刑法のおすすめ基本書・判例集・演習書リスト
はじめに
初めまして、「司法とうさぎ」と申します。「うさぎ」と呼んでください。予備校を全く使わずに京大ローを上位修了し、司法試験に一発合格しました。
各教科のおすすめ基本書・判例集・演習書リスト、第2弾は刑法です。私が受験生時代に実際に使用していた教材を紹介します。
刑法は受験生の間での定番の本が揃っているので、民法ほどたくさんの本を読まなくても、コスパよく学習を進められる科目だろうと思います。
基本書
・基本刑法1、2(大塚ほか)
おすすめ度:★★★★★
スタンダードな刑法の基本書です。司法試験に出題される可能性のある論点をほとんどカバーしています。丁寧な記述で確実に読者を理解させます。説明に関してもクセがなく、共著の良い点が出ていると思います。二冊を通じて、ケーススタディ方式が採用され、事案の提示→理論的な説明→事案の解決、と論述順序が一貫している点も魅力です。
この本の長所は、基本的な判例がかなり丁寧に説明されている点です。ここまで判例を丁寧に説明してくれていれば、判例集は不要だ、と思わせられる程です。現に私は判例集はほとんど用いませんでした。
さらに、日本評論社の公式サイトから、設例を抜粋したpdfをダウンロードすることができます。これにより、このpdfを演習書として使い、基本刑法の記述を演習書の解答として用いることもできます。基本書でもあり、判例集でもあり、演習書もあるという点で、刑法はこれ一冊で完璧!と言ってもいいほどです。
ただ、少しだけ理論的な説明がやや薄い場合がありますので、その点は補足が必要かもしれません。例えば、騙されたふり作戦に関する最判H30.3.22はほぼ結論のみが記されているだけで、理論的な観点はこの本だけでは分かりません(現に令和5年刑法に出題されました)。そう言った場合は、橋爪先生の本を読まれると良いと思います。
よく基本刑法を潰すことを疎かにして、他の応用的な書籍に進まれる方がいらっしゃいますが、これは避けるべきです。直前期に過去問検討ゼミを組んでいましたが、総論182頁設問3(防衛行為と第三者に関する事例)ができない同級生は意外と多い印象でした。これはかなり最近の過去問でも似た出題がされたことがありますし、ロー入試でも頻出です。基本刑法を潰していれば、その年度ではA答案は確実でした。
総合すると、この本を潰せばほとんど受かると言って良いほどクオリティの高い書籍ですが、より合格を確実にするには他の応用的な本をつまみ食いすることが望ましい、という本です。
・講義刑法学・総論(各論)(井田)
おすすめ度:★★★★☆
分からないことがある時に引くとしばしば助けてくれる本です。持っておくと良いです。総論は井田先生の独自の枠組みが展開されるため、アクが強く、この本から勉強を始めると痛い目を見るでしょう。
・応用刑法1(大塚)
おすすめ度:★★★☆☆
分からないことがある時に引くと稀に助けてくれる本です。持っておくと良いです。ただ、私が受験生のパラパラと読んだ感想としては、基本刑法とほとんど同じ内容を引き延ばしただけな気がしました。amazonのレビューは高いので、もしかすると、私の読んでいない範囲で有益な記載が含まれているかもしれません。
・刑法総論(各論)の悩みどころ(橋爪)
おすすめ度:★★★★★
分からないことがある時に引くとかなりの割合で助けてくれる本です。持っておくと良いです。私は刑法はコスパ重視なので、基本刑法で分かりきれない部分を補助してもらう、という位置付けでこの本を読んでいました。基本刑法を読んでてあれ?となった場合には、該当判例を悩みどころから引いてみると良いでしょう。かなり明晰に、分かりやすく分析されており、なるほどそう考えれば良かったのか!となるはずです。本試験でもこの本のおかげでバッチリ書けました。
基本刑法で基本を、悩みどころで応用を、とすればかなり高い問題意識に到達できつつ、通読するコストも下げられるのではないか、と思います。
判例集
・刑法総論判例50! (START UP)(十河ほか)
おすすめ度:★★★☆☆
刑法の入門書として使うこともできる判例集です。学部生のときに読みましたが、基本刑法に加えてこれを読む必要性はそれほどないと思います。基本刑法ですらとっつきにくいと感じた人はこれから読むのもいいかもしれません。
