定価をお客様に先に伝える効果
昔、娘がまだ小さい頃、横浜のコスモワールドで白人の大道芸を観たときのこと。
火がついている棒を回したりとかそういうスタイルだったのですが、かなり熟練した人で、娘はもちろん僕と妻も夢中になって、小一時間最後まで観てしまいました。
で、最後の方でその白人大道芸人が「投げ銭箱」のようなものを取り出して、一輪自転車に乗って、ちょっとギリギリの芸をしながら、口上のようなものを始めたんです。
「私はこういう大道芸人として世界中を旅している」ということから始まって、
「やっぱりお金って必要だ」っていうことを子供にもわかるように説明し、そして
「でも、私はお金だけのためにやっているわけではありません。あなたたちの笑顔が好きなんです」みたいなことを言って、最後に「私はあなたたちを愛しています」って言ったんです。
その場で観客は200人くらいいたのですが、「わー!!」って感じで盛り上がって、大拍手で終わったんですね。
そしてさらに、「私はお金のためだけにやっているのではありません。でも~、でも~、あなたは映画を1時間観たらいくらですか? 1500円ですか。今日は私の芸はどうでしたか? よろしくお願いいたします」みたいなことを言ったんです。
僕は200円くらいを置こうと思っていたのですが、はい、1000円札を娘と置いてきました。
でも、心の中では「すごく満足」だったんです。
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僕は商売をしているので、「お客様はどういう時に損をしたと感じるのか、どういう時だと満足していただけるのか」というのを毎日のように考えていまして、この時の経験というのがずっと頭から離れなかったんですね。
そしたら先日、池谷祐二『脳はなにげに不公平』を読んでいたら、こんな文章に出会いました。
レディオ・ヘッドが、ファンが「自分で決めた金額を支払って」曲をダウンロード出来るようにして、払いたくなければ一切払わなくても良いという設定だったのに、10数億円という収入を得た話をまず紹介しています。
この「無料でも良い状況なのに、なぜわざわざ私たちは支払うのか」という現象を、現在の心理学では「人は自分の中に理想像を持っている」と解釈するそうです。
善良で公平である自分のイメージを維持したいと欲するそうなんです。
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で、こういう実験があるそうなのですが、観光ボートの客をカメラマンが撮影し、それを観光後に販売します。強制ではありません。
値段を三つのパターンに設定します。
「15ドル」「5ドル」「好きな金額を払う」。で、それぞれの人たちに「定価は15ドル」と告げるんです。
結果は15ドルでの購買者は23%、5ドルでの購読者は64%の人が買いました。
で、「好きな金額を支払う」の購読者は55%だったそうなんです。そして無料でも良いのに平均が6、4ドルだったそうなんです。
はい。「好きな金額を支払う」という設定が一番売り上げが良かったということなんです。
これ、すごい結果だと思いませんか?
でも、僕は横浜で大道芸人に「お金を払わなくても良いのに、でも1000円を渡してしまった」という経験があるのですごく納得なんです。
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こういう「無料でも良いのにちゃんと支払う気持ち」って、例えば「無人の神社でおみくじ200円と書いてあったら、たぶん全ての人が200円入れる」とか、「道路沿いに無人の野菜売場で払わない人はまずいない」とかで経験していて、なんとなく気持ちはわかりますよね。
でも「定価を先に告げておいて、好きな金額を支払ってもらう」ということにすれば、それが一番売り上げが良いっていうのは驚きですよね。
さらに自分でも経験したのでわかるのですが、「ちゃんとそれなりに払ったら、すごく満足感がある」んです。
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僕は常々、「経営側の方も、お客様の方も、どちらも大満足」というシステムや金額設定はどうすればいいんだろうと考えています。
「定価を伝えて、お客様に支払金額は任せる」って、実は「お金を受け取る方」も「お金を支払う方」も、どちらもハッピーになれるすごい落としどころなのかもしれませんね。
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この記事は投げ銭制です。この後、オマケで僕のちょっとした個人的なことをすごく短く書いています。今日は「暮らしの手帖」のことです(何度も言いますが、大したこと書いてません)。
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