも大人になって良かったことはたくさんある。ひとつは広い世界を実際に見られるようになったことだ。
「その気になればどこにだって行ける」と言う子供の頃に夢想したことを、物理的に体験できるから。
何年か前にカンボジアに行った。
遺跡群をいくつか回り、その中でもラピュタのモデルになったとも言われる『ベンメリア遺跡』を見た時は、子供の頃に観たラピュタを想起してワクワクした。
海外旅行はワクワクに溢れている。
映画の中でしか知らなかった冒険を、実際に体験出来るのだ。
仕事における達成感や充実感はたしかに大切だが、私はそれ以外の冒険も大切にしたい。
その意味でこの夏は何の冒険も出来なかった。来年こそは有給でも使いどこかへ行くという宿題にしよう。
人生も夏休みもいつかは終わる。
私もご多分に漏れず、夏休みの宿題は溜め込んで最後に泣きを見る子供だった。
冒険をするという人生の宿題は、元気なうちになるべく早く済ませたいし、この宿題に提出期限はないはずだ。