「留学したいのですが」という質問に答えました。
※水曜日は質問に答えています。
【質問】
初めまして。僕は今24才で、あまり有名ではないIT系の会社で働いています。会社で、やっぱり英語が出来た方が有利だと思うことがよくあります。今の会社でずっといてもそんなに明るい未来があるとは思えないので、会社を辞めて1年くらい留学してみようかなと考えています。
林さんはイギリスとブラジルに住んでいたことがあると読みました。その時はどうでしたか?行って良かったですか?僕が留学することで何かアドバイスはありますか?
【答え】
僕は早稲田のニ文だったのですが、全く授業に出てなくて、20才の時に退学しました。
それで音楽の仕事がしたいと思い、でも高卒では大した職種にはつけないので、ロンドンに行って、数年住んで、現地で音楽の友達をたくさん作って、音楽の仕事なんかをして、英語がペラペラになって、それで日本に凱旋帰国しようと企みました。
バイトで60万円貯めて、親が餞別で20万円くれて、ロンドンに向かいました。
僕はネオアコースティックという音楽が大好きだったのですが、1989年のロンドンはもうネオアコは終わり、アシッド・ジャズという音楽が大流行していました。
それで僕は日本で調べておいたレコード屋とかDJバーとかクラブに行って、すごく勇気を出して話しかけたりしたのですが、おもいっきり無視されました。僕の英語が下手なのもあったと思うのですが、人種差別も理由だったと思います。
それでイヤになって2週間くらいで帰りたくなったのですが、悔しくて英語だけでも上手くなろうと思って、英語学校に通うことにしました。
入学時のペーパーテストで僕はすごく上のクラスに入れられました(実は英語の勉強は前もってすごくしてたんです)。でも、クラスではスペインの現役新聞記者とか、大学に通いながら英語を習っているアラブ系の人とかがいて、授業中に討論が始まったりして、「これは無理」と思い、先生に言って、二つくらいランクを下げてもらいました。
「日本人とは友達にならない」って決めてたのですが、やっぱり仲良くなってしまって、中にはバイトしながらロンドンに住んでいる人もいたので色々と話を聞いていると、ハンバーガー屋とか清掃の仕事くらいしか出来ないということがわかってきて、そんなことをするためにロンドンでいるんじゃないもんなあと思い、2ヶ月で日本に帰ってきました。
この経験をいろんな人に後で話したら、「NYだとアジア人でももっと受け入れてくれるよ」とか「現地にその国の友達をあらかじめ作ってから行かなきゃ無理だよ」とか色々と言われました。
その後、「ボサノヴァのバーをやる」と決めて、東京のブラジルレストランで2年間働きました。その2年間、東京在住で上智で言語を勉強しているヴィセンチ・メンデスというブラジル人からプライベートレッスンでポルトガル語を学びました。僕のポルトガル語は「日常会話に困らない程度」です。新聞や難しい本は読めませんし、テレビのニュースも「知らない事件」なら意味がつかめないくらいです。
ブラジルはリオ・デ・ジャネイロに2ヶ月滞在しました。東京のブラジルレストランで知り合ったニルゼ・カルヴァーリョというミュージシャンが「ブラジルに行くんだったら、私の実家に泊まりなよ。ずっといて良いよ」と言ってくれたので、お言葉に甘えて2ヶ月間居候しました。
彼女は現地ではかなり有名なミュージシャンでいろんなところに一緒に行って、すごく楽しかったです。ブラジルはとにかく人種偏見がないので楽でした。いろんなパーティやライブに行きました。
最後の方で「ポルトガル語ちゃんと勉強しようかな」と思いつき、新聞で「プライベートレッスンやるよ」って広告を出している人のところに行ってみたり、学校に行ってみたりしたのですが、東京で教えてもらったヴィセンチの授業の方がはるかに水準は上でした。
※
さて、あなたの留学は想像するに「語学留学」なんですよね。1年だとどうでしょうか。
日本人の友人を絶対に作らない、インターネットで日本語の記事を絶対に読まない、と決めたとして、日常会話に困らなくて、テレビや映画が字幕なしでわかるくらいにはなるって感じでしょうか。
まず「度胸」はつきます。外国語や外国人が怖くなくなります。
でも正式な仕事には使えないですよね。
例えば「外国人のお客さまが多い六本木のバー」とかでなら接客のバイトが出来るかもしれないです。あるいは外国人が多い高級な和食店で働くと、マネージャークラスにしてくれるかもしれません。
普通の会社だと「あいつ英語が出来るよ」というくらいで、「外国人から電話がかかってきたらお願いされる」とか、「外国人が会社に来たら相手役を頼まれる」って感じでしょうか。
ちなみに僕はポルトガル語のちょっとした音楽記事や歌詞なんかを翻訳できるようになって、そういう音楽の仕事をしたいと企んでいたのですが、それってそうとう難しいと言うことに気がつきました。
もちろん書いてある大まかな内容や歌っている大体の意味はわかるのですが、「仕事にする」となるとブラジルの大学で本腰を入れて、文学や歴史を学ばなきゃ無理だなと思いました。
※
西崎憲さんという翻訳家/作家はご存知でしょうか?
西崎さんは高卒で海外旅行に一度も行ったことないのですが、ヴァージニア・ウルフやヘミングウェイなんかを翻訳しています。
さらに日本翻訳大賞という賞も立ち上げてもいます。
海外経験はほとんどないけど、英語を使った仕事をしているっていう人も僕はたくさん知っています。
僕のポルトガル語も東京で優秀なブラジル人に専門的に教えてもらった時に一番上達しました。
ブラジル本国では「俗語」とか「それっぽい言い回し」は身に付きましたが、結局、本や新聞は読めるようにはなりませんでした。
もし本気で「仕事のために英語を学びたい」ということでしたら、日本でも学べます。海外にずっといるけど日本人と遊んでいてほとんど英語は話せないという日本人も本当にたくさんいます。
※
でも、僕は「若い人が海外に一度は行ってみる」のをオススメします。
観光旅行ではなく、現地に住んで、近所のスーパーマーケットに通って、日本人ではない相手と日本語ではない言葉で語り合ったり、愛し合ったり、あるいは時には喧嘩をしたりするのをオススメします。
とにかく「すごく度胸がつく」し、「ちょっとした失敗なんて怖くなくなり」ます。
世界にはすごくいろんな人がいて、いろんな考え方や生活をおくっていて、自分の今までの人生はなんてちっぽけだったんだろうと、何度も何度も気がつきます。
会社に限界を感じているのでしたら、すぐにでも辞めて、その足で成田に向かってください。
それで戻ってきて、「良い会社に再就職できない」ってこともあるかも知れませんが、たぶんそんなことくらいどうでも良いやって気持ちになっていると思いますよ。
僕がブラジルで居候していたニルゼ・カルヴァーリョの歌です。
※質問、募集しています。このシリーズ、書籍化のお話をいただきました。「人生相談的な本」にしたいとのことです。そういう質問をいただけたら助かります。makijobim★yahoo.co.jp(★を@にしてください)にメールしてください。
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