・刑法判例百選1、2
おすすめ度:★★☆☆☆
刑法は判例百選を読んでも徒労に終わることが多かったように思います。百選を読むよりは、基本刑法を始めとした定評のある基本書に当たることが良いと思います。
論証集
・アガルートの司法試験・予備試験 合格論証集 刑法・刑事訴訟法
おすすめ度:★★★☆☆
私の使っていた論証集です。個人的に論証集の役割は2つあると思っていて、1つは初学者段階において各論点についての答案の書き方を示すもの、もう一つは、中級者段階においてフォローすべき論点を示すもの(論点表)、です。いずれの段階においても使いやすい論証集だと思います。
ただ、どの論証集にもつきものですが、文章が冗長であり、暗記量が膨大になりがちであることには注意が必要です(これは誤りを避けるために判例を抜粋する形で記載していることが原因ではないかと思います)。論証集は便利な学習ツールですが、その限界を適切に理解することが必要だと思います。ここに書いてある文章をそのまま暗記して書いてもコスパが鬼のように悪いのみならず、合格はおぼつきません。
私は、各論点について自分が示す規範は、基本刑法をベースとしたオリジナルのものを使っていた(分量はアガルートの論証集の半分くらい)ので、最終的にはどの論証集を使ってもさして変わらない、と感じました。
基本刑法に完全準拠した論証集があれば使いやすいのになぁと受験生の頃からずっと思っていました。そういう教材が今度出版されればいいですね。
演習書
・アガルートの司法試験・予備試験 実況論文講義 刑法
おすすめ度:★★★★☆
初学者向けの素晴らしい演習書です。私が使用していた「工藤北斗の実況論文講義シリーズ」の後継作です。参考答案は流石工藤先生で、盗める点がたくさんあります。予備校本らしく、前作では少し微妙な記述もありました。改訂でそのあたりどうなったのでしょうか。参考答案はやや長めですので、2週目以降は、参考答案をどのように圧縮できるか、と考えるのも勉強になります。
・鬼のソクラテス!基本書攻略本(斎藤翔平)
おすすめ度:★★★★★
Bexaの斎藤翔平先生が出版された素晴らしいコンセプトのレジュメ。基本刑法に記載のある論文知識について、Q&A方式で確認してくれます。いわば論文の肢別本です。
従前の司法試験対策では、アウトプットの仕方は短答か事例問題の二択しかありませんでした。短答は論文対策段階で見るには細かすぎる知識が含まれているし、正解を選ぶという問い方も適切とは思われない(固く記憶しておかなくても選ぶことができる)です。一方で、事例問題は、様々な知識の集積であり、1つの知識を確認するには向きません(1つの知識だけが抜けていた、という状態で事例問題1題一題を復習対象にすることはどれだけ非効率的なことか、理解していただけると思います)。両者とも帯に短し襷に長し状態でした。
そんな中公開されたレジュメがこれです。見つけたときに衝撃を受け、すぐに購入しました。
類似のコンセプトの書籍として、アガルートから、アガルートの司法試験・予備試験 総合講義1問1答 刑法・刑事訴訟法という書籍が出版されています。こちらも大変良い本なのですが、アガルートの基礎講義受講者以外には、基本書攻略本の方に軍配が上がると思います。斎藤先生のレジュメは、基本刑法の項目・テーマに沿って作成されており、かつ、解答にページ番号が記載されており、基本刑法との親和性が極めて高いからです。
現にこのレジュメを購入してから知識の定着率が半端なく上がりました。本当に素晴らしいです。学習初期からこのレジュメが手元にあればもう一年早く合格したでしょう。
司法試験のまとめノートは論証集ではなく一問一答形態をとるべきではないかという気すらします。まとめノートの新しい姿を見せてくれた本です。
コンセプトだけでも斬新で、手放しで賞賛したいところですが、pdf形式のみならず、テキストファイルとしても販売してくれたら尚嬉しいですね。このレジュメに必要な知識を加筆していけば、完全にオリジナルのまとめノートにすることができますから。
以上で刑法はおしまいです!
それでは〜