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代田橋にはふたりの母がいる。


ひとりは本当に母と歳の近い、おでん屋のお母さん。
ひとりは私より幾つか上なのかな?ギャラリー併設の立ち飲みやのお二人いる店主さんのおひとり。

駅を降りてすぐの所に、赤い提灯と、暖かくなってきたこの頃は開け放たれるビニールカーテンの向こうには、10人は座れないような小さなL字型のカウンター。
ほろほろになっていい顔色をしたおでん達が目の前で諸手を挙げている。


「いらっしゃい」
こんなに自然に、初めて行くお店で接せられた店主さんは初めてじゃないだろうか。
表も裏もなくって、昨日も一昨日もお喋りをしたような、この感覚をなんて言えばいいのだろう。
温度が、すごく自然。肌に合う。一目惚れ。
なんだか恋の話みたいになってきたけど、恋ではなくて友情でもなくて店主さんなんだけども、ふわりと、もう私はその「いらっしゃい」で、そのひしめき合うカウンターの椅子に、一瞬で居心地が良く座れたあの日。


“川向う”という言い方を代田橋に来て初めて知った。その川向うの市場の入り口に其処はある。
どんなお店もほとんどは怯まず飛び込んでいけるのだけれど、其処はもしかしたら怯むかもしれない。縄のれんの向こう側にいる人たちは皆が知り合いで、一見の自分は一瞥されるかもしれない。ドアウェイ感にもしかしたら、とか、色々なんだかぐちぐち悩む前に、
気になったのならその引き戸を開いて。

その立ち飲み屋の店主さんのおひとりは。
付かず離れずのいい距離。やんわりとほんわりと話しかけてくれる眼鏡の奥の瞳はやっぱり自然な笑みで、湿度で。
怯んだ一歩の向こうでほろ酔いになってきたら、あら不思議。今夜も気づいたらお店の中の皆で話してたりする。あっちの輪で話したり、となりの人と話したり、また違う輪に混ざったり。
色んな人といろんなことを話すのが楽しくて仕方がなくて、
今夜もお酒をそうして飲み過ぎる。

#このお店が好きなわけ

#代田橋

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