デザイナー30才限界説とアントニオ・カルロス・ジョビンのこと
デザイナー30才限界説というのはご存知でしょうか?
友人のグラフィック・デザイナーに聞いた話なのですが、デザイナーという職業は30才までの間に「どんな人でも知ってるあの仕事、あのデザイン」っていうのを残せないと「才能がない」のだそうです。
そして、運良く30才までに「その誰もが知っている自分のオリジナルなスタイル」というのが確立できたとします。でも、30才以降は「さらにまた新たな独自なスタイル」なんていうものは出てこないのだそうです。
だから、30才以降は、その20代の時に手に入れた自分のオリジナルなスタイルを「ブランド化」して「会社組織」にして、「拡大再生産」するしか方法はないのだそうです。
この説、なんとなくわかるような気がします。
世界をひっくり返すようなアイディア、全く今まで見なかったようなスタイルって、おそらく「20代後半までの若い間」にしか出てこないです。
※
ところで僕はアントニオ・カルロス・ジョビンという作曲家がすごく好きなのですが、彼は決して特殊なタイプの作曲家ではありません。
ブラジルの伝統音楽や小さい頃から勉強したクラシック音楽、そしてアメリカのジャズやポップスなんかを聞いて、それらの影響を受けた作品を発表しています。
もちろん、ジョビンの作品の中に「ジョビンらしさ」はありますが、それは「奇抜なアイディア」ではなく、「ジョビンらしい音楽への真摯な姿勢と、ジョビンならではのロマンティシズムと、美しい世界の切り取り方」です。
そして、ジョビンが多くの美しい作品を生んだのは、主に30代から40代の間です。もちろん、60才を越えても、誰にも真似できない美しいアルバムを2枚も発表しています。
多くのロックやジャズのアーティストは20代に「今まで見たことのないスタイル」で登場して、ある者は死に、ある者は古くなり忘れ去られます。
しかしジョビンの音楽はいつまで経っても古くならないし忘れ去られません。
それはたぶん、ジョビンは「世界をひっくり返すようなアイディア」や「今まで見たことなかったようなスタイル」なんかに全然興味がなく、ただただ「自分にとって美しいメロディとハーモニー」を追いかけたからのように思います。
ジョビンが40才の時に、ずっと憧れだったシナトラと共演できて、嬉しくてしょうがないという、常にクールだったはずのジョビンらしくない表情を何度も見せる素敵な映像です。
